第零話 転生
歴史学者である俺、織田秀龍、25歳は、織田信長の次男、織田信雄の家系に連なる家の子孫だった。
妻と仲睦まじく暮らしており、子どもは残念ながらいない。
専門は戦国時代史。
中でも、長年研究してきたのが――本能寺の変。
明日、俺は本能寺の変に関する新たな論文データを発表する予定だった。
その前日。
研究室から帰る途中、俺は人通りの少ない路地裏に入り込んだ。
そこで、男に呼び止められた。
「おい。例の論文データ……どこにある?」
「……何のことだ?」
「とぼけるな。お前が明日発表するやつだ」
男の手には、見慣れない拳銃が握られていた。
……いや、日本だぞ?
なんで銃なんか持ってるんだよ。というかやばくね?
「答えろ」
「断る。あんたになぜ教えなきゃなんねぇんだ。」
別に格好をつけたわけじゃない。
ただ、答える理由がなかった。
だが――
パァン!
乾いた音が、路地裏に響いた。
そこで俺の意識は途切れた。
---
「おぎゃー! おぎゃー!」
……こりゃ誰だ。
うるせぇなぁ……。
せっかく寝てたのに。
「殿! 殿! 若君がお生まれになりましたよ!」
若君?
……どこの国だよ。
そもそも、誰のことを言ってるんだ?
ここ、どこだ?
妙に暖かい。
それに、身体が……変だ。
「…………?」
なんとなく手を動かしてみる。
ぷにっ。
…………。
手、ちっさ。
「…………え?」
もう一度見る。
小さい。
ものすごく小さい。
指も、手のひらも、何もかも。
「え?」
声を出そうとした。
だが、口から出てきたのは――
「おぎゃあああ!」
……え?
俺、今泣いた?
いや、違う。
待て。
まさか。
そんなわけ――
「おぎゃー! おぎゃー!」
……俺だ。
泣いてるの、俺だ。
「…………は?」
混乱している俺を抱いているのは、一人の女性だった。
長い黒髪。
すごく美人だ、結婚する前なら惚れ込んで、徹底的に口説いてたかもしれない。
そして、どう考えても現代では見ないような衣装――着物を着ている。
そこへ、若い男と、もう一人の女性が入ってくる。
若い男は、部屋に入るなり女性へ駆け寄った。
「きつの!きつの!無事か!」
「殿、そんなに慌てなさるな。無事ですよ」
もう一人の女性が、呆れたように笑う。
「しかしな、帰蝶!きつのが子を産んだのだぞ!しかも男子じゃ!初めての子じゃ!気持ちが高ぶっても仕方なかろう!」
…………。
帰蝶?
今、帰蝶って言ったか?
俺は思わず、その男の顔を見上げた。
若い。
だが、その顔にはどこか見覚えがある。
歴史資料で何度も見た顔。
肖像画や復元図で、何度も何度も確認した顔。
まさか。
いや、そんなはずはない。
だって、そんなことがあるわけ――
「ほれ、殿。若君をご覧ください」
「おお……!」
男が俺の顔を覗き込む。
その目は、嬉しさで輝いていた。
「なんと可愛らしい……!」
そして、その男が口にした。
「我が子か……!」
俺は凍りついた。
帰蝶。
殿。
若君。
そして、この男。
……まさか。
俺の頭の中に、一つの名前が浮かんだ。
織田信長。
「…………」
いやいやいや。
待て待て待て。
俺はさっきまで令和の日本にいたんだぞ?
論文を発表する前日に殺されて――
目を覚ましたら赤ん坊。
しかも、目の前にいるのが織田信長?
「……おぎゃ……」
思わず、また泣き声が漏れた。
信長は嬉しそうに俺を抱き上げる。
「見よ、帰蝶。立派な男子ではないか!」
帰蝶と呼ばれた女性も、優しく微笑んだ。
「ええ。殿、とても元気な子です」
「うむ!」
……待て。
じゃあ、俺は一体誰なんだ?
織田信長の子供?
いや、俺が知っている歴史では――
信長の子供は、嫡男の信忠、信雄、信孝……。
ん?さっき、「はじめて」と言っていた。
「…………!」
頭の中で、一つの可能性が浮かんだ。
もし俺が本当に織田信長の子として生まれたのなら。
俺はこれから、歴史そのものを内側から見ることになる。
しかも。
俺には、現代で歴史学者として積み重ねてきた知識がある。
本能寺の変についても。
織田家についても。
信長の人生についても。
そして――
自分の家系についても。
「……おぎゃああああ!」
俺は盛大に泣いた。
ただし、今度の涙は赤ん坊としてのものではない。
今日起こったいろいろなことに対する、別の意味での絶叫だった。
初投稿です。語彙力や文章力が貧弱で、読みにくい文章だったり、なにか歴史知識を間違っているところがあるかもしれませんが、よろしくお願いします。




