第31話:新章開幕!特任監査官の神戸帰還と、内藤重工業の黒い台帳
警視庁の三菱『14式特殊装甲輸送車』には、赤色灯もドアの旭日章(警察章)の紋章も配置されていなかった。車体はグレーの下地塗装のままで、後部サスペンションは、貨物室で揺れる3トン半のデッドウェイト(死荷重)を支えるために工業用強化ゴムのブロックで補強されていた。
車両が神戸特殊作戦センター――第7突堤の廃墟の上に建てられたプレストレスト・コンクリート製のバンカー――の第3セキュリティドックを通過した瞬間、ノーパンクタイヤが砂利の上で鈍い摩擦音を立てて悲鳴を上げた。車両が停止した時、敷地の地面はディーゼルエンジンによって振動したのではなかった。極寒の固定化によって、その動きを完全に止められたのだ。針の太さほどの霜の層が、装甲車の車軸を中心として同心円状に広がり始め、大阪湾の暴風雨がアスファルトに残していった塩水の水溜まりをピキピキと引き裂いていった。
メタクリル樹脂製の管制塔の向こう側で、兵庫県機動隊の2人の隊員が、湯呑みを口元に運んだまま動きを止めた。彼らが交わした視線は、軍事的なパニックによるものではなかった。それは深い職務上の嫌悪感であり、一小隊全体の夜勤シフトを完全に破滅させたあの「厄介な案件(書類)」が戻ってきたことに対する、現場公務員の底黒い怨念だった。
当直警察官:――タブレット端末のデジタル移送命令書をフラットな声で確認しながら――「――おい、この対象(被疑者)は府中の『処分済備品台帳(死亡名簿)』に載っていたはずじゃなかったのか? 県の官報では、線路の惨事の後にその公的人格は消滅したと発表されていたぞ。習志野の精鋭を溶かし、地下4階の連中を殺したのって、こいつだろ?」
警部補:――キーボードの上にタバコの葉のクズを吐き出しながら――「国家緊急事態に伴う『復職(休職解除)』だ。リク知事が、横須賀で公用車が凍りつく直前の火曜日に採用申請書に判を押しやがった。これで完全に公安職の俸給台帳へ組み込まれたわけだ。一般職の任期付職員、公安職俸給表(一)の適用。予算科目のコードを見てみろ。――『特任都市事案監査官』だ。あの異常体が、内務省(警察庁)の身分証をぶら下げて、勤続手当(定期昇給)をむしり取りに階級組織の特等席へ収まったんだよ。輸送車をあまり凝視するな。あの黒い泥が一度でもお前のブーツの底に触れたら、今会計年度の残りを亜鉛のバケツの中で障害年金をもらいながら過ごすことになるぞ」
三菱製装甲車の気圧ハッチが、アンモニアと濡れた段ボールの臭いを伴う濃密な白い蒸気を引きずりながら、油圧のシステム音とともに開いた。
山田は徒歩で降りてきたのではなかった。彼は硬質で重々しい歩幅で、玄武岩の胸に、周囲の段ボールがすでにケイ酸塩樹脂によって石化しつつあるあの教職互助会の箱を抱きしめたまま、ドックの床へと滑り降りた。唯一残された綺麗なレンズが、作戦センターのコンクリートブロックを冷酷に反射した。彼の背後では、リチウムバッテリーを毎分3000回転で駆動させて熱手袋を摂氏40度に維持している内務省の『11式熱防護服』を着用した2人の処理班が、5キロの鉛の南京錠でハッチの障壁を密閉した。「非常勤の怪物」は神戸へ帰還し、彼の執務時間は地下2階で開始されようとしていた。
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【内藤ファイル:贈収賄の幾何学】
山田がバンカーの技術区域へと収容される一方で、地方政府の監督官室では、神戸の惨劇のもう半分の真実を説明する最高機密ファイルが開かれていた。――『内藤慶次』。
内藤は、背中に鯉の刺青を彫り、会計のミスで指を詰めるような、いわゆる一般的な暴力団員ではなかった。彼の名前は2011年以降、商業登記簿に『造集組』(後に『内藤重工業』へと改称)の代表取締役として記載されていた。それは産業用浄化槽の清掃を手がける3次下請け会社から始まり、純粋な「予算編成のハッキング(財務操作)」の歴史を通じて、関東・関西圏のすべての港湾湾岸のコンクリート利権を支配するまでに上り詰めた怪物企業だった。
・2018年:六甲アイランド仕様書の改ざん
国営建設会社の計画的倒産(誘導倒産)の後に、内藤は六甲人工島の海底基礎補修に関する独占的契約(特命随意契約)を獲得。彼はコンクリートに、関西圏の火力発電所から出た未承認のフライアッシュ(規格外の石炭灰)を混入し始めた。原材料費の40%削減によって生じた裏金は、地方警察の財務部門への「県警互助会年金基金への寄付」という名目で還流された。
・2022年:神戸ヤクザの吸収
港湾の荷役権を巡って地元の広域暴力団と抗争を起こす代わりに、内藤はその幹部たちを「建設現場の安全管理監査役(顧問)」として自社の給与台帳(雇用名簿)に登録した。釜山港から持ち込まれる密輸武器や覚醒剤は、エポキシ樹脂の重量カモフラージュの下に隠され、同社のミキサー車の内部で移動し始めた。こうして神戸港は、財務省の監査官(査察)から完全に不可視の領域となった。
・2025年:黒色ケイ酸塩の独占
港湾で最初の微小な熱的異常(局所冷却)が発生した後、内藤は氷点下20度以下でもひび割れを起こさずに硬化する唯一の特殊改良セメント『C型黒色ケイ酸塩』の特許を取得。寄生体の初期株が放つ極寒によって神戸の防波堤が海に溶解することを恐れた国土交通省は、内藤を「国家安全保障上不可欠な重要インフラ事業者」に指定した。その日以降、国会(国会審議)は彼の承認印なしには、港湾建設の予算を1円たりとも承認しなくなった。
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情報要約:
内藤は兵隊(暴力団)を使って神戸を支配しているのではない。彼は、地盤の結晶化による海軍基地やコンクリートコンテナターミナルの沈没を防ぐ「唯一の防寒セメント」の供給を完全に独占しているからこそ、ここを支配しているのだ。彼は粗悪なコンクリートと錆(インフラの腐敗)を、この県の唯一の法へと作り替えた。
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内務省の計画は、冷酷かつ極めて合理的(役所的)なものだった。新採用された「国家公務員・山田武」を使い、内藤の請負企業に対する『特例都市事案技術監査』を実施すること。もしこの怪物が、自らの第一級危険手当を守り、定期昇給を確定させるためにゼネコンの独占体制を破壊(監査)してくれれば、国家は防衛費の臨時予算を1円も支出することなく、湾岸の支配権を奪還できる。
地下2階の奥底で、山田の硫黄のビー玉のような黄色の眼球が、官報(公務手帳)の最初の職務命令へと固定された。
『第7突堤における技術監査。対象事業者:内藤重工業。』
【作者より一言】
第31話をお読みいただき、ありがとうございます。
ここから新章『第3章:首都圏監査・公務員ハンター編』がスタートします!
横須賀での最悪の決戦を経て、まさかの「国家公務員・特任都市事案監査官」として現場(神戸)へ復職した山田先生。深夜手当や定期昇給のために公務としてヤクザや腐敗企業を仕留めに行くという、究極の「お役所ディストピア」が幕を開けました。
そして、今回の敵となる内藤慶次。これまでの肉体派の怪物とは違い、予算操作、未承認灰の混入、ヤクザを顧問として雇用、そして特殊セメントの特許独占という、システムをハッキングして国家を脅かす「白い巨悪」です。
内務省の「公務員を使って、身内の予算を使わずに利権を潰す」というトカゲの尻尾切り作戦に、山田先生の黄色の眼光が光ります。最初のターゲットは内藤重工業の第7突堤!
「ヤクザを顧問雇用する内藤のリアルな悪党っぷりが最高」「山田先生が完全に冷徹な監査マシーンになっててワクワクする」など、皆様からの感想コメント、評価ポイントやブックマークでの応援をぜひお待ちしております!
次回、第32話、第7突堤への「強制立ち入り監査」が始まります。よろしくお願いいたします!




