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不穏な夜

キーンコーンカーンコーン


放課後を知らせるチャイムが鳴った。

その瞬間、教室の空気が一気に緩む。


「終わったぁ〜!」

「今日部活だるいな〜」

「帰りコンビニ寄ろうぜ」


あちこちで声が上がる。

椅子が引かれる音。

カバンのチャックを閉める音。

遊佐野翠ゆさのすいもゆっくりとノートを閉じた。

そんな中、斎藤花さいとうはなは、チャイムが鳴った瞬間に立ち上がっていた。

やけに早い。

翠は少しだけ眉を動かす。


「花」


声をかけると、花は勢いよく振り返った。


「あっ、翠!」

いつもの明るい声。

でもどこか急いでいるようにも見える。


「もう帰るの?」

「うん、早く行きたくって!」


花はカバンを肩にかけながら言った。

その動きは、いつもより少しだけ早い。


「そんなに大事な寄り道なの?」

「まぁそんな感じ!」


花は少し笑った。

でも、その笑顔の奥にほんの少しだけ落ち着かないものが見えた。

翠はそれに、少しの疑念を抱いた。

だが、そう深くは考えないようにした。

花は元々、じっとしているタイプではない。


「あ、そうだ!」

花は思い出したように呟く。


「駅前の期間限定パフェ明日までなんだった!!

翠、明日の休み一緒に行こうよー!」

「いいよ」


翠は少し笑顔で答えた。

それに花は満足そうに頷く。

それから教室のドアの方へ歩き出した。

ドアのところで一度だけ振り返り、花は満面の笑みを見せた。


「また明日ね!パフェ楽しみ!!」


花は笑って教室を出ていった。

ドアが閉まる音がする。

そのあとすぐ、教室のざわめきがまた戻ってきた。

翠はゆっくりとカバンを持ち上げた。

窓の外を見ると、空はいつの間にか少し曇っていた。

さっきまで見えていた青空の代わりに、薄い灰色の雲が広がっている。

風も少し強くなっていた。

カーテンが、さっきより大きく揺れている。


(雨、降るかも)


翠はぼんやりと思う。

そのとき、廊下の方から誰かの声が聞こえた。

男子たちの笑い声。

その中に、聞き覚えのある声も混ざっていた。

水瀬碧だ。

翠は特に気にせず視線を戻す。

碧とは同じクラスだが、特別話したことはない。

クラスでも目立つ存在ではあるが、翠とは関わりがない。

ただのクラスメイトだ。

それにあいにく翠には、イケメンだのかっこいいだのにあまり興味がない。


翠はリュックを担ぎ、教室を出た。

廊下にはまだ多くの生徒が残っている。

部活へ向かう生徒。

帰宅する生徒。

友達と話しながら歩く生徒。

その中に、花の姿はもうなかった。

翠は階段へ向かって歩き出す。

窓の外では、雲がさらに厚くなっていた。





それから十時間後。

翠は布団の中で、泥のように眠っていた。

夜の静けさを破るように、ドン、と強い音が響いた。


「翠!!!起きて!!!!!」


肩を揺さぶられ、翠はゆっくりと目を開けた。

部屋は暗い。

カーテンの隙間から、街灯の薄い光が差し込んでいる。

ぼんやりした視界の中に、母親の顔が見えた。


「……なに?」


翠の声は寝ぼけてかすれていた。

母はどこか焦った様子で口を開いた。


「花ちゃん、まだ帰ってきてないんだって…、」



「……は?」



一瞬、意味が分からなかった。


亜美あみから連絡があって……。夜になっても帰ってこないらしいの」


亜美あみとは、翠の母親、遊佐野景子ゆさのけいこの親友であり、花の母親の斎藤亜美さいとうあみのことだ。


翠はスマホを開き、時計を見た。

午前二時。

こんな時間に外にいるなんて、花にしては珍しい。

いや、珍しいどころじゃない。

花は基本的に、ちゃんと家に帰るタイプだ。


「翠、何か聞いてない?」


母が心配そうに聞く。

翠は首を横に振った。


「聞いてない、、」


胸の奥に、小さな違和感が生まれる。


昼休み。

花がスマホを見たときの顔。

ほんの一瞬だけ、固まったあの表情。

ーーいや。

翠はすぐにその考えを振り払った。

考えすぎだ。

ただ帰りが遅いだけかもしれない。


「起こさせちゃってごめんね、、」

「……ううん、、」


母は自室に戻って行った。

翠は布団に戻っても、全く眠れなかった。

胸の奥で、何かがずっと引っかかっている。

嫌な予感。

理由は分からない。

でも、どうしても消えない。

静かな夜の中で、時計の秒針だけがやけに大きく聞こえていた。


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