風の追想片々録/繋がりゆく砕屑
鼓の口から直接聞く、新たな真実だった。
希たちがかつて暮らした「忍の里」はいわば“第2の里”であり、1つ目、いわゆる“開祖”による“第1の里”から分立したものだと言う。
「俺は勝手に“始まりの里”と呼んできた」
きっと自分しか知らない、鼓にとっては過去にしか存在しない場所の名。
誰に言うでもなく、心の最奥で抱え続けてきた宝の呼称だった。
「第2の里でどういう形で語り継がれてきたのかは俺も分からない。
ただ、俺が錦さんと手合わせすることになったのは、知らない人たちが多かったからだと思う。
間違いないのは、俺が“開祖”である夫婦に力を貸して、“始まりの里”に結界を張ったこと。
彼らの凄いところは、仙術の結界に独自の技術改良を加えたみたいで、今じゃ俺ですらその場所を特定するのが容易じゃない。前に話したの、覚えてるか?
その里には“緘楽聚”と、そう名づけられたということは縁さんから教わった」
「緘楽聚……もう1つの、忍の、“始まりの里”──」
困惑する希を脇目に、鼓が話を続ける。
「どこかの折に何らかの方法で結界を分け、お前たちの故郷である“第2の里”を別に作った。
そして俺が瀕死の状態で無意識に辿り着いたのが第2の里だったんだ。
今は確かめようがないが、俺の力に極めて近いのが第2の里の加護だったと言っていい」
「里の結界は、元は鼓のものだったのか……。しかも希の先祖にも会っていた──」
100年、あるいはもっと前から繋がっていた縁に、改めて鼓の持つ時間の長さを痛感する。
「そんなこと、初めて知った……」
「俺が忘れさせてたんだ。開祖の里と通じる笛の音があるなんてのは知らなかったが」
「……今、私に始まりの里の記憶を戻したのはなぜ?」
「お前らの覚悟に応えただけだ。
正直な話、忍術を独学で身につけるのは限界があるだろ。俺には教えられない。なら、適した者から教えを請うしかない。
まだ会えないのは誤算だったが、交信ができるなら──」
言葉を切る。希の怪訝な表情に気づいたからだ。
「──軌の力と対するのに、希の力が必要だってことだよ。
俺の言葉なんてもう信用ならないかもしれないけど」
「……本当に?」
「本当に」
「嘘だったらどうする?」
「何してくれてもいいよ」
「何でも?」
「どうぞ」
赫と碧が、揺らめきながら対峙する。
一方は逃すまいと、もう一方は飲まれまいと。
「じゃあまた、父さんと母さんに会って。その時は私も瑞も、もちろん望も一緒に」
永く、終わりの見えぬ時間の中で、最も穏やかな時を過ごした忍の里での日々。
榮の待つ家へ、五人並んで歩いた帰り道に肌を撫でた風を、未だに鼓は覚えている。
この少女もまた、見果てぬ未来に、再会の楔を打つのだなと、明確に継がれる血筋を感じる。
「俺なら殴るけどな」
「あーそうすれば良かった」
「おい」
三人で笑い合う。
きっとまた、必ず、幸福に満ちた暮らしが戻ってくる──。
少なくとも希は、そう信じていた。
*
うるさい。
うるさいなあ。
何だろう、この音は。
……ああ、そうか。心臓の音か。
悲しみの理由が少し、分かったよ。
もうすぐ、すぐそこ、なんだね────。
お読みいただきありがとうございました。
片々録、もうしばらくお付き合いください。




