風の城塞
言葉少なに朝食を済ませ、3人揃って東の剣山の麓へとやって来た。
僅かな草が地面に生えている他には何もなく、開けた場所になっている。
その真ん中で歩みを止めると、2人に背を向けたまま鼓が言った。
「久しぶりに使う技なんだ。ちょっと待ってくれ」
手首をこねてから空に掌をかざす。
生まれた沈黙が、風音を際立たせる。
彼を中心とした円が、砂埃を起こしながら次第に広がっていく。
通常の竜巻ならば漏斗雲が発生し、天に向かって地面の物体を巻き上げるものだが、今目にしているものはまるで違う。
3人を囲みながら吹く風が雲を巻き込み、天井を作っている。
「単純に結界張っても良かったんだけどな、こっちの方が緊張感あるだろ」
壁を成す風に向けて足元の枝を蹴り上げると、一瞬にして粉々に砕け散った。
「何……これ……」
「数回しか使ったことはないんだが、その割にはまあまあの出来だな。あとは旋だけでも数時間は保てる」
渦巻く天井の外ではどうやら、風の鳥が旋回しているようだ。
「これで思う存分暴れられる。────この“刄風城塞”の中で」
底知れぬ仙術の解放次第では、周囲に危害が及ぶ危険性もあることを見越して誂えたということだ。
万が一、後ろに吹き飛べば──……。
想像して唾を飲む。
望んだことだが、こうして目の前にしてみると、鼓の力の強大さを痛感する。
同等の力を持つという軌の恐ろしさも。
「いつでも来い。どこからでも、手段は何でも構わない」
動揺を隠すように、希はクナイを、瑞は刀を、それぞれ構える。
*
父と鼓が手合わせをした時の光景が脳裏によぎる。
敬愛する父と力比べすることはできない。けれど、父と対等に渡り合った鼓がいる。
何にも負けないために、超えたい、超えなくてはならない──。
地面を蹴って一目散に鼓の喉元へ潜り込む。
切っ先を向けたはずのクナイは右手に痺れを残して弾け飛んだ。
風か、鼓の手により飛ばされたか、──考えるだけ無駄だと即座に悟る。
反射的に左手で新たにクナイを抜き、勢いに任せて飛ばすも、いとも簡単に避けられる。
鼓の身体が少し仰け反ったところに瑞が斬りかかる。
両手で振りかざした長い刀身は、鼓が片手で操る短剣にあっさり止められ、そのまま押し返されると鼓はひらりと瑞の背後に回った。
避ける間もなく、衝撃とともに突き飛ばされ、地面へ倒れ込んだ。
ただ、地面に打ち付けられた痛みよりも、背が熱い。
言葉なく見下ろす鼓を、影が覆った。
上空に舞う希の突き立てた短刀が鼓の髪を掠める。
悔しげな希とは対照的に、鼓は至って涼しい顔をしている。
「──隠遁の術で気配を消したか。が、光の使い方がなってない。
大した戦意もねえな。希らしいよ」
言い終わるやいなや希の視界から消えた。
次の瞬間には足が払われ、世界がゆっくりと回転する。しかし受け身の体勢に切り替えるほどの余裕がない。
目を瞑って衝撃に備えるが、覚悟していたそれはなく、がっしりと身体を支えられた。
目を開けるとバツの悪そうな顔の鼓がいる。本人も思わず手が伸びたのだろう。
「あ、ありがとう……」
「いーえ」
希は慌てて離れ、体勢を持ち直す。
「もう終わるか?」
無慈悲に笑い、虚無的に問う。
*
「瑞! 大丈夫!?」
「平気だよ。
……ここに来て体術まで持ち込むのかよ」
「手段は何でもって言ったろ。条件は平等だ」
険しい表情の少年は立ち上がり、傍らに落ちる刀を拾う。
今まで培ってきた剣術の成果がこれかと、決意とは到底釣り合わない実力を恨めしく思いながら。
「どうだ? やっぱりただ倒しに来るだけなら俺には勝てないんじゃないのか? お前らの覚悟とやらはそんなもんか」
言葉に扇動されると、掛け合う声はなく、2人が同時に鼓へと向かっていく。
お読みいただきありがとうございました。
更新できて良かったです。
この辺の流れについては活動報告の方で書こうかなと思います。
次回更新は調整でき次第となりますが、引き続きよろしくお願いします。




