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いつか、風の吹いた意味を知るのなら  作者: Matsuoka


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番外編/一等兵の備忘録:それぞれの進路へ

 城の庭に春風が吹いている。


 春の花々の香りが混ざり、自身の役目を終えた花弁が舞う中、木漏れ日を受ける2つの人影があった。


「ついにお前も行くんだな」

「はい。お世話になりました」

「16の頃から、20年か」

「お互い歳取りましたね」

「色々あったな」

「本当に。濃い毎日でした。今後一生懸けても語り継げるかどうか分からないくらいに」

「今さらだが、何も祝日に発つことはなかっただろ。見送りたかったと言ってた奴も大勢いたぞ」

「敢えてですよ。盛大に送別会もしてもらいましたし、これが良かったんです」


 20年前、自分が迎えたあなたに、今度は送り出してほしかったんですという本音は、終ぞ言わぬままだった。


「まあ、お前とは今後も何かと手を組むことになるだろうから、しんみりしすぎんのも違うか」

「ええ、置かれる場が変わるだけ、なすべきことは変わりません」

「親も喜んでんだろ」

「もっと時間がかかると覚悟していましたからね。何の因果か、“あの人”のお陰で嬉しい誤算ですよ」


 口角が下がり、目を細めた。


 以前はもう1人分あった影──(つづみ)は8年前に退団し、新たな道を選んで出ていった。次に会うのは祝いの宴だと期待していたが、間もなく(つるぎ)の郷、正しくは“劒の郷となるはずだった地”が滅びたという報せが飛び込んできた。


 鼓の安否は未だ不明のままである。


 当時城内を駆け巡った衝撃は、(とぐる)たちの一切の感情を失わせ、その話題を持ち出すのに数か月を要するほどだった。


 一夜にして消えた劒の郷。


 原因不明が故に、一帯は立ち入り禁止区域として指定され、調査も進展しないままでいる。


「──郷は、あの人の生きる理由になり得たのでしょうか」

「さあな。目指すべきものを見つけたとは言っていたから、近くはあったんだろうが」

「僕はあの人がここに留まり続けていたら、と考えずにはいられないんです」

「……あいつには時間がありすぎる。だからこそ、ここに長くいるべきだったとは言い切れない」


 打ち明けられた直後は半信半疑だった鼓の時の進み方は、時間の経過と共に真実として顕現してきた。明らかに、周囲の者達とは老いる速度が異なっていた。


「手が届いたって、焦がれた光がそのままの輝きとは限らない。何が正解だったのかなんて、一生懸かっても分かるもんじゃねえよ」

「それもそうですね。

 ただ僕はまだ始まりとは言え、1つ悲願を達成しました。そしてまだやるべきことは遠くで光っています。僕はそこを目指します。

 大佐の夢はなんですか」

「夢? またお前は、空想じみた表現が好きなところは変わんねえな。

 そんなもんいつの間にか見んのも忘れてたが、そうだな、俺が目を掛けた奴等が路頭に迷わなきゃそれでいい」


 それはあなた自身の夢ではなく、他者への愛情から成る切望ですよと口を衝いて出かけたが、彼らしいと思うに留め、他の言葉を選ぶことにした。


「落ち着いたら調べてみるつもりです。あの日、郷に何が起きたのか。……──鼓さんの行方も」


 打撃を食らい意気消沈していた2人の共通の希望は、“鼓は必ず生きている”という幻想にも等しい願いだった。


「頼もしくなったな。郷の一件以来、動き辛くなった中でよくやってくれた。お前がいなかったら諜報部隊もとっくに消失していたと思う。後継の育成まで担ってくれて本当に感謝している。

 ……俺は面目ない限りだ」


 怒りと憎しみで駆動してきた男でも、“別れ”と一言で表せど同じものなど1つとしてない別離を幾度も繰り返してきたこともあり、疲弊を隠し切れなくなっていることは明らかだった。


「あの人には返し尽くせない恩がありますからね」

「お前だけじゃない。俺だってそうだ。あいつは変にひねくれてるから正面から受け取らないだろうが、もっと言っておくべきだったな」

「この際だから言わせてもらいますが、丸くなったような発言は止めてください。調子狂いますから」

「相棒が2人もいなくなるんだ。たまには浸らせろ」

「……そんな弱気で、──早々に死なないでくださいよ」

「死んだら真っ先にてめえに会いに行ってやるよ。地獄で待ってろ」

「僕が先に逝く前提ですか。しかも地獄行きと」

「ったりめーだ阿呆」


 ははっと笑って「それじゃあ暫く死ぬ訳にはいかないな」と言った。


 無音が知らせた沈黙を、去りゆく者が吸い込み、己の声に変える。


「では、そろそろ行きます」

「胸を張って帰ってくれ、(ゆかり)赫赫(かっかく)たる汝が故郷・忍の里へ」


 一礼し、上げた顔に浮かべた表情を遂が見て取る間もなく、紫と呼ばれた青年は姿を晦ました。


 1人残った遂の耳元に、風を渡って美しい音色が聴こえた気がした。



(注記)

 この備忘録は、我が兄・紫が(したた)めた走り書きと、兄及び遂殿の口述を元に、弟である(えにし)が改めて書き記したものである。


 この他膨大な量があり、全てを編纂するには相当の月日を要するであろうが、第一師団の二双剣と呼ばれし父の盟友2人については眠らせておくこと(まか)りならん故、必ず然るべき形で書き残したい所存。


 尚、後年の追憶なれば多少の脚色と思しき箇所があろう点、ご容赦願いたい。




ご無沙汰しております!

ようやく番外編完結です!

お読みいただきありがとうございました!!

どうだったでしょうか!


私だけしか知らなかった連なりを、こうして放つことができ昂揚しています。


「縁って誰?」と思う方が大半かと思います。

実に32話ぶりの登場でした。


鼓回顧録/異変

https://ncode.syosetu.com/n7416jq/16/


このエピソード、そしてこの番外編に関しても書きたいことは山程ありますがひとまず置いておき、また次へ次へと連なっていきますので、悔いなく書き切れるよう進んでいくのみです。


次回からまた本編へと戻ります。

更新日は調整中ですが、お待ちいただける方がいましたらどうぞよろしくお願いします。

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