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広場にて

 火事から1週間が経過し、避難してきた人々の緊張感が少し緩和された頃、塔の下の広場に集まるよう伝達がなされた。


 全員の顔を見回して、(つづみ)が話し始めた。

「今日までの日を無事に過ごして、またここで全員が顔を揃えてくれたことが何よりも嬉しい。突然のことでみんな思うことは様々あるだろうし、今後を考えたり不安を抱いたりすることもあったかと思う。

 改めて、この常若(とこわか)がどんな場所なのか、俺たちは何者なのか、そして話を聞いてもらった上で今日以降のことを考えてもらえればと思って集まってもらった。

 ──と、その前に」

 言葉を切った鼓の横に、(のぞみ)(しるし)が進み出る。

「皆さんの住んでいた村を希と俺で見てきました。かろうじて何軒かの家の骨組みが残っているくらいで、家屋は全焼、という状態です」

 2人の言葉に、俯き瞳が翳る者もいた。現実を伝える側も心が引き裂かれそうになる。

「それでも生まれ育った地でまた暮らしたいという気持ちも十分に分かります。戻ってやり直す方を選ぶなら、私たちはその意志を尊重します。できる限りの支援や協力もします」

「もしもここに残るという決断をしてくれるなら、俺たちが全力で皆さんを守ります。というか、この場所は“護られて”いるので、危険に晒されることはありません」


 繰り出される言葉の数々に、不思議がる表情が散見される。

「早い話が、常若には結界を張ってる。だから内側から外の世界を見ることはできても、逆はできない」

「そしてその結界を自由に出入りできるのは、安全を考慮して俺たち3人だけに限られています」

 胸の前に掲げた瑞の左手の甲に数秒間、刻印が浮かんで消えた。

「この刻印のない状態で一度結界の外に出たら、二度と自力で内側へは戻れない。そういう術を施してる」


 話を聞いて息を飲む村人たち。無理もない。土地を追われ、得体の知れない3人組に連れられるまま謎の場所へと来たばかりだ。そして3人にすら分からないのだ。常若に残り、加護を受ける代わりに自由を失うことが、果たして彼らにとって幸せなことなのかどうかが。

「今すぐにこの場で決めてくれとはもちろん言わない。話し合って、納得のいく選択をしてほしい」


「まあいきなりこんなこと言われても混乱しちゃうよねー!」

 重い空気をかき消すように声の調子を変えて希がけらけらと笑って言った。いつの間にそんな芸当を身に着けたのかと内心鼓は驚きを抱える。

「私たちのことも話すって言いましたけど、やっぱり今はまださらっとだけにしておきます。今日まで個人的にお話しできた人たちもいるけど、みんなに同じように伝える時間をください。

 私も瑞も鼓も、毎日訓練を積んでいて、常若だけじゃなくてこの国中を見回ってます。たまーに国の偉い人から護衛とか頼まれたりもしてます。鼓の謎のコネで」

「誤解を生みそうな言い方はやめてくれ。俺が首都麟鳳(りんぽう)近くの生まれで、元々そこで護衛で飯食ってたんだよ。その伝手だ」

「で、瑞は……剣術なら私より上って感じ?」

「雑すぎるだろ。10年一緒にいてそれしかないんかお前は」

 2人からの返しにまた笑って見せる。歯切れの良いやり取りに、いくらか村人たちも和やかな表情を浮かべている。希の振る舞いに救われた心地がしたのはまた、瑞と鼓も同様だった。


「何か聞きたいことがあったらいつでも遠慮なく聞いてください」

 それじゃあこの場は一旦解散──となりかけた時、縋るような声が聞こえた。


「一度、俺も村を見たい」

お読みいただきありがとうこざいました。


今さらの裏話ですが、「常若」は当初、「桃源郷」とする予定でした。

公開直前に変えたのですが、とても気に入っています。


次回も水曜日更新です。

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