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04.謝ることなんてできない

それからの地学の時間は、キツかった。

あの日からローザとは口をきかなくなった。

ローザは俺に目も合わせてくれなくなった。

以前のように、背中に視線も感じない。


かと言って、俺をあからさまに嫌っているという感じでもなかった。

俺が王太子だからだろうか?

ただひたすらにローザは縮こまって、存在感をさらに消そうとしているみたいだった。


ローザを見るたびに心が痛んだ。

俺の方だって苦しかった。

もう視線が合うことはなかったが、もう一度、俺の目を見て欲しかった。

謝りたかった。

あれは本心ではないと言いたかった。


だが、どう謝るというのだ。

いくら考えても、あの状況を都合よく説明できる言葉なんかなかった。

だいたい、5人の中で俺が一番最低だった。


仲間内だけで、その場のノリで誰かをけなしたりすること・・・

それはけっこう危険なことだったんだ。軽薄だったーーーー


俺は自分自身がやったことに対して、勝手に自分で傷ついていた。

後悔もしていた。

けれども表面上、俺は全然平気なふりをしていた。

ポーカーフェースは小さい頃から得意だ。

俺はその後も、全くいつもと同じようにふるまっていた。

移動教室の時間では、ローザがどんな態度でも、後ろを向いて「はい」って、普通にプリントを渡していた。

本当は、彼女を意識しないように、手が震えないように、深呼吸をして、いちいち気合を入れて、注意を払っていたのだが。



★★★



ローザには、何もできないまま、時間だけがどんどん過ぎていった。

半年たった頃だった。

その日は穏やかな晴天だった。

俺のクラスは美術の授業の一環で、写生をするために王立植物園に出かけた。

園内での散策は自由だ。

俺たちは、いつものメンバーに、女生徒2人を伴って、どこかいい場所はないかと歩いていた。

温室に入って、熱帯植物の森の中を歩いていると、ローザが1人の男子生徒と一緒に座って写生をしているのを見かけた。

パイナップルの木の陰で、ローザは彼と親しげにしゃべっていた。


「あっ」と、目ざといゴットハルトが声を上げる。

「あれ、ローザじゃない?」


(うるさいな、分かってるよ)


俺はイライラして言った。


「あんな地味女に俺は興味ないけど。お前は興味あるの?ゴットハルト」


「え?俺?いや、全然・・・興味あるわけないじゃん・・・」


(そんな風にローザをお前に言われたくない)


俺はますますイライラして言う。


「相手の男もパッとしないし、あの2人はお似合いだろ」


昼時になった。

芝生の広場を横切って行くときに、木陰の向かい合わせのベンチに座って、4人でランチをしているローザの姿が目に入った。

男2人、女2人の組み合わせだ。

さっきの男子生徒がローザの隣に座っていた。

男子生徒が何か冗談を言ったようだ。

皆、一斉に笑っている。

ローザが、口を手で押さえて、男子生徒の方に笑顔を見せた。


ーーーー衝撃だった。

俺には一度も見せたことのないような、笑顔だ。

ざわざわとした不快感が背筋を走った。

あれを近くで見ていいのは、本来、俺だけのはずだろ。

・・・イライラが止まらない。



その夜、俺は夢を見た。

女の子と2人だけでピクニックに行く夢だ。


柔らかな青空に綿雲がいくつも浮かんでいた。

俺たちは、なだらかな小高い丘を登っている。

顔を見なくても、隣を歩く女の子はローザだと分かっていた。

丘には背の高い木が一本あって、その近くまで歩いて行った。


ローザが、その根元にシートを広げる。

そこで、2人で軽食をとった。

サンドイッチをつまみ、リンゴをかじり、アップルタイザーを飲んだ。

木陰に彼女が座り、俺は彼女の膝枕で昼寝をしていた。

俺の顔の上で、彼女は本を広げて読んでいる。

しばらく経って、彼女は本を閉じた。

彼女の手が俺の髪に触れている。


風が吹いていて、鳥の鳴き声がして、ローザがいて、俺は目を閉じている。

視点が切り替わり、俺はこの幸せな風景を上空から見ていた。

最高の夢だーーー。


そう思った次の瞬間、ローザに膝枕をしてもらっている男が、俺ではなくなった。

あの、植物園でスケッチしていた男子生徒に変わっていた。


何かを言おうとしても、声が出ない。

体も動かない。

夜が明ける前、焦りの中で、俺は起きた。



★★★



翌日、学校での昼休みに、俺は彼を呼び出した。


入学して以降、俺はなるべく王太子としての特権を振りかざさないように気をつけてきた。

威張らないように、横暴に振る舞わないように、一生徒として、みんなの中に溶け込もうと努力してきた。

誰かを呼びつけたりするなんて論外だった。


この3年半の間で、俺は、学院のみんなと、それなりに良好な関係を築くことができていると思う。

今回、俺が起こす行動は、その良好な関係性をぶち壊す可能性があった。

でも、構うものか、と俺は思った。

礼儀正しくなんか、もう全然できなかった。


昼休み時間、俺は1人で学院の中庭にいた。

そこにあるポプラの木の下で、あの男子生徒を待っていた。

仲間には、用事があると言ってある。

ついてくるなと釘を刺してあった。


(遅い)


腕を組んで、背中を後ろにして、幹にもたれかかっていると、男子生徒がやってきた。


「す、すみません。ちょっと先生に呼び止められて・・・」


「君の名前はなんだっけ?」


男子生徒がおずおずと名乗る。

俺は相手が名乗っている最中なのに、すぐに相手の言葉を遮って言った。


(お前が誰かなんてどうでもいい)


「俺が目をつけている女に手を出すな」


彼は震え上がっていた。


「え?だ、誰のことですか」


「ローザ・フォン・マンシュタインだ。決まっているだろ」



★★★



噂は、すぐに学校中を駆け巡った。

仲間は俺に呆れ果てている。

俺のブチ切れている雰囲気を察して、ライナーでさえ、まだ何も言ってこない。

何か言いたそうだが。


あの呼び出し以降、初めてとなる地学の授業が今日あった。

今日の授業では、ローザは明らかに挙動不審だった。

俺が渡したプリントを、ローザは取り落とした。

そしてそれを拾おうとして、さらに派手な音を立ててペンケースまでひっくり返した。


「・・・何やってるんだよ」


ローザが慌てふためいてばかりいるので、床にぶちまかれたペンは、俺がほとんど拾った。

俺は平常心でいたかったが、ローザの目を見ることができない。


「・・・・っ」


ローザはお礼を言おうとしたが、声にならないようだった。

困惑するのは分かる。

俺だって、どうしたらいいか分からない。


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