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02.お前にはイライラさせられる

移動教室で地学を学んでいる時だった。


俺のペンが後ろに転がった。

俺は目の端で、ペンの転がっていった場所を捉えると、いい加減な体勢で、ペンを拾おうとした。

この時、横着をしないで、しっかり後ろを向いて拾えばよかった。

背後にいた女の子もペンを拾おうとしてくれていたのだろう。

俺は、うっかり間違えて、その子の手を掴んでしまった。


「あ、ごめん」


その子はイチゴかっと言うくらい、真っ赤だった。


「・・・」


そこまで意識されると、こちらまで気まずい。


(なんなんだよ)


女の子に背を向けてペンを走らせながら思う。


(俺を意識しすぎだろ)


背後からじっと見られているかと思うと落ち着かない。


(やりにくい・・・嫌だな。この席)


移動教室での席順は、1年間固定だ。

ずっと背後に彼女がいるかと思うと、うんざりした。

授業が終わった。

離席するときに、俺は何気なく後ろに座っていた女子の姿を確認してみた。


ダークブラウンの髪に、蜂蜜色の瞳。

全体的にボワッとした印象で、目立たない。

今まで、全く存在に気がつかなかった。

外見は平凡な感じ。

服装もパッとしない。


ダサいな、と言うのが正直な感想だ。

クラスの中では普通なんだろうが。

俺と今まで会話をしたり、仲良くなった女の子たちに比べると、ずいぶん地味な印象だった。


一瞬目が合う。


バッと分かりやすく、目をそらされた。

彼女の顔は真っ赤だ。


「・・・あのなぁ」



★★★



「え、地学のクラスの、お前の後ろの席の子?」

赤髪のライナーが首をかしげる。

「誰だっけ。顔が思い浮かばないんだけど」


「確か、どこかの下級貴族の娘だろ」

エリアスもよく知らないらしい。

上流貴族のこの2人が知らないということは、まあ、そうなんだろう。


「僕知っている。マンシュタイン家の次女だよ。ほら子爵家の」

ゴットハルトが言った。

空色の瞳を閉じて、うーん、と思い出している。

「たしかローザ・フォン・マンシュタインっていう名前だ」


「お前、なんでそんなに詳しいんだよ」と俺。


「ローザのお姉さんと、うちの姉が同い年なんだよ」

「時々遊びに来る。この前、一緒に観劇に行っていた」


「・・・そうなんだ」



★★★



(最悪だ・・・)

前回に続き、二回もペンを落とすとは。

しかもこのクラスで。

俺は今度はきっちり後ろを向いて取りに行こうとした。

それなのに。


「これ・・・」


と言って、差し出した手が震えていた。

ローザはうつむいているが、その耳は真っ赤だった。


「あぁ、どうもありがとう」


俺はカッコつけて受け取る。

何も気がつかないふりをする。


俺だって今まで、何人もの女の子に好意らしきものを向けられたことがある。

だが、どれももう少し洗練された形だった。

こんなみっともない形で示されたのは初めてだ。

照れくさくて仕方がない。

正直言って、イライラする。

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