番外編 遊園地へ行こう!最終話
お化け屋敷から移動して、ショーを見に行く。
ニャッチーたちが軽快に踊り「さぁみんなも一緒に!」の掛け声で見よう見まねで踊ったのだけど、まぁニコラスとトラヴィスの2人の完成度の高さよ。
夢の国スタジオのショーで、ニャッチーたちより注目浴びることなんてある!?
心なしかニャッチーたちもチラ見してたからね!
ニコラスは体を動かすことなら大体のことはすんなりやってしまうので分かるけれど、まさかトラヴィスもとは。
マジでなんでも出来る男だな。
パーフェクトな男、トラヴィス。
お昼ご飯は簡単にスナックを販売してる所でホットドックを買って食べた。
みんなもうこういう外でカジュアルに食べるのにも慣れたものだ。
それにしても、ニコラスがホットドックにチキンレッグに豚まんを買っていて、流石にそろそろ太るんじゃないかと心配になった。
全部ちゃんと筋肉になるのかな……大丈夫かな……。
ニャッチーの耳を模したパフェも売っていて、シリルに持ってもらって写真を撮ったのだけど、頬の横にパフェを持ってにゃーって顔と手で写真に収まるシリル(ニャッチーの耳付き)の映えること映えること。
SNSはやっていないけれど、思わず投稿したくなるほどの可愛さだった。
あやつ、自分の可愛さを熟知してやっておるな………。
とても心配していたけれど、最初のジェットコースター以外はウォルトとトラヴィスも平気そうで、3Dを使った激しめのアトラクションとかにも問題なく乗れていた。
……まあ、ウォルトはすごい悲鳴を上げていたけれど……。
「とりあえず悲鳴を上げれば、恐怖が軽減されるのだという知見を得ました」と、冷静に語っていた。
シリルが色々と戦略を練ってくれたこともあって、かなり効率的にいろんなアトラクションにも乗れたし、時間把握バッチリのウォルトのおかげでかなり前の方でショーも見れた。
始終みんなニコニコしていたし、とっても楽しいかった!
……けど、楽しい時間というのはあっという間に終わってしまうもので。
いつの間にか辺りは暗くなり、いよいよ閉園時間が近くなる。
残り30分ほどになって、来園客がぞろぞろと退場ゲートまで移動する。
一度に園内の客が動くから、かなりの混雑具合だ。
このままだとはぐれそう……。
「ってあれ!? トラヴィスたちは!?」
「うーん……はぐれちゃったみたいだね……」
いつの間にかトラヴィス、ウォルト、ニコラスの姿が消えており、シリルと2人きりになっていた。
「多分またニコラスが何か見つけて走っていったのを、あとの2人が追いかけたんじゃないかな?」
シリルが苦笑しながら言う。
うん多分、てか間違いなくそうだわ。
ニコラスは気になるものがあると、猪突猛進一直線に行っちゃうからね……。
そういう時は気遣いを忘れちゃうニコラス。
とりあえず、分かりやすいようにとニャッチーの銅像の近くで待つことにする。
入場ゲートを入ってお土産屋さんが集中しているエリアを抜けると、円状の芝生広場があって、その芝生をバックにニャッチーの銅像が立っているのだ。
ここは夢の国スタジオのキーとなるアトラクションが全て見える絶好のフォトスポット。
あえてそう見えるように計算されていて、更にはこの芝生広場からでないと、他のアトラクションが見えないようになっている。
マジ考えた人頭おかしいなって思うくらい緻密な設計だと思う。
だからこそここはフォトスポットであると同時に、絶好の告白スポットなのだ。
周囲には案の定、カップル率が高い。
ううん、なんだかここに居ちゃいけない気がしてきたぞ。
「でも、良かった。姉さんと、やっと2人になれた」
「え?」
そんなことを考えていたら、シリルの声に驚いて思わず顔を見る。
何だか、急にシリルの声が艶っぽく聞こえたから。
シリルと目が合った。
シリルも私を見つめていたのだ。
真剣な表情で。
シリルはいつも可愛い。
向こうの世界でミステリアスボーイをしていた時ですら、「美少年」という表現が一番しっくりきたのだ。
自分の可愛さを分かっているから、こっちの世界に来てからはあざとい仕草をすることも多いし、シリルを「可愛い」以外の属性で認識したことがない。
けれど……。
私は思わずどきりとした。
あまりにもシリルが、「男の人」の顔でこちらを見ていたから。
「本当はもっと早くこうしたかったんだけど、全然2人になる時間がなかったから」
シリルは目を細めて、僅かに口角を上げた。
煌びやかな照明のせいか、頬が少し色付いている気がする。
あ。
今の顔、すごく色っぽい。
いやいやいや。
まだあどけない16の少年ですよ?
しかも血は繋がってないとはいえ、弟ですよ?
そんなシリルに対して色っぽいって……。
何だか顔が熱い。
血が凄く頭に昇っているみたい。
変な汗が出てきたし、胸の鼓動がすごく早くなっている。
どうやら、可愛い弟の思いがけない姿に、かなり動揺してしまっているみたいだ。
「夢の国スタジオに来たら、仲の良い友だちとか、恋人とかとお揃いのものを持ったりするんでしょう? だから、これ。受け取ってくれる?」
少し照れたようにはにかむシリルから手渡されたのは、ニャミーのネックレスだった。
これはいわゆる、ペアグッズというもの。
ニャッチーとニャミーの顔の形を模したもので、2つをくっつけると2人が頬をくっつけているように見える。
見ると、シリルの首にはニャッチーのネックレスが下がっている。
いつの間に買ったんだろう。
全く気付かなかった。
「わあ可愛い! でもいいの? 姉弟でお揃いなんて」
「うん、もちろん。僕がそうしたいんだ。ねえ、着けてもいい?」
シリルの言葉に頷くと、シリルは正面から私の首に腕を回した。
び、びっくりした。
てっきり後ろからやると思ったのに。
これじゃあ、まるでシリルに抱きしめられているみたいだ。
シリルのこと、ずっと可愛いと思っていたけど、こうすると私より背が高いんだ…。
私はどんどん早くなる鼓動を悟られないよう、目をぎゅっと瞑って息を潜める。
なんでシリルなのに、こんなに意識してしまうんだろう。
「うん、似合ってる」
ネックレスを着けると、それを見てシリルは、綺麗に笑った。
可愛いいつもの表情じゃない。
男の人、だ。
「姉さん。僕はずっと後悔してた。姉さんが辛い時、悩んでる時、何もしてあげられなかった。それどころか、姉さんを避けたりして……。でも、これだけは勘違いしないで。僕は一度だって、姉さんのことを嫌ったことなんてないよ。僕は……姉さんが、いや、蘭のことが……ずっと、一番大切だったよ」
そう言って、シリルは真っ直ぐに私を見つめた。
その瞳に吸い込まれてしまいそう。
「シリル……」
シリルがだんだんとわたしに顔を近付ける。
何だかもっとその瞳の奥が覗いてみたくて、私も顔を近付けた。
まるで全てがスローモーションになって、世界に2人しかいないような錯覚を覚える。
あと少しで唇が触れそうなほど顔が近づいて、思わず、思っていた言葉が口を衝く。
「シリルの瞳は元々ピンクだから、茶色のカラコンに合ってて綺麗だね〜。今度グレー系とかにもしてみる?」
いつもの調子であっけらかんとそう言うと、シリルはガクッと肩を落とした。
「どうしたの急に? ぎっくり腰?」
「〜!! もう! 姉さんの馬鹿!!」
「え!? 何で急に!?」
先ほどまでの男らしい表情から一転、ぷくうと頬を膨らませて、いつもの可愛いシリルに戻った。
私は内心ほっとした。
一瞬、シリルが弟ではない、男性のように思えたから。
シリルは弟なのに、一体どうしたんだろう。
はっそうか! これが夢の国マジック!!
その場の雰囲気に呑まれてしまったのね!!
なんて一人納得していたら、シリルが何だか、不敵な笑顔を浮かべていることに気付く。
「まあ、いいよ。これから絶対、分からせるから」
そしてまた、色気の滲む表情でにこりと笑った。
ええ〜!!? 何を!!?
こわ!! 怖いんですけど私、弟に何されるの!!?
処されるの!!?
火照る顔を仰ぎながら、内心混乱していると、遠くの方からやってくるトラヴィスたちが見えた。
「いたいた! どこに行ってたんだよ二人ともー!」
「お前だぞニコラス。風船は諦めろと言っただろう」
「すみません蘭さん、シリル。……あれ、何かありました?」
微妙な雰囲気を感じ取ったのか、ウォルトが不思議そうに首を傾げる。
その言葉に、トラヴィスとニコラスがぐいんと首をこちらに向けた。
え、何こわい。
「何にもないよ? ねえ姉さん」
「う、うんそうだね」
「本当か〜?」
「怪しいな」
笑って誤魔化しながら、私は必死に隠していた。
いまだに治まらない、胸の鼓動を。
夢の国マジック、恐ろしい!!!
みんなでなんだかんだと話しながら、最後はお土産を買う。
トラヴィスとウォルトと私はバイト先のお土産を買ったり、ニコラスはニャッチー型のイヤホンを買ったりしていた。
シリルは子供向けの動くおもちゃを真剣に見ていた。構造が気になるのかな……。
そして私発案で、なんと5人でお揃いのマグカップを買いました!
同じ柄で色違いのやつ!
明日からこれを使って、紅茶(ティーバック100個入りお徳用)を飲むのだ!
みんなちょっと照れくさそうにしていたけれど、満更でもなさそうだった。
閉園の音楽が流れて、いよいよ閉園。
なんで遊園地の閉園って、こんなにセンチメンタルな気分になるんだろう。
音楽のせいか、照明のせいか。
さっきまでの楽しかった時間が尾を引いて、まるで本当に夢を見ていたのではないかという気分になる。
ぞろぞろと駅まで流れる人の波に乗りながら、私たちは色々なことを話した。
「トラヴィスがあんなにジェットコースターが苦手だなんて」とシリルが言った。
「お前こそお化けが苦手とはな」とトラヴィスが返した。
「俺は全部楽しかったなー! ご飯も美味かった!」とニコラスがほくほくしていて。
「私はショーがなかなか面白かったです」とウォルトも柔らかい笑顔で話したり。
すごくすごく、楽しかった。
ああ、本当に楽しかったな。
「いつかまた行こうね」という約束が安易に出来ない彼らだから、次またみんなと来られるか分からない。
本当に、これが最初で最後かも。
いつ、みんなが元の世界に帰ってしまうか分からないから。
そんな風に考えると、私はとても寂しくなった。
みんなでこの世界に帰ってきた時には、まさか彼らとこんな風に笑い合えるなんて、思ってもみなかった。
こんな風に、素敵な友だちになれるなんて、思ってもみなかった。
みんながこっちの世界に来てくれて、本当に良かったなって思う。
そんなことを思うのは不謹慎かな、とも思うけど、そうでもなければ彼らとこんな風に楽しく過ごせたりしなかった。
この時間は、私にとってすごく大事なものだ。
もしもこの世界に一人で帰ってきていたら、すごく孤独だっただろう。
その孤独に、果たして耐えられていたか、分からない。
絶望して、全てを投げ出していた可能性だってある。
私は、彼らに救われたんだ。
本当に、本当に、みんなが来てくれて良かった。
この時間が、ずっと続けばいいのに。
みんなの笑顔を見ながら、私は心から、そう思った。
番外編はこれにて完結です!
また思い付いたら何か書くかも……。
ありがとうございました!




