天下は我の為に在り……嘘ですごめんなさい・十五
その後、看守達の迅速な働きにより零輪地区の地区長宅と連絡が繋がった。
地区長宅に居た零輪地区長の妻は、“力”溜まりの管理者の代理として受け入れを許可した。
今は地表へ移動中である。が。
「何故私がここに居る」
「てつがきゅ?」
「哲学ではない。何故私まで行く必要があるのか聞いている」
はばたきはパチリ、と一度瞬きをした。
なんでそんなこと聞くんだろうなぁ、と言いたげだ。
「ぬいぐるみあげたんでちょ?」
だからなんだ、拾い物をしただけで……とは言えないのが楽子である。我々ですら個人間の感覚の差もあるというのに、楽子の感覚はそれより違う次元の者も多い。なので、溜息一つで問いは終いにする。
「それが……あまり記憶にない。断片的にならばあるが」
「あらま、それなら思い出しゃない方が良いよ。きっちょ、愛子ちゃまが隠ちてる」
「そ、そうなのか。何があったんだ過去の私。いや、良い。気にしないようにしておく」
そう、気にしなければ無かったも同然なのだ。うん、そういう事にしておこう。
『ぬいぐるみ』
ぽやりとした声が響く。はばたき曰く、「まりゅでましゅまろのようにソフトぉぉぉー」らしい。その声が、無かったも同然にはしてくれないのだと悟る。
「ぬいぐるみ?」
はばたきが聞き返す。
『濡れた。から、隠した』
うーむ、私が愛子気に入りのぬいぐるみを濡らしたのか?
「私はぬいぐるみを濡らしたが為にあこの怒りを受けているのか?」
「そりぇはないちょ思うなぁ。愛子は、愛する子と書くんだにょ。愛子ほど愛が深い楽子はいにゃいって聞いてるよ。ほんちょか知らにゃいけど。だかりゃ、怒ったらそれはもう怒髪天を衝くくりゃい怒るみたいだみょ。記憶隠しゅだけじゃしゅまにゃいよ」
「なる、ほど……」
楽子ってやつは……本当に、あれだな。うん。もう……うん、ここまでにしておこう。
それにしても。
楽子、環子、包子、愉子、愛子……今日だけで出てきた5つの一族の名前(全て楽子と判明)。
それぞれは血筋の違いではなく、どこのルールに則り動くかの違いであるとまでは理解した。
今はばたきが言った事が事実ならば、それぞれの名にルールのヒントがあるのかもしれない。だが知りたくない。確実に面倒くさい。
「愛する子……愛子、か」
『愛子は愛子。ここは、楽子が、多い』
「そうなにょ?」
「そうだな。包子やら環子やらよりは楽子と名乗るものがほとんどだ」
『楽子。さまざまな、楽子が、諍い、したくないのに、しなきゃいけなくなってる』
「……そうだな」
『しなくて、良いのに』
「そうだな」
『だって、悪いのはただのシャイボーイ』
「急に横文字が入ったな」
「シャイボーイ?」
『そう言え、言われた』
「そうか。おつかれ、大変だったな」
「誰にって聞かにゃいの?」
「世の中知らん方が良いことは山程ある」
『姉に』
「聞いていない私は何も聞いていない」
『姉に』
「耳を塞いでも脳裏に響く……」
「のがれられにゃいねぇ」
「他人事なのか?」
「うん、まぁねぇ。環子として、半端に知るよりは知っておかねば、かにゃ」
パチリ、と瞬きをする姿は到底その年相応のものとは思えない。老年期の気配がする。見た目足す動きの速さとその気配が合わなくて脳が些か戸惑っている。
楽子ってそんなもんだよな、で自分を誤魔化すにも限度ってもんがある。だから口に出してしまおう。恐らくその戸惑いすらも、楽子はその似通った顔で愉悦として受け止めてしまうだろうから。
「楽子は、見た目と実年齢が合わぬ者が多いと聞くが」
「かもしれにゃいし、違うかもしれにゃいみょ」
やはりサラリ、と返された言葉には揺れも振れもなかった。
「そうだな。年なぞ、それくらいで良いな」
『ん?この子はほんとに子供』
おいコラ、サラリと。
「ばらされちゃみょ」
こちらもサラリと。
「この流れでは隠してやってくれよ」
『あら』
「あらま」
全く深刻ではない様子に肩の力がガクンと抜けた。
「……楽子はどいつも顔も口癖も似ているな」
『「そうだね」』
『楽子だからね』
「そう、楽子だきゃらね」
「そうか、まぁ、見分けが付けば良い」
『双子も三つ子も割と多い』
「確かににぇ」
「……見分けが付くようにしておいてほしいが、せめて、間違えても怒らんでほしいものだ」
『怒らないよ。戸惑うの、面白いから』
「だにぇー」
「……このっ……楽子がっ」
『「あぱー」』
ご機嫌な声が二人分、響いたと同時に、地上へ着いたアナウンスが聞こえてきた。
「お初にお目にかかる! はず! 楽子! まさと申す! 楽子だぞ! 宜しく頼む!」
でか過ぎる。声がでか過ぎて一瞬意識が遠のき、聞き逃す所だった。
楽子。二度強調された二文字。
十八土炉地区長は包子と言ったはずだ。
どういう事だ。こいつは偽物なのか?いや、楽子の名を騙る阿呆なぞ居ないに等しいだろう。それほど楽子は畏れられも、恐れられてもいる。
逡巡する私達を見て「ん?ああ! さっき楽子になった!」と付け足した。
「なるほじょー」
『なる』
と環子と愛子が返したので、事実と言う事にしておこう。
「……お初だな。もとはだ」
『お初。愛子』
「お初ですーだみょ。はばたきは環子」
「なるほど! 元気か!」
『元気』
「はばたきげんきぃー」
黙っていたら三人分の視線が来た(と思われる)ので、「微妙に元気だ」と返しておいた。
「なるほど! 微妙に元気ならば行けるかもしれん! 体調が優れなくなったらすぐに言ってくれ! 私が責任もって避難させるぞ!」
「待て、どういう事だ」
「ん?“力”溜まりに入ると思ったが違うのか?」
ん?……はっ!?
「私も行くのか!? 私は“力”溜まりに入った事が無い。当然慣れも無い」
『大丈夫。愛子、持つ』
「愛子、持つ?」
『そう』
途端左足に温かみが触れた。愛子が登ってきているのだと一拍遅れて把握する。重みが無いので分かりにくい。
「わ、分かった、分かったから待て。どこが頭でどこが肩だ」
「ここら辺が頭かにゃ?」
『惜しい』
「違ふって」
その報告、もう少し違う形にしてほしい所存。
「……らしいな」
『ここ頭』
「ここ?」
『そこは右肩』
「ここ右肩だっちぇ」
「では、ここらが左肩か」
『そう、ぬいぐるみの』
ぬいぐるみの。
様々な事があり過ぎて左程残っていなかった肩の力がストンと抜けた。
うん、楽子だからな。うん。そう、そういう事だ。
「……一旦降りてくれ。ぬいぐるみをしっかり片手で抱いていろ」
『うん』
小石が動いた。着地したのだろう。
ここか。
手をゆっくりゆっくり伸ばして触れようとする。
「こ、ここに居るのか?」
『今、アホ毛、触れた』
「ここが頭か」
『そう。左側の頭』
じっと見守っていたまさが、「そうだ!」と叫んだ。
「私が持ち上げるから受け取れるか?」
「見えるのか?」
「勿論!」
「早く言えよっ!」
思わず叫んでしまった私は悪くないと思う。
今年も一年ありがとうございました。
かなりの不定期投稿で不甲斐なく、他サイトへの「そらのうた」(同作品)の投稿も停止しており、申し訳ない気持ちでいっぱいな一年でした。
ストックは少しずつ増やせているので、来年もなんとか体調を整えて投稿していきたいと思います。
他サイト二つへはなかなか投稿できないかもしれません。実はパスワードが違うと言われてから入れていません。パスワードを変えようと思ったらメールアドレスを変えていた。メールアドレスを更新しようとしたらパスワードを入れてくださいとなる。何度も試みてはループしている所です。案内を読んでも出来ない阿呆な私がいけない……。パスワードを探してみます。
皆様もご体調にもお気をつけて……!!
痛みは身体からの『治療してるとこ違うぞ』アラートでした。一度処方された薬が効かなかった時は他の科へ行くとか、目線を変えながら治療を試みても良いのかもしれません。
もちろん一個人の体験談なので全ての人に当てはまる訳ではありません。
たまたまそんな事が起こってしまった人間の呟きでございました。
今年を暗い話で締めくくりたくないな……明るいか分からないですが、高確率で誰も興味ないはずだけど違う話題を一つ。
人生で一番に等しいくらい髪を伸ばしております。目指せ、るるちゃん!(るるは膝裏丈)な気持ちで伸ばしている所です。るるちゃんほどは伸ばさないと思うけれど、気合いだけはイッチョマエ。
自分の髪質はるるに似ているかと思っていたら(るるは自由奔放に跳ねる毛)長くなればなるほどまとまってきて戸惑っています。
どうした髪の毛、自由奔放に跳ねていたキミは何処へ行ったんだ。
病の為に髪を短くしていたのですが(体調悪くて髪を洗うのも一苦労な故)「伸ばせる時に伸ばしておこう」と思いたち伸ばし始めて一年。
首に髪を巻くと温かいと知った一年。
夏の冷房対策に羽織りを持ち歩くよりも髪を首に巻けば良いと知った一年。
……髪がマフラー化している……。そんな一年でした。(どんな一年だ)
駄文失礼致しました。
皆様、良いお年をお迎えください。
それぞれがそれぞれの生き方をする道が、交差し、掠り、または織り成し、互いを煌めかせ合う、もしくはゆるし合う。そんな一瞬の邂逅の一助となる事を、「そらのうた」へ込めて。
来年も宜しくお願い致します。
はねいわ いみゆう




