来訪
そうやっていろいろと駄弁っているうちに、駅周辺の大きなビルをいくつも通り抜け、路地裏に入っていって住宅地らしき場所についた。
小さなアパートの一室に向かう後藤の後につき、僕は後藤の部屋にお邪魔することになった。
僕は後藤と本音で話ができているということで、すっかり有頂天の気分になっていた。靴もあまりそろえずに雑な部屋の入り方をした。
はしゃいでにやつく僕に、
「シンヤは飲み物は何にするんだ?」
後藤は冷静に尋ねた。
「マスター、ドライマティーニを頼むよ。」
そういう僕は完全に普段の自分のテンションを忘却していた。
「あいにく俺の部屋には麦茶と牛乳と緑茶とジュースくらいしかないが、一体どれがいいんだ。」
慣れた口調で僕の悪乗りを無視して後藤が付け加えた。
「ウソだろー、酒のストックを置いてない大学生なんているかよ(笑)。」
まるで二重人格のように、僕の大学での普段の様子は鳴りを潜め、すっかり無礼な振る舞いになっていた。でも不思議とそれを端的に無礼に感じる様子はあっても、それが人格攻撃に発展しない余裕が後藤には見られた。
「まあドライマティーニなんてあるわけないけど、ビール缶ならあるぞ。それでも飲むか。」
「おー、それを待っていたんだよ!高校のころには飲めなかったからね、酒なんか。」
そして僕たちはビール缶で乾杯をした。飲みながらその後もあれこれと話をしたが、後藤の自宅にたどり着くまでにかなり細かいことまで話してしまっていたので、若干ネタ切れの感があった。
自然と、これから何をして一緒に遊ぼうかという話になった。
後藤は、『アニメ鑑賞会』でもしないかと持ち掛けてきたが、三畳一間と思しき狭い部屋で、小さなノートパソコンを、顔を突き合わせながら一緒に見るのは困難だという結論が出た。
「ああ、アニメ鑑賞を二人っきりでやるってのも何か微妙だよな。」
後藤は納得したようだった。
そして僕たちは、かなり久しぶりに一緒にゲームをやるということになったが、僕はゲームがかなり下手な方で、後藤はRPGのようにプレイヤーが1人を前提としているようなゲームが好きなことを承知していたため、見る専に徹することを告げた。一応後藤も承諾した。
ひたすら、僕はゲームを見ながら、後藤のゲーム解説も聞いていた。でもビール缶を何缶も空けるにつれ、僕はだんだん後藤の言葉が耳に入らなくなっていた。また高校のころの悪戯癖が僕の心の中に再燃してしまった。
「はー、たまにやらしてくれるとはいえ、ゲーム見るのも飽きるなー。」
そういった僕はなんと後藤の本棚をあさり始めた。
「んーたぶんこれは比較的最近の漫画雑誌だな、しかしワ〇ピースも歴史が長いよね、俺は全然見ないんだけどな。あ、これは漫画の単行本だな、ずいぶんマニアックなもの買ってるんだな、あ、お前絵なんかもかいちゃってるのね(笑)。アニメイラストのトレースか、絵師でも目指してんのかな、このキャラは知らないけど、まあかっこいいとはいえるな。」
後藤はそんな僕の様子に動揺を隠せないようだった。
「おいおい、俺の部屋を勝手に漁って何をするんだよ!あーこれは見ないで!見なくていいから!もーあんたは泥棒か!」
でもそんな後藤のしゃべり方はどことなく優しく、慣れた感じがあった。それは本人の性格からくるものなのか、気心の知れた仲だからかは、よく分からなかった。その両方だとも思えた。
とはいえ、ずっと漁り続けるのも生産性のない行為だし、なにより後藤を困らせるのは本意ではないので、とりあえず本棚漁りはほどほどのところで止めといた。