再会
僕は、ライトノベルを一時間ずっと読み通すという集中力を持っていない。だからたいていの場合、パソコンでニコ生等のサイトを時折つけたり消したりしながら、もしくはずっとつけたままで、およそ五分ごとに読書と休憩を繰り返しながら読むのが癖だった。
地味な作業ではあるが、そのような時間はいとも簡単に浪費されてしまって、あっという間に時は回り、時計の時刻は14時54分を指し示していた。
そろそろ出かけなければいけないな。自分に言い聞かせて支度を済ませた。青のコールテンのズボンに赤のチェックのシャツ、その上には灰色のダウンジャケットを羽織って、黒のリュックサックを背負い、外へ出た。
歩いて、最寄りの地下鉄の駅へ行った。改札へ向かう途中、通路の片隅で、しゃがみこんでスマートフォンで話し込んでいる男性が視界に入った。その男の姿は、今の自分の在り方に似ていると、なんとなく僕は思った。通路を所狭しと通る人々の大群を避け、あえて孤独になりながらも、それとは裏腹に友人とのスマホ越しの関係に夢中になっている。そしてその様子は、赤の他人から見れば、少し情けなく見え、あまり格好の良いものとは言えないのだろう。そう思いを巡らしながら、電車に乗り込んだ。
電車の中では、中学生や高校生は強いだの弱いだのといった話をし、大学生は賢いだの愚かだのと言った話をし、社会人は上司だの部下だのといった話をしているように聞こえた。そして、僕にはそのすべてが、この世の中にある二元論的思考の象徴であるように聞こえていた。
だが、僕はこう思った。僕はこの二元論から「脱落」した存在なのだ、と。そして僕はその二元的価値観にはついに戻っていくことができなかったのだと。そう思った。
世の中は勝敗の二元論的価値システムにより成り立っている。そのため、世の中をわかるかどうかというのは、その二元論の仕組みを、社会のシステムを知ることにかかっていると思う。しかし、僕はそのシステムを理解することを自ら拒否してしまった。僕はその価値に耐えうる存在ではない。ゆえに僕はその価値から遠く、深くへと心を閉ざしてしまったのだと、そう感じた。
そんなことを感じながら、僕は電車の中で暗い感情にしばらく流されていたが、乗り換えのため駅に降り立った瞬間、僕はこれからあいつに会えるのだということを改めて思い出し、それによりわずかな緊張と、映画が始まる前のような興奮がないまぜになったような感情が自分の心の中に湧き出てきた。歩く足の動きはひとりでに速くなり、それとともに腕を振る力も強さを徐々に増していった。
再び電車に乗って待ち合わせの駅を目指した。しばらくすると地下鉄に乗ることに飽きてきて、僕はスマホで音楽を聴こうと思い立った。プレイリストを調べながら、どの曲を聴こうか思案した。
『落ち着きのあるイージーリスニングな音楽もいいけれど、こういう時くらいポップめでテンションが上がりそうな曲を聴くのもいいだろう。』
そう考えて、自分の気に入っている渋谷系ロックバンドのチープでキャッチ―な曲をしばらく聞いていた。
待ち合わせの駅に着いた。この気分を崩したくないせいか、イアホンを耳につけて音楽を聴いたまま改札口へと向かった。そして改札外の待ち合わせの広場へ足を運ぶと、予定時刻より10分以上も早いにもかかわらず、制服でなく私服であるという違いはあれ、かつての雰囲気のままのあいつが待っているのが見えた。