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地獄ノ女王  作者: 夜魅
35/35

32人目 若木 笑鈴

 地獄ノ女王ことミヤはベッドの上でパソコンを見ていた。

「ふんふんふーん♪」

 機嫌よく鼻歌混じりである。

「ん? この動画おもしろーい! この人いろんな動画を載せてる……あ、この人もだ」

 ミヤはなにか思い立ったのか、カタカタとなにか調べ始めた。

「……へぇ、こういう人達が多いのか……犠牲者見つけ出せるかも♪」

 鼻歌混じりでベッドから降り、自室を出て、どこかに向かった。



  ◆ ◆ ◆



 パソコンの画面に映る再生回数45……それが現実だ。

「再生伸びないよー!」

 そう叫んだのは私の親友の作村(さくむら) 風香(ふうか)だった。

「これじゃあ、お金稼ぐどころか有名にならないと無理だね」

「そんなぁ〜」

 私と風香は動画を投稿して、お金を稼ごうとした。

 ネットで見つけた記事に動画を投稿して簡単にお金を稼ぐ方法、というものがあったからだ。

 高校生の私たちにとって、お小遣いでは遊び足りない。特に私は親が海外出張をしており、基本家では一人なのですぐにお金が欲しくても手に入らない。かといって、バイトもしたくないので始めたのが私と風香のユニット『風鈴(ふうりん)』だった。

 双子ダンスや歌ってみた、単独で踊ってみたや、ゲームアプリの実況などやってみたが、一番再生回数が高いのでも45回である。

「ねぇ、風香。またさーやさんの再生回数増えてるよ」

「ほんとだー」

 ある動画サイトで今一番の人は『さーや』という人である。

 何気ない日常であったこと、時には閲覧者さんとなにかしたりしている。

 一番稼いでいると言われていても過言ではない人だ。

『みんなー、今日も見てくれてありがとうございます!』

「はぁー、私たちもこんなに閲覧者数増えたらなぁー」

 さーやの今日の動画はお菓子作りだった。

 美味しそうなケーキを作っていた。

 ただのお菓子作りの動画なのにどうしてこうも人を惹き付けるのか。

 私たちはわからなかった。

『──今日の動画はここまで! それでは今日のプレゼント企画! 今日はものすごく豪華だよ〜』

 さーやはたまにプレゼント企画を実施する。これも人気の一つなのか。

『なんと! 私、さーやとコラボ動画配信をプレゼントします!』

「「!」」

 コラボ動画!?

『応募方法はツイータの私の公式サイトからメールに送ってください! コラボしたい方の名前、あ、本名じゃなくて結構です! おひとつのメールで最大五名までとさせていただきます! それからどこに住んでいるか都道府県と市町村だけ記入お願いします! どしどし応募待ってます! あ、コラボ者が決まった時は動画で一緒に配信しますね! 今日から三日間受け付けます!』

 こうして、さーやの今日の動画は終わっていた。

笑鈴(えみり)! これチャンスだよ!」

「そうだけど……でも倍率が高そう……」

「やってみないと分からないよ!」

「そ、そうだね!」

 私と風香は、さーやのコラボ動画配信に応募した。


 その一週間後、さーやから連絡が来た。



  ◆ ◆ ◆



「なんかが足りなーい」

 ミヤはベッドの上で風鈴の動画を見ていた。

「お嬢様……パソコン見てるのはいいですが仕事と──」

 隣にいた執事の言葉を遮るようにミヤはパソコンを見せた。

「見て、これ!」

「?」

「ぎ、せ、い、しゃ! になりそうな人材候補」

「なるほど……」

 執事もマジマジとパソコンに映る動画を見た。

「……何しているんですか、この人達は」

「動画の題名見てよ」

「……面白くないと言うか……なんと言うか……」

「ズバって言ったね」

 ミヤはニヤリとした。

「だから勉強♪」

「はぁ……わかりました。早めに仕事に来てくださいね」

「はーい」

 ミヤは間抜けな返事をした。



  ◆ ◆ ◆



 私と風香はガチガチに緊張していた。

「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ〜生配信じゃないから変なとこ編集してカットもできるし」

「ひゃ、は、はい……」

「ひゃ、って可愛いね、ふうちゃんは」

「そ! そんなことないです……」

 さーやのコラボ動画配信にまさかの当選した私と風香。

 そして今日はさーやの自宅……といってもいつも動画を撮っている家にお邪魔している。

「さーやさん凄いですね……撮影用の家まであるなんて……」

「ああ、ここの物件? 最近契約したばっかりなの。でもまさか風鈴ちゃん達が近場に住んでいるとは思わなかったよ〜しかも歳だってそんな変わらないし」

 さーやは大学二年生の二十歳だ。

「やっぱり女の子がいると華やか! 今日の動画は楽しくなりそ!」

 さーやはご機嫌だった。

 こうして、風鈴とさーやの撮影は無事に終了……したはず。



  ◆ ◆ ◆



 ミヤはパソコンとにらめっこしていた。

「おぉ、閲覧数凄い!」

 パソコンにはさーやと風鈴のコラボ動画が映し出されていた。

「風鈴の方も閲覧数ちょっとずつ上がってる……順調順調♪」


 同時刻。

 天国宮殿ではエルリが天国ノ王と天国ノ女王と食事をしていた。

「お父様」

「なんだ、エルリ」

「どうして地獄ノ王は亡くなったのですか」

 エルリの急な質問に天国ノ王は目を見開いた。

「詳しいことは知らなくていい。だが、一つ言えるのは先代地獄ノ女王の遺体が見つかっておらん」

「! それはどういうことでしょうか?」

「私にもわからん。けれど見つかったのは王の方だけ」

「本当……なぜ王しか見つからないのですかね……」

 天国ノ女王がそう呟いた。

 エルリは何かがおかしいと思った。

「先代地獄ノ女王よりも今は地獄ノ女王の犠牲者の方が優先だ。エルリなにか手がかりが見つかったか?」

「いえ……けれど地獄ノ女王は切羽詰まっている様子でした」

「……私たちは様子を見ていないからなんとも言えんが今後も監視を頼むぞ」

「はい、わかりました」

 


  ◆ ◆ ◆



 さーやとコラボしてから閲覧者数が増えた。

 さーや程ではないが毎日右肩上がりに増えていく。

 見てくれてる人が増えるとなると自然と動画も作りたくなる。

 いつの間にかほぼ毎日投稿するようになっていった。

 そして、さーやからはコラボ動画のお誘いが来た。

 どうやら反響がよかったらしく、さーや自身も楽しかったらしい。

「ねぇねぇ、笑鈴。今度さ、『ほおづき』さん達とコラボしようよ」

「え!?」

 ほおづき、とは動画サイトでも有名で私の憧れの男性二人組。確か、さーやと同い年だったはず。

「風香、どうやって知り合ったの? ってか、なんでそんな話に……?」

「私が元々ツイータでフォローしてて、動画みてくれたらしいよ。それで楽しそうだから、ぜひ! って」

「するする! コラボするよ!」

「おっけー、じゃあ日程調整してくる!」

「うん!」

 憧れのほおづきとコラボ出来るなんて楽しみ!


 後日、ほおづきの二人の撮影部屋にお呼ばれされた。

「はじめまして、えみちゃん、ふうちゃん。ほおづきのニキヤです」

「同じく、トモヤっす」

「今日はよろしくお願いします」

「お願いします」

「高校生眩しい〜。ところでさーやとコラボしたんだって?」

「はい、さーやさんとても優しかったですよ〜」

 風香の言葉にニキヤさんとトモヤさんは顔を見合わせた。

「あの……?」

「あのさ、えみちゃん、ふうちゃん……もうさーやと会わない方がいいよ?」

「え?」

「そうっす……さーやは自分が人気になるためなら手段を選ばないっす……」

「どういうことでしょうか……?」

 私が問いかけるとニキヤさんはゆっくり口を開いた。

「……トモヤの言葉のまま。さーやは自分が人気になるためなら手段を選ばない。たとえ、犯罪だとしても……仮に風鈴がさーやの動画再生回数を抜かしたら、さーやは何をしてくるかわからない……」

「なにそれ……」

「さーやよりは人気にならない……それがあのサイトの暗黙のルールみたいなもんっすよ」

「……」

 なんか急に動画をあげるのが怖くなってきた。

「まぁ、大丈夫っす! 何かあれば俺たちを頼るっす!」

「そうそう。じゃあ、撮影準備しようか」

「は、はい!」

 こうして、ほおづきのコラボ動画撮影も無事に終わった。



  ◆ ◆ ◆



 クロアは大好きなぬいぐるみを眺めていた。

「……ほんと、可愛いなー」

 ぬいぐるみをぎゅっ、と抱きしめ日頃の疲れを癒す。

 誰にも見せられない一面──だが、視線を感じる。

「……リルキ、リミカ出てこい」

「あー、バレちゃいました?」

「すみません。見るつもりはなかったのです」

「言い訳されるとこっちが恥ずかしくなるからしなくていい……」

 クロアは、はぁー、とうなだれた。

「何の用だ?」

「なんかね、ボク。ピーンと来ちゃったの」

「何がだ」

「……地獄ノ女王様がもう少ししたら犠牲者が集まるんじゃないか、って」

「犠牲者は集めているんじゃないか?」

「違う。必要な数が集まるんじゃないか、って話し」

「目的でもわかったのか?」

「それはわかんないー!」

 本当にこの双子は大丈夫なのか、とくに男の方……、と思うクロアであった。




  ◆ ◆ ◆



 ほおづきとのコラボ動画も人気があり、私たち風鈴はさらに閲覧者数が上がっていった。

 嬉しさと同じく出てくる者がいる。

「うわぁー、出たー初アンチ!」

「え、マジ?」

 風香が初アンチを見つけたらしい。

「これほど私たち有名になったってことだよね!」

「ポジティブだねー、風香は」

「だって、そうじゃないの?」

「そうだけど〜」

「ねぇ、今度さ、心霊スポットとか撮りに行かない?」

「風香、ホラー苦手じゃないの?」

「苦手……だけど閲覧者数もっと増えるかもよ!」

「体張るね〜」

 前より動画の話で盛り上がるようになった。

 撮影して編集するのも楽しくなった。

 これもさーやとほおづきのおかげである。

「今度撮影の時、さーやさんにお礼言わなきゃね」

「そうだね! 笑鈴!」

 ほおづきが言ったことなんて嘘だよね……?



  ◆ ◆ ◆



 リルキとリミカがいつも寝泊まりしている部屋にエルリはお邪魔していた。

「先代地獄ノ女王様の遺体が見つかっていない〜?」

「そうらしいわよ」

「天国ノ王女様、その情報はどちらからお聞きになったのですか?」

「私のお父様からよ」

「じゃあ、その情報は本当っぽいね〜」

「けれどなにかの手がかりになるかしら……」

「それは分かりません」

「そうよね……」

 リルキは、そうだ! という顔をした。

「あの部屋に行ってみようよ!」

「あの部屋ってどこかしら?」

「【地獄ノ女王所有物部屋】」



  ◆ ◆ ◆



 笑鈴と風香はさーやの撮影部屋にいた。

 コラボ動画を撮影するためだ。

「風鈴ちゃん達久しぶり」

「お久しぶりです。さーやさん」

「えみちゃん、そんなかしこまらなくていいんだよ〜」

 さーやは優しい笑顔で言った。

「そういえば、ほおづきとのコラボ動画見たよ〜楽しそうだったね」

「はい! 楽しかったです」

 風香は笑顔で答えた。

「次はどんな動画撮る予定なの?」

「まだ決まってはいないんですよね」

「そう。風鈴ちゃん達最近どんどん閲覧者数増えているから、きっと楽しみにしている人が沢山いるわ」

「それもさーやさんのおかげです!」

「はい、さーやさんのおかげで閲覧者数増えました。ありがとうございます」

「私は何もしてないよ〜でも負けてられないね」

 私たちは談話してから動画を撮影し、この日は無事に終わった。

 靴についてある、キラリと光ったものに気付かずに。



  ◆ ◆ ◆



 エルリ、リルキ、リミカは【地獄ノ女王所有物部屋】の前にいた。

「開けてみよっか〜」

 リルキはドアノブに手をかけ、捻ってみる……が、鍵がかかっている。

「やっぱり鍵がかかっているわ……」

「ダメか〜」

「でも一番手がかりがありそうですよね、この部屋」

「そうなのよね……」

「何してるの」

 三人の前にミヤが現れた。

「ミヤちゃん……」

「目的は何? とでも言いに来たの? それとも私が言わないから自分たちで私がなぜ犠牲者を集めているか調べに来たの?」

「ご名答ですね〜」

「この前からなんなの……別に目的関係ないでしょ……」

「関係なくありませんよ〜天国ノ王女様だって王と王女から……そして僕らも上の方から調べろと言われて地獄に来ているんですから〜」

「じゃあ、結果得られませんでした、とでも言って帰ってよ」

「無理ですよ〜」

「とにかく目的はなんでもいいでしょ、関係ないんだし」

 エルリが一歩前に行った。

「ミヤちゃん……あなたは凄いわ。幼いながらも地獄ノ女王をしていて……けれど流石に今回は……」

 ミヤの中で何かが切れた。

「……一番エルリには言われたくはない」

「え?」

「あんたに何がわかるの? 何も知らないくせに綺麗事だけ並べないで」

 ミヤはその場をあとにした。

「ミヤちゃん……」

 小さな背中をエルリは悲しげに見ていた。



  ◆ ◆ ◆



 順調に動画を投稿していた私たちだった。

 さーやとの二回目のコラボ動画はなんと一位をキープしていた。

「すごいね! 私たち有名人だよ笑鈴!」

「次から外歩く時マスクした方がいいかもね〜」

「大げさだよ」

 二人で笑いあった。動画を投稿するのがこんなに楽しいなんて……。

「あれ? 私たちの動画に通知が来た」

「え、なに?」

 風香が通知が来たのを確認した。

 私と風香は二人でパソコンに釘付けになる。

「……一位……? 見て、笑鈴!! 私たちの動画が一位だよ!!」

「見たらわかるよ……夢……?」

 なんとさーやとのコラボ動画の投稿の後にサイトに投稿した動画が一位を取ったのだ。

 さーやとのコラボ動画は二位に落ちていた。

「超有名人じゃん! 私たち!!」

「まぁ、その分。アンチも増えてるけど……」

「なんで、笑鈴はそんなネガティブなの! ポジティブにいこうよ!」

 風香のポジティブ思考がいつもより羨ましく感じた。

「ねぇねぇ、今度生配信やってみようよ!」

「そ、そうだね……」

「きっと閲覧者数がたーくさんふえるよ!! もう今日はお祝いだね!」

「そうだね」

 私はなにか引っかかることがあった。それはさーやのこと。

 ほおづき達が言っていたことが私の頭から消えなかった。

 そしてこの日からだった。

 私たちの生活が一変したのは。



  ◆ ◆ ◆



「あー、もうムカつく!!」

 ミヤは自室のベッドにダイブした。

「お嬢様、どうなされたのですか」

「エルリ! 腹立つ!」

「またですか……」

「今回は特になの!!」

「はぁ……」

 執事は、やれやれ、と思った。

「ねぇ、執事……」

 突然ミヤの声がか細くなった。

「犠牲者集めたら……幸せになれるんだよね……?」

「……なれますよ」

「じゃあ、頑張る……その前に……寝る!!」

「寝ないでください」

 執事の言葉に耳を傾けることなく、ミヤは眠りについた。



  ◆ ◆ ◆



 カタン、と郵便受けから音が聞こえた。

 またか、と思い郵便物を取りに行く。

 最近郵便物がやけに多い、そしていつも──

「また書いてない……」

 差出人不明である。

 けれど宛名はきちんと書いてある。私宛てに。

 これが始まったのは私たちが動画で一位を取った次の日からだった。

 差出人不明の手紙の中身はいつも白紙だ。

 けれど今日は違った。

「いたっ……カミソリ……?」

 封を開けた時、カミソリが入っていた。そして便箋に書いてあることは──

「ひぃ!」

 一文字ずつ丁寧に

『コ、ロ、シ、テ、ヤ、ル』と書かれていた。

「なにこれ!? 意味わかんない……!」

 なんでこんなこと言われなきゃいけないの!?

 ピンポーン──と家の中にインターホンが響き渡った。

「だ、誰?」

 恐る恐るドアを開けると風香だった。

「笑鈴どうしたの? そんな怯えた顔して」

「実は──」

 私はこれまであった出来事を全て風香に話した。


「なにそれ!?」

「私もわかんないよ……けど誰かの仕業だよね」

「まさかさーやのファンとか……?」

「そんなね……」

「だよね……」

 二人の間に気まずい沈黙が流れる。

「とりあえず明日休みだし、今日泊まっていってもいい? 笑鈴の身になにか起こったら困るし」

「うん、むしろありがたいよ」

「もうこの際、パジャマパーティーしてる様子動画に撮って投稿しちゃお!」

「そうだね」

 前向きの風香に救われた。


 夜さっそく風香とのパジャマパーティーの様子をライブしている。

 本当は動画を撮って、きちんと編集するのもいいかと思ったけどありのままの姿を見せるのもたまには悪くないと思った。

 二人でお菓子を食べながら閲覧者さんに話しかけながら一時間近く過ぎてた。そして時刻は夜の10時を回った時だった

『──ピンポーン』

「……? 誰だろこんな時間に」

「もしかして閲覧者さんの中の誰かじゃない?」

 風香がそう言った瞬間コメントで「俺です(笑)」「もしかしてストーカー……?」「風鈴三人目のメンバー!?」などと閲覧者さんがコメントしてきた。どうやら閲覧者さんたちにもインターホンの音が聞こえていたようだ。

『──ピンポーン』

 もう一度鳴った。

「ふうはここで待ってて、私出てくるから」

「オッケー! じゃあ、その間えみの部屋探索してなにか見つけるね、うししっ」

「やめてよ〜」

 私は自分の部屋をあとにし、玄関に行った。

 覗き穴から見ても外が暗くて訪問者が誰かわからなかった。

 チェーンをつけ、ドアをそっと開けた。

「あ……さーやさん!?」

「こんばんわ、えみちゃん……なんだかライブ楽しそうだから来ちゃった」

 さーやさんは微笑んだ。

「私も参加していいかしら?」

「どうぞ! ふうも喜びます!」

 私はさーやさんを家に招き入れた。

「いま二階にある私の部屋で配信しているんです」

「そうなの……」

 階段を上っているとき、私は不意に思った。

(あれ? 私、さーやさんに家の場所教えたことあったっけ?)

 後から付いてくるさーやさんに聞くことにした。

「ねぇ、さーやさん……わた……」

 後ろを振り向いた途端、腹部に激痛が走った。

 私はそのまま力が入らなくなり、倒れ込んだ。

「あなた達が悪いのよ……」

 さーやさんは私を見下した。声を出したいけど恐怖と痛みで思ったように声が出ない。腹部に刺さっている包丁から生暖かい赤黒いものが出てくる。

「私より人気になるから……あなたの相方も同じ包丁でトドメ刺してあげる」

「かっ……」

 腹部に刺さっていた包丁を抜かれた。

 そのままさーやさんは風香のいる部屋に向かっていった。

「だ……めぇ…………」

 何もかも力が入らない。

 意識が遠のく……。


 かたん、という音に私は少し意識を取り戻した。

 さーやさんが私の部屋から出てきた。

 意識朦朧としている中、階段を降りようとしているさーやさんの足を掴んだ。

 最後の力を振り絞り、生きている中で1番力強く掴んだ。

 そのあとはもう覚えていない。



   ◆ ◆ ◆



【地獄ノ女王所有物部屋】の空きのボトルが残り一つとなった。

 その残りのボトルをミヤはジーッと見ている。

 その様子を隣で執事は見ていた。

「いいんですか、お嬢様」

「なにが?」

「今回の犠牲者は……」

 執事は何かを言いかけた。

「いいんだよ、大丈夫」

 ミヤは何かを察したように返事をした。

「それより今回は三人も一気に犠牲者が集まったんだもん。エルリ達が勘づいている前に早く終わらせて、逃げるんだよ」

 ミヤはそう言い残し、その場をあとにした。

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