流通 10
これで戦況は五分五分、というところか。ここからは油断も、手抜きも一切、出来ない。トルノーの方も本気で戦わざるを得ない。
「ちぃッ、厄介な代物持ち出してきやがって!」
「これぐらいのモノじゃないと、テメェの相手は出来ないだろうがよォ!」
エヌフィーは剣から魔力を引っ張り出すと、それらを空中で練り上げ、複数の魔力の塊……魔力弾を生成させる。現代の魔術における戦闘では魔力弾を好んで使うモノはいない。やはり通常の弾丸に魔力を乗せた方が威力は劣るものの、魔力燃費は良いからだ。
しかし、今のエヌフィーは神代の遺物から莫大な魔力量を捻出する事が出来る。魔力の消費量を考えずに打ち込むことが出来るということだ。
「これでも喰らってろッ!」
エヌフィーは一斉に魔力弾を発射させる。次の瞬間には新たな魔力弾を生み出し、繰り返し放っていく。それに対し、トルノーは自身の固有技能を用いて、全ての魔力弾の軌道が逸れていく。
ヒュンッ!とトルノーのすぐそばを通り抜け、地面へと落ちていく。
「ははッ!この程度の攻撃、俺には絶対、当てられねぇよ!」
そう言いながら、トルノーはなんと正面からエヌフィーへと接近を始める。雨のように降り続ける魔力弾の中をいとも簡単に潜り抜けながら、確実に距離を詰めていく。
そして、助走をつけるように詰める速度を上げ、腕を振り上げる。そして拳に魔力を集中させ、ボォンッ!とエヌフィーの顔面目掛けて一発、ぶち込む。再びエヌフィーは剣で防御を行おうとする。が、それは予想以上の力であった。
やはり神代の遺物である剣には一切、傷がつく事はなく、トルノーの拳に耐える。のだが、剣を持っていたエヌフィーの腕力がトルノーの放った拳の威力に耐え切ることが出来ず、剣ごと大きく吹っ飛ばされていく。
地面に何度も叩きつけられながら、ゴロゴロと後方数十メートル吹っ飛ばされ続け、巨大な瓦礫へとぶつかってようやくエヌフィーは止まる。
「はぁ……はぁ……!」
鼻から一気に血が噴き出す。口の中も切れているようで、舌には鉄の味が広がっていく。また、歯もいくつか折れてしまっているようだ。
「痛ぇじゃねぇか、このヤロウ……!」
そう言いながら、プッ!と歯の破片と血を唾と一緒に吐き出す。
「おいおい、頭も神代の遺物で出来ているのか?その剣みたいになかなか頑丈のようだけど」
ボキボキ、と両手を鳴らしながらトルノーは再び魔力を両手に纏わせ、追撃の準備を行なっていた。
(余計なダメージを喰らってしまったが……ようやく固有技能を使ってきたな。ということは、奴も本気を出してきたということか)
トルノーの固有技能は絶大で、あの戦争でも切り札として使われてきた。だからこそ、軍の中でもトルノーの固有技能について知らされている者は少数だった。エヌフィーもまた、彼の固有技能の詳細は全く知らない状態だった。しかし──
(そして実際に戦ってみて、ようやく理解したぜ。テメェの能力を──)
となれば、エヌフィーの勝ち筋も見えてくるというものだ。エヌフィーは上がりそうになる口角を抑え、こちらの意図を悟られないように表情を作る。トルノーの能力を見破った事がバレないように。




