流通 8
トルノーは「ごほッ!!ごほぉ!」とむせながらも、魔力を肉体に纏い、戦闘体制に入る。
(手榴弾の類かと思ったが……発煙弾だったか…!!)
トルノーは服の裾を破り、左腕からの出血を抑えるように巻き始める。
発煙弾もまた、少量の火薬を用いて煙を周囲に散らせる道具だ。あの至近距離で点火させられた場合、死ぬ事はなくても火傷を負うのは間違いないだろう。咄嗟に魔力で身を守ったとはいえ、熱を完全に防ぐ事はできなかったようだ。皮膚が焼けこげてしまった。
腕から指を伝って、ぽたり、ぽたりと赤く、温かいモノが床へと垂れていく。
(ちぃッ、こんな密室で煙弾使われると、厄介だな!)
室内戦闘はトルノーの得意とする分野ではない。そのうえ、この悪い視界の中、正面から戦うのは得策ではない。であれば──
「っらぁ!!」
近くの壁に蹴りを入れ、穴を開けようとする。空気穴を作り込み、煙を追い出せれば……!と思っていたのだが、壁はびくりともしない。
「結界だよ!」
背後からそのような言葉が聞こえた瞬間、蹴られたか、殴られたか、分からないが、背中に強い衝撃が走り、壁に叩きつけられる。
「ッ!!」
「俺は内部、外部共に敵が多くてな。元々は、この部屋もとい俺を守るために二十四時間常に展開していた結界だ。だが、部屋の中に入った奴を閉じ込める結界にもなるとはな!」
そう言って、再びエヌフィーが追撃を入れようとする。何処から来るか、分からない。が、じっとしていても攻撃を喰らうだけだ。咄嗟に右へと飛び出し、攻撃を避ける。
「はぁ…はぁ……!」
どうやらエヌフィーの攻撃を避けることには成功したみたいだ。だが、状況は一切、好転したわけではない。攻撃を受けた背中も痛い……。よろめきながらも、ここで慌てれば相手の思う壺だ。「ふぅー」と呼吸し、落ち着くことで状況を理解し、次の一手を考え始める。
「鈍っていると思ったが、相変わらず強いな。慌てず、冷静でもある。だが──」
視界の悪い中、ギラリ、と周囲に光る何かが見えたかと思えば、今度は四方八方からナイフが飛び出してくる。目視で避けるのは難しい、がナイフの刃に纏われた魔力を探知する事は出来る。そうして必死に避けていく。のだが相手はトルノーの事がはっきり見えているのか、首、腹、頭……と言った人間の急所を的確に攻撃していく。
「無敵ってわけじゃねぇだろォ!」
さらに攻撃の速度が増していく。避けきれず、頬をかすめ、皮膚が切れていく。
(さすがはエヌフィー部隊!戦争後も裏社会で戦い続けてきた結果か、しっかり連携が取れているな!あまりやりたくはなかったが──)
トルノーは魔力で空中に魔法陣を描く。魔法陣は三つ、重なって構成されており、それぞれがまるで機械の歯車のように互いに呼応して回り始める。
「まずい、一旦、退避だァ!!」
やはり、相手はプロ。魔法陣の構成に、魔法陣内部に描かれた図形、魔術式からどのような魔術を使おうとしているのか予測し、下がってきた。さらにトルノーが発動しようとしているのはただの魔術ではない。
(俺の固有技能を魔術式に組み込み、能力を拡張、発動させる!)
トルノーは詠唱を行う。
「固有魔術〈スペース・データ・パンク!!〉」
詠唱を終えたその瞬間、空間が歪み、どんどん膨らんでいく。そして気づけば、ドォンッ!!!と巨大な爆発音と共に部屋が吹き飛んでいた。
……いや、部屋だけではない。部屋がある倉庫の最上階そのものが大きく吹き飛んでおり、瓦礫や骨組みとして使われていた鉄骨が下の階や外へと落ちていく。
あちこちから驚愕や不安、恐怖する声が響いてくる。
(派手な技のうえ、魔力を半分以上消費するから使いたくなかったんだが……それになるべく話し合いで平和的解決にしたかった!)
トルノーは瓦礫に穴だらけで足場の悪くなった倉庫内に立ち、周囲を見渡しながら、警戒を続ける。あの程度でエヌフィー部隊がやられるわけがない。そう思っていた時──
パァンッ!と今度は火薬が炸裂する音と共に、トルノーの頭に強い痛みが駆け抜ける。
「ッ!!」
しっかり魔力で守っていたというのに、その弾丸は魔力の膜を貫通し、それは皮膚を破り肉にまで到達していく。しかし、頭蓋骨までは貫通出来なかったようで、弾丸は脳にダメージを与える前に動きを止める。
「軍開発の魔術師用徹甲弾なんだがな……やはりコード持ちの魔術師には押し勝てないか」
そう言いながら瓦礫の中、現れたのはエヌフィーであった。




