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「伝染病?」
それはハッキリ言って、そのまま流すことなど出来ない単語だった。
空気中を伝わっていく呪いじみた病気。
そんなものが流行っているとなれば大騒ぎだし、街中の明るい雰囲気と矛盾している。
だからトリッシュはギルド員に「そこで終わりじゃないでしょ?」と促して。
ギルド員は我が意を得たりとばかりに大きく頷くのだ。
「ええ、ええ。勿論です。当然街は大騒ぎになりましてね。しかし、そこで街長さまが医者を派遣しまして。そういった伝染病の気配はない……ということになったんですよ。そうすると当然呪いが疑われるわけですが……」
「調べなかった?」
「いえ、呪いでもないということで。神官様が行かれたので間違いないかと」
「……ふーん? じゃあ原因は何だったのかしら」
「裏町は色々事情のある者が集まりますからね。偶然そういうのが重なったんじゃないかっていうのがもっぱらの意見ですよ」
確かに、裏町とはそういうのが起こりやすい場所だ。
そもそも裏町とは税金を払えなかったり払いたくなかったり、官憲に追われていたり……とにかく色々な事情を持つ者が集まり自然構築されていく場所だ。
その中にはチンピラをまとめ上げて自警団じみたことをする者が現れたり、人にはちょっと言い難い仕事をする者が集まって裏ギルドのようなものを作り上げたりすることもある。
ただまあ、そういうのはある程度以上歴史のあるところで、大抵の裏町はチンピラ自警団が権力者のような顔をしているのが精々ではあるのだけれども。
とにかくそうした場所には医者もやぶ医者しかいないことが多いのもあって、とにかく人が死にやすい。
だから伝染病でも呪いでもないとなれば「じゃあ偶然か」となるのは納得できる話ではある。
「……でも伝染病を疑ってる人間はいる、と?」
「念のためってやつです。危ない場所に近寄ることほど馬鹿なこともないですからね」
「それはそうね」
そうでしょう、と頷くギルド員だが……まあ、トリッシュとしても本当に納得はいく話なのだ。
妹とその仲間が悪神像を壊したという話がなければ、ではあるけれど。
(……伝染病では、たぶんないわね。でも破滅教徒がいて悪神像がある。となると、間違いなく生命エネルギーを吸っている。あとはどういう方法で吸っているかだけど……)
これはあくまで可能性の話だが、裏町にも悪神像がある可能性は大きい。
そもそも悪神像自体は自ら生命エネルギーを吸収して回るような、そんな効果はない。
もしそんなことが出来たら破滅教徒が真っ先に吸われ尽くして死ぬからだが……つまり、なんらかの方法で生命エネルギーを吸収し、悪神像にエネルギーを注いでいるということだ。
……問題は、そうすることで何を狙っているのか。
妹が壊した悪神像は1つ。他にもあるとなれば……それは何かしらの大きな儀式を目論んでいる証拠だ。
悪神降臨?
いや、それはないだろう。やるには街の規模が小さすぎる。
で、あれば。
(……使徒降臨、か。面倒なことになりそうね)
使徒。すなわち神にその身を捧げ、死後も仕える連中だ。
神に力を授かり強大な存在と化しているが故に、並大抵の人間では敵わない相手だ。
しかも悪神の使徒となれば当然人間の敵であり、そんなものが降臨すれば何が起こるか分からない。
いや、こんな街1つくらいなら消し飛ぶだろうし……そこから悪神降臨に繋がる可能性だってあるだろう。
「あのー……どうされました?」
「え? うん、この街で贅沢品を売るのは難しいかなって思っただけ」
「いえいえいえ! そんなことはありませんとも! いかがですか、先程の凝縮魔石! 街長さまにお売りするというのは! 私たちが繋ぎましょう!」
「それで機嫌取ろうってこと? 手数料も?」
「あ、あはは……そこはまあ、ええ。持ちつ持たれつ、といいますか」
「いいわ。話を通しておいてちょうだい」
トリッシュが言えばギルド員は「勿論です!」と喜色満面だ。
「では、ご連絡先はどちらに……」
「今夜はまだ決めてないわ」
「ではうちお勧めの提携宿をご紹介します! 良いところですよ!」
それにも手数料を取るのだろうけれど、まあそれは別にいい。
トリッシュの興味は、この街の何処まではが破滅教団と繋がっているか……だ。
だから紹介状を手に、ずっと黙っていたスケルツォたちと商業ギルドを出たトリッシュは静かに口を開く。
「30%」
「50%。うさんくせぇけど、それだけにも見える」
「10%といったところかと。ただの俗物です」
「難しいところね」
あの職員はたぶん破滅教徒ではない。
そう、魔法使いであるカクタスの勘は重く見るべきだ。
魔力を見ることのできるカクタスであれば、ゴリゴリの破滅教徒は確実に見抜ける。
トリッシュも分かるのだが、スケルツォ同様に野生の勘のようなものも持っている。
その辺を合わせた結果30%であり、野生の勘100%のスケルツォは50%と言った。
つまり、あのギルド員は協力者か……結果的にそうなっている可能性もあると、そうトリッシュたちの勘は言っていたのだ。




