第57話 作戦名! えーと、あー…なんかいい感じの!
「作戦名! リリカを魔法少女に……いや、作戦名! ……えーっと、あー、ピンクッション、いやリリカル……リリ、だめじゃな。えーと作戦名! ……うーんと」
夕刻の休日。
笛奈主観でリリカとショッピング。リリカ主観で笛奈とデートが終了した後、ディスキプリーナは旧規格軽バンの中で作戦始動命令をかけようとしてごたごたしていた。
「今考えるな、今考えるな」
「リリカ魔法少女計画とかでいいっすよもう」
ショッピングした店の紙袋を持って軽バン乗り込んできた笛奈が、泥縄計画命名にツッコミを入れ、運転手のペーが呆れたように最小限な計画名をでっち上げる。
「ダメなのじゃ! せめて素敵でカッコいい作戦名を、もっとこう……いい感じの!」
「勝手にしろ。もういい。寝る」
呆れて笛奈はそう言って座席を倒し、足をダッシュボードに乗せて目をつぶる。
腕だけでなく、足も組んでいるためはしたない。
だが安心してほしい。動画拡散事件以来、懲りた笛奈はスパッツを履いている。
「パンツは見えんが、それはそれで見せるのもなんじゃが……」
スカートながらマニッシュなコーデで決めた笛奈だが、それでもスパッツが見える体勢になるのは同性としてディスキプリーナは諌めたいところだ。
しかしそれが様になっているので、リリカと対にさせるにはそれはそれで……という気分が出てきて強く言えなかった。
ディスキプリーナは、肉付きのいい笛奈の下半身を見ながらため息をつく。
油断から、より無防備になったとも言える。
『アバター、起動したぞ』
「うむ。そのままリリカが近づくまで待機だ」
寝たような状態の笛奈は、新型アバターと接続され。
隠されていた格闘怪人のアバターと、戦闘員のアバターたちが起動する気配と連絡がディスキプリーナへ届く。
結局、計画はリリカと笛奈が別れたあと、駅から集合住宅へ向かうまでを狙うこととなった。
当初、笛奈がリリカの自宅がある賃貸マンションまで送る予定だった。しかし、まだ日も高いこともあり、リリカは一人で帰ると言い出しため別れて作戦開始となった。
いつもだったら笛奈は無理をしてでも送るが、「怪我も治ったし、そうだな」とディスキプリーナへのお土産のおやつもあるからと別れてきた。
幸い、リリカの住む賃貸マンションは駅からまあまあ歩く。その途中、河川敷の公園にちょうどいいモニュメント候補があった。
『こちらアー。目標がボーダーラインに接近』
「よし、笛奈……いや、いけ! フルアーマード十字斬り男よ!」
現場で隠れて監視していたアーから連絡が入り、ディスキプリーナは笛奈が入る格闘怪人にゴーサインを出した。
◇ □ ◇ 悪 ◇ □ ◇
「がーはっはっはっ! ついに見つけたぞ、この【モニュメント】こそ! 我々が探し求めていたものに違いない!」
夕暮れ時、リリカが河川敷の遊歩道のベンチで一休みしている時を狙って、格闘怪人を出没させた。
フルアーマード十字斬り男ッ! それはッ!
小夏と最初に接触した格闘怪人を、剣道防具という鎧で固めたコスト高めの再生怪人である。
単に、ちゃんと剣道用具一式をちゃんと装備させただけともいう。
とにかく剣道の面とランニングシャツにトランクスという安普請スタイルの怪人ではなくなった。
「え? な、なに! タ、タイダルテール? も、もしかして……これ?」
リリカは竹刀で指し示されて動揺してベンチから腰を浮かせた。
すぐにその竹刀が自分ではなく、後ろの門柱を指していることに気がついた。
この遊歩道はかつてごくごく一部に私有地があり、そこの地主が反対しているうちにほぼ完成してしまった経緯がある。
ベンチと植え込みで、遊歩道に一部だけ迫り出した係争地に侵入できないようになっている。
取り残された土地に、取り残された門柱は撤去されないまま残っていた。
反対していた地主が亡くなり、遺族が相続で揉めているうちにさらに当事者たちも亡くなり、孫ひ孫へ相続問題が係争されて、土地購入も門柱の撤去も、誰の許可とハンコをもらったらいいかわからない状態となり残っている。
「ついにこの【モニュメント】に、総統陛下のご病気を治す薬を作る手がかりがあるぞ! ええい、そこの小娘! 邪魔だ! 戦闘員ども!」
「ヘーイ」
「あの小娘を捕まえろ!」
「ヘーイ」
「や、やめて! こないで!」
フルアーマード十字斬り男に命令され、十人に及ぶ戦闘員たちがリリカに殺到して捕まえた。
シナリオではこうだ。
わざとらしく病気が治る手段を漏らす。ついでに総統がいることを仄めかし、出てこない理由を病気とする。
巻き込まれ捕まったリリカの前で、門柱を破壊している最中に、駅近くのヴァイオリン教室から帰宅しようとしている小夏を誘い出す。
しかし、フルアーマード十字斬り男は、再生怪人でありながらその装備のおかげでスコラリス・クレキストでも倒すことが難しい。
そこでミンチル・ミンチルが、リリカの才能を見出して魔法少女として覚醒させる。
そして共闘してフルアーマード十字斬り男を倒す!
「か……完璧だ」(ディスキプリーナ談)
雑なシナリオを下手くそな絵とともに書き上げたディスキプリーナは、作戦を完璧と称した寸劇が始まった。
「やだ! 離して!」
「ヘーイ!」
「ヘーイ!」
リリカはベンチから立ち上がったあと、逃げ出すこともできずに戦闘員たちに捕まった。
姫子と違って格闘技はやっていない。小夏のように咄嗟に劇的な行動ができる発想や思いっきりの良さもない。
彼女はごくごく普通の少女だ。抵抗も逃げることも上手くいかない。
「だれか、助けてーっ!」
すんなりと捕まってしまったリリカは、周囲に助けを求める。
いくら夕暮れ時とはいえ、大都会東京の下町の住宅街の公園。それなりに通行人がいる。
しかし、戦闘員が通行人たちを牽制をし、少しくらいの正義感では太刀打ちできない。
隠れて警察へ連絡するのが精一杯だ。そしてそれだけでも十分だ。
周囲の様子を確認したフルアーマード十字斬り男は、とりあえず【モニュメント】ということにした取り残された門柱へ近づく。
「ついに総統閣下のご病気が治る手がかりが手に入るぞ。……この中に、どんな病気も治る薬の情報があるのか? どーれ…………どりゃ、十字斬り!」
シナリオ上、総統は病気で弱っていて、それを治すためモニュメントから薬の情報が手に入ることをわざとらしく示した。
近くで目撃した人たちが、警察やネットでこの情報を伝えることを期待している。
得意の面から振り下ろし胴を薙ぐ十字斬りを、ブロックとモルタルで作られた門柱へ放つ。
しかし、門柱は傷がつくだけだ。
「ぬ、ぬう! さすが真の【モニュメント】……簡単には壊れぬか」
これも嘘である。
小夏がスコラリス・クレキストに変身して、到着するまで口実を作るための小芝居だ。
監視しているガーからの連絡によると、すでにスコラリス・クレキストに変身してこちらへ向けて跳んでいったという。
エティーズ・ルテティアは空を飛べるので、到着時間が早くなりすぎる。なので彼女がここから遠く離れた自宅にいる時間を狙った。
フルアーマード十字斬り男は、時間稼ぎのためわざとらしく構えを何度も変えて門柱を周囲をすり足で巡る。
「しかし、壊れるまで繰り返すだけだ!」
おおげさに竹刀を握り直し、ふたたび十字斬りを放とうと──
「やめなさい」
──して、何者かによって止められた。
スコラリス・クレキストが来たか……? 早いな。と思って、頭上を見上げたフルアーマード男は言葉を失った。
「やめろだと! 誰だッ! ……誰ぇ?」
遊歩道の街頭の上に、見たこともない少女が立っていた。
夕日を浴びてインカ帝国の黄金のように赤みがかった輝きを見せる金髪。
豪勢な髪飾りに首飾り。大きな革の手袋に腕輪。
浅黒い中東系の顔立ちに、大粒のガーネットがぶら下がるヘッドドレス。
少し暖かくなり始めた陽気のこの季節、厚い生地のコートに装飾の凝ったインバネスのような片肩のコート。
スカートを履いているのに、その下には折り目が綺麗な厚手のスラックス。編み上げのブーツはやや大きめだ。
そして雷のようにジグザグとした柄と、大きな鳥の羽で幾重にも飾られた箒を持っていた。
「な、何者……?」
本当に何者だ!
フルアーマード十字斬り男は、大袈裟な芝居がかった動きをやめ、本当に素で困ったぞという動きを見せた。
戦闘員たちも、何が起こったんだと互いに見合わせていた。
「あ、新しい魔法少女だ」
そんな答えを導き出したのは、戦闘員に捕まっていたリリカだった。
魔法少女か否か、はともかくとして、それに近い存在であることは、フルアーマード十字斬り男も周囲の人たちも、ここにいないディスキプリーナも察した。
薄着なスコラリス・クレキストやエティーズ・ルテティアと違い、荘厳で重苦しいコスチュームだ。
「私は、魔女アンミ・マジュス」
西洋の魔女らしい箒をフルアーマード十字斬り男に向け、抑揚のない声色で宣言する。
「薬の情報は……薬は私がいただく」




