第52話 新しい時代の新しい幕開けと新しいアバター
東京の大型イベント施設の近く。
あるショッピング施設は休日で人が溢れていた。
天気もよく、モールに併設された屋外のプロムナードも、露店と家族連れなどで賑わっていた。
そんな場所で、悲鳴のような声があがった。
「大変だぁ! タイダルテールが! タイダルテールの怪人が現れたぞー!」
ざぁっと人の波が引いていき、中央には透明の面当てをつけた格闘怪人と、二十人に及ぶ黒装束の男たちがいた。
「邪魔だ、邪魔だ! 縦拳の的になりたくなければ、散れ散れ!」
格闘怪人は近くにいる人を追い払うように演武を始めた。
離れた位置で、これを見た魔法少女ファン(48歳独身男性)は、配信用にスマホカメラを起動しながら驚きの声をあげる。
「面蹴り男……そんな! あいつは海岸で、スコラリス・クレキストちゃんに倒されたんじゃないのか?」
彼が上げた驚愕の声に怪人も気がついたのだろう。
膝蹴りと連続蹴りの演舞を見せたあと、一笑してこの疑問に答えた。
「はっはっはっ〜。残念だったな、トリックと再生怪人だよ。あと面蹴り男じゃない! 面踏み蹴り男だ!」
「違いますよ、違いますよ……」
名乗ったあと、近くにいた戦闘員に耳打ちされ怪人はしばし考え込む。
「え? あ……いや、俺は面蹴り踏み男だ!」
「再生されて、すっかり自分を見失ってるっすね」
恐怖! なんと面蹴り踏み男は再生怪人であった。
だがこの再生怪人というのは、あくまでタイダルテールによる設定である。
実際に再生されたわけではない。
古来……古来だろうか? 古典? 半世紀以上も経つならば古典でもよいかもしれないが、それはともかく。
昔から特撮では予算削減などの理由から、以前登場して倒された怪人が再び現れるという展開がある。
ディスキプリーナはそれにならって、予算削減……ではなく設定の再現として面踏み蹴り男だったか面蹴り男だったかが怪人として再登場ということとなった。
これにはアイデアの枯渇と予算対策と、もういくつかの試みを伴っていた。
一つは新型アバターの試験運用だ。
今回、ディスキプリーナはボーナス2回分の予算をかけて、新型のアバターを用意した。
従来型より性能は若干下がるが、ダメージや疲労のフィードバックがほぼないという特性を持つ。
さらに破壊されても回収の必要がない。
導入された物はアバター単品ではなく、アバター製造機と言ってよい。
砂を投入するとアバターとして人型に成型する機械を使い、製造したアバターを投入した。
欠点は使用期限が二時間しかなく、それを過ぎると性能が下がっていき、合計四時間で崩壊する。
アバター回収の手間はなくなったが移動時間等があり、製造機の置いてある秘密基地より遠方では使いにくいという制限ができてしまった。
「いわばサンドバック製造機だな! 弱体化して、やられ役に落ちるならもってこいだ」
怪人のアバターを操る笛奈はアバター製造機に名前を勝手につけ、ダメージのフィードバックがないことを素直に喜んだ。
笛奈はノーマルなので、痛みを喜ぶ性質ではない。
今回の新型アバターの性能次第で、旧型アバターはお蔵入りとなるだろう。
そしてもう一つの実験、それは戦闘員の数である。
「いくぞ、戦闘員ども! モニュメントを探すんだ!」
「ヘーイ!」
「ヘーイ!」
再生格闘怪人面蹴り踏み男の命令に、二十体の戦闘員たちが腕をぐるぐると回して了解の敬礼ポーズをした。
そして商業施設のあちらこちらに散らばり、|買い物客たちを追い立てる《逃す目的》ように捜索を始めた。
この戦闘員たちは、アー、ガー、ペーの三人をコピーして、サンドバック製造機で作られたアバターである。
遠隔操作はされておらず、あきらかに生き物らしさを感じない自動的な無機質な動きをしていた。
発声機能があるため、秘密基地からアー、ガー、ペーは声で介入できるがそれだけである。
地球を狙う真の敵【ノイズィスラッシュ】の正式装備品である量産型アバターで、低品質低コスト高汎用性を持つ。
本来は雑用に使われるアバターだが、地球では戦闘員として充分通用する。
さらにアー、ガー、ペーたちが直接操らなくても、彼らのデータを元に形成されたAIである程度自立して行動できる機能を有している。
なにより安く、しかも経費で落ちるからとディスキプリーナの財布に優しい量産品だ。
あらかた買い物客を追い払い、【モニュメント】と思われる撤退したテナントのまだ撤去されない樹脂製タコの像に戦闘員が群がった。
「これがモニュメントか。食われる側であるくせに、たこ焼きを返す……なんていうんだ、この千枚通しみたいな道具? を持ってたこ焼き屋のマスコットなどしやがって」
面蹴り踏み男は、唐揚げ屋のマスコットであるニワトリや、トンカツ屋の看板に書かれたシャッポを被る豚などを気にするタイプのようだ。
なお笛奈は実際、当初は気にするが、いざ食べ始めると気にせず食べるタイプである。
「まあいい。この跳び膝蹴りで破壊して中身を確認すればいいことだ……」
「そこまでよ! タイダルテール!」
面蹴り踏み男が、タコのマスコット像に飛び蹴りをしようと構えた時、頭上から降りかかる声があった。
「何者だ!」
何者かわかっているが、お約束で面踏み蹴り男と戦闘員たちは周囲をわざとらしく見渡した!
怪人や戦闘員たちより早く、群衆が声の主を発見してソーラーパネルの上を指差した。
「レオタードだ!」
「パンツだ!」
「いや、スコラリス・クレキストちゃんだ!」
「エティーズ・ルテティアちゃんもいるぞ!」
拍手喝采、歓声を浴びつつ、二人の魔法少女がビルの上のソーラーパネルで名乗りをあげる。
「魔法少女スコラリス・クレキスト! 推参!」
「もぐもぐ……エティーズ・ルテティア、参上」
ステッキを片手にポーズを取るスコラリス・クレキストと、無手ながら長尺の武器を構えるようなポーズを取るエティーズ・ルテティアがソーラーパネルの上にいた。
なぜかエティーズ・ルテティアはドーナツを片手にポーズをとっている。
破損の恐れがあるので、良い子はソーラーパネルの上に立ってはいけない。悪の組織タイダルテールとの約束だ。
「ええい、邪魔をするな、魔法少女どもめ!」
面踏み蹴り男が壁を蹴りながら、三階屋上に設置されたソーラーパネルまで飛び上がる。そこで近くのビルの壁を蹴り、二人の魔法少女めがけて飛び膝蹴りを繰り出した。
左右に飛び、回避する魔法少女たち。
躱された面踏み蹴り男は、三枚のソーラーパネルに突っ込んで産業廃棄物へと変える。
ソーラーパネルを壊すな、とタイダルテールは言っている!
回避したスコラリス・クレキストは、戦闘員たちが集まる場所へと着地。
エティーズ・ルテティアは人々を守るように、群衆の前に着地した。なお着地する前に、エティーズ・ルテティアはいつの間にかドーナツを食べ終えている。
わずかに遅れ、追いかけてきた面踏み蹴り男が、戦闘員の前に着地した。
「ここが貴様らの墓場となる! 戦闘員ども! やってしまえ!」
「ヘーイ!」
散らばっていた戦闘員たちが号令一下、一斉に二人の魔法少女たちを取り囲む。
見物人が魔法少女たちへカメラを向けると、クールなエティーズ・ルテティアは蠱惑的に腰を振るようなステップを踏み、魔法を発動させた。
「越えてはならぬ虹色の小川!」
エティーズ・ルテティアが蠱惑的なステップを終えて魔法を唱えると、怪人と戦闘員たちを中心として、虹色のドームが形成される。
今までハート・アングルスとその派生、そして花を作り出す魔法しか世間で披露していないスコラリス・クレキストとは違い、エティーズ・ルテティアはさまざまな魔法を見せていた。
「クレスさん! これで存分に殺れます!」
「ティーズちゃん、やれますの言い方怖いよ!」
虹色のドームは怪人と戦闘員を閉じ込めるだけでなく、被害が周囲に及ばないように配慮した魔法だ。
閉じ込めて無力化されるには心もとないが、容易には破壊できないのでこれによって流れ弾くらいなら気にせず戦闘ができる。
だが怪人がカラテキック男のように強ければ、この魔法は余計な魔力リソースとなるだろう。
しかし再生怪人であるならコラテラルダメージを減らすほうが先決だと、エティーズ・ルテティアは判断した。
実際、それは正解であった。
まず戦闘員たちが、数を生かしてスコラリス・クレキストへと襲いかかる。
これをハート・アングルス・ショットで数人削り、戦闘員たちを砂の山へと変えた。
バフッ……と人間らしい手ごたえもなく、人形のように砂となって崩れる。
残った七名は取り囲むようにして、スコラリス・クレキストに上中下段にわけて一斉に攻撃を放つ。
スコラリス・クレキストはタイミングを見計らい高くジャンプしてこれを避け、腰のリボンを解いて振るうと、それは爆発的な発光をした。
変身時の発光現象を利用した目潰しだ。
戦闘を眺めていた群衆からも悲鳴があがる。
虹のドームは強い可視光を阻むようにできていない。
せっかくコラテラルダメージが出ないようにと、虹色のドームを作ったのにそれなりの迷惑をスコラリス・クレキストは振り撒いてしまった。
スコラリス・クレキストは戦闘でアドリブが多い。
この目眩しもそうだ。
着地してからは、見上げてモロに発光を見てしまい狼狽える戦闘員たちを、バッタバッタと薙ぎ倒すがその攻撃が全て特殊だ。
単純に殴ったり蹴ったりではなく、相手の足を掴んで転ばせたり、覆面を掴んだまま体を落として相手の股下を抜けていくとか、戦闘員に腕を掴まれたら逆にフライングボディアタックで突っ込んでいくなど、思いつきとしか思えない動きを見せる。
アー・ガー・ペーの戦闘能力をコピーしているとはいえ、自動的な戦闘しかできない新型戦闘員はスコラリス・クレキスト相手になす術がない。
かりに目潰しで目が眩んでいなくても、結果は似たようなものだっただろう。
かえって実直な武道の動きを披露するエティーズ・ルテティア相手の方が、まだ戦闘らしい戦闘になっていた。
エティーズ・ルテティアは戦闘員が繰り出す木刀、スコップ、杖などの攻撃を丁寧に捌きつつ、立ち位置を変えていく。
そして敵を誘導しながら、一人づつ潰していくという戦い方だ。
「な、なんで素手で武器相手にあんなに捌けるんだ?」
「手が届いてないのに、戦闘員がぶっ叩かれたみたいに砂になって壊れてるぞ」
観衆たちはエティーズ・ルテティアの防御と攻撃方法に疑問を抱く。
エティーズ・ルテティアの攻防は、格闘怪人によってそのタネが明かされる。
「ていやーッ!」
面踏み蹴り男の蹴りを、見えない何かで受け止めて大きく退くエティーズ・ルテティア。
この一撃によって、彼女が両手に持っていた何かが、淡い光を放って姿を見せた。
黒と白の蔦が捩れて巻きつき、双頭の蛇の頭を持つ大きな杖を、エティーズ・ルテティアは持っていた。それは医療・医術のシンボルマークとして世界的有名な、アスクレピオスの杖やケーリュケイオンの杖を混ぜ合わせたようなデザインである。
「ははは。このオレが見抜けないと思ったか! 魔法の杖を透明化させておくなど、卑劣な! ……いやホント、それ地味で低コストかつ悪辣だな、お前さぁ!」
面踏み蹴り男が暴いてやった、どうだ! と笑うが、すぐによく考えたらやべぇなこいつとドン引きした様子を見せた。
「ふふ。効率的でしょ!」
ドン引きしている面踏み蹴り男へ、双頭の蛇の杖を振り下ろす。
これを真正面から受ける面踏み蹴り男。
ここで耐えて、カウンターの膝蹴りを放とうとする。
それを見てエティーズ・ルテティアは杖の頭部を引き戻しながら、杖の石突き側を押し出す。
エティーズ・ルテティアの右手を支点として、杖の末端が弧を描き杖の面踏み蹴り男の股間へ迫る。
「うわっ、と! あぶねぇ!」
たまらず面踏み蹴り男はカウンターを諦め、体を入れ替えて金的攻撃を交わす。
「ひえ……」
一部群衆の男性や、配信で見ていた殿方が内股となる。
「……ち」
狙いを外し、舌打ちをするエティーズ・ルテティア。
「こ、こいつ、本当に魔法少女なのか!?」
面踏み蹴り男の疑問に、一部の男性たちが激しく何度もうなずいた。
魔女アングザイエティーズ・キスの一面を見せたエティーズ・ルテティア。
だがすぐに年相応の愛らしい笑みに切り替える。
面踏み蹴り男は軽快な連続攻撃でエティーズ・ルテティアを抑え込むが、時間は怪人の味方とはならなかった。
「ティーズちゃん! 下がって!」
最期の戦闘員を砂へと戻したスコラリス・クレキストが参戦し、声に合わせてエティーズ・ルテティアが大きく後ろに跳ぶ。
もちろん面踏み蹴り男も、スコラリス・クレキストの声を聴いて警戒をした。
「声で連携とはまるでなってな……い、ん?」
スコラリス・クレキストが叫んだ方へ顔を向けた面踏み蹴り男だったが、そこには誰もいなかった。
スコラリス・クレキストが使っている60センチメートルほどの魔法のステッキが、戦闘員たちの残骸である砂に突き立てられていただけだった。
「やーい、ひっかかったーっ」
魔法のステッキが、スコラリス・クレキストの声を再生して面踏み蹴り男を煽った。
「なんだとっ! ぐわっ!」
誘導され、煽られ、怒りをあらわにした面踏み蹴り男の頭上へ、スコラリス・クレキストが飛び掛かる。
面踏み蹴り男の顔を股で挟むよう肩に着地し、太ももで挟んだまま上体のひねりと下半身の振りで相手のバランスを崩して引き込み倒し……一気に投げる!
面踏み蹴り男は前方へ反転し、背中から地面へと叩きつけられた。
スコラリス・クレキストが放った技は、プロレスで言うハリケーン・ラナ、もしくはフランケンシュタイナーとも呼ばれる技に似ていた。
「ぐはっ!」
一撃で面踏み蹴り男は、砂となって弾けて消えた。
面踏み蹴り男がプロテクターでガチガチに固めていたため、不意打ちで投げた方が効果的とスコラリス・クレキストは瞬時に判断したのだ。
そのためこのような大技を放った。
実際、面踏み蹴り男はエティーズ・ルテティアの大杖の攻撃を、何度もプロテクターで耐えていたので正解である。
「やったー、勝利ーっ!」
「うおおおおおっ!」
「クレスちゃーん!」
「魔法少女、サイキョーっ!」
ネットでこの技が、うらやまけしからんと騒ぎになっていることも知らず、スコラリス・クレキストは勝利を素直に喜んだ。
笑顔で手を振り、観衆にファンサービスとアピールも忘れない。
一方、エティーズ・ルテティアはさも当然、という表情で壊れたソーラーパネルや、ベンチなどを魔法で修復している。
魔法で物品を修理するという奇蹟の魔法は、地味だがわかる人たちからは注目を浴びていた。
エティーズ・ルテティアはあらかた修復を終えると、怪人たちが【モニュメント】と呼んでいたタコの像を大杖で軽く叩く。
「……別になんともないですね。ただの撤去前のマスコット看板です」
「何を探しているんだろうね、タイダルテールって」
アピールを終えたスコラリス・クレキストが駆け寄り、タコの触腕を撫でながら疑問を口にする。
エティーズ・ルテティアは神妙な表情でうつむく。
「わかりません。ですが、いずれ《《あたり》》が出た時のことも考えておかないと……」
「ま、いっか。わからないなら、考えてもしょうがないから頑張ろうね」
スコラリス・クレキストの発言は、お気楽そうだが対処していくしかない、という覚悟でもある。
その意見には、エティーズ・ルテティアも部分的に賛成なようで、同意してうなずく。
「あ、おまわりさんきたよ」
「そうですか。では説明だけして、立ち去りましょう」
魔法少女たちは、警察とは良好な関係を築いている。
カラテキック男に手痛い敗北を喫した警察は、そのメンツと権威が揺らいでいる。
幸い、その前に魔法少女と接触し、その活動を黙認しつつ援助する確約をしていたため、最低限の面目を警察は保っていた。
いわば熊など害獣が現れた際、専門家であるハンターに駆除を依頼したという形である。
タイダルテールの怪人は、法的に害獣あつかいだ。
これによって警察は一方的に敗北したという事実から、魔法少女が駆けつけるまでギリギリ現場を持たせたという口実にすり替える出来た。
政治的な勝利である。
「あ、鈴木のおじさんだ」
駆けつけた警官の中に知り合いの年配警察官を見つけ、スコラリス・クレキストは嬉しそうに駆け寄っていった。
楽しそうな仲間の後ろ姿を見送りながら、大杖を抱き寄せて物思いにふけるエティーズ・ルテティア。
常勝無敗の魔法少女たちだったが、エティーズ・ルテティアはスコラリス・クレキストほど気楽ではなかった。
新章です。
じつは結構前から書いてあったのですが、仮面ライダーク◯ガでグ◯ンギ族を法的に害獣として対処しているという話を小耳に挟んで調べようと思ったわけですが……。すっかりそれも忘れてました。
作者は直撃世代なはずなのに、昭和ライダーも平成ライダーも見てないんですよね。
さらに去年一昨年から熊騒動であの裁判等体たらくがあって、基本警察などを有能にえがく本作ではどうしようかと悩みました。




