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この星の魔法少女たちは、まだ戦えない! ~アコンプリス イン マジカルガール~ 悪の組織が、戦えるよう魔法少女を育て上げます!  作者: 大恵


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第47話 コスプレの逆襲

 

 その日の夕方、ある集団の元にSNSのサービスを利用した妙なメッセージが届いた。


『こんや これから ここに スコラリス・クレキスト と アングザイエティーズ・キス が くる』 


 メッセージには画像が添えられ、国立新美術館付近が赤く塗りつぶされていた。


 ちょうどその頃、タイダルテールの怪人が新宿都庁前に現れたというニュース速報があり、赤く塗られた地点はそこから若干南を指していた。


 メッセージを送って者は誰なのか?

 タイダルテールの怪人が現れてから送られたようなので、怪人の出現場所は今までわからなかった者だろう。

 しかし誰も知らないはずであるスコラリス・クレキストの現在位置と、アングザイエティーズ・キスの行動原理。その両方を知っている何者かである。


 もしやと思った集団は、すぐに準備を始めた。

 

 一人はボール紙とFRPで作られた真っ黒な鎧を着込み、悪の組織の幹部風となる。兜は現場で被ることにした。

 三人はタイツ姿にベルトとスーツ、顔をすっぽり覆う戦闘員のマスク……は現場で被ることにした。

 本来、戦闘員五人なのだが、残り二人はバイト中でこの場にいなかった。

 最後の一人は、恐竜の着ぐるみ…………マスクと足のパーツは現場で着用することにした。


 戦闘員Aがカーシェアを利用して、近くの車を借りて五人は乗り込む。

 道中、メッセージが届くたびに精度増してていくスコラリス・クレキストとアングザイエティーズ・キスの接触ポイント。

 それを頼りに五人は車を走らせる。


 彼ら五人が到着したとき、すでにアングザイエティーズ・キスとスコラリス・クレキストの戦いは始まっていた。

 群衆の後ろで、最後の装備を整えて観戦と応援を始める。


 すると彼らより遅れてやってくるコスプレイヤーたちがいた。

 彼ら彼女らが集まり始めた時、スコラリス・クレキストがピンチに陥った。

 

 誰もが言葉を失い、何もしようとしない。スマホのカメラで撮影する者も、このままではいけないと思っているのに、思考が凍り付いている。

 そんな凍り付いた心と頭を、叩き起こすような通知音があちこちで一斉になり始めた。


 通知音で溶けて動きだした人々の思考に、明確な声が届く。


「クレスちゃんを助けるんだっ! みんなで! ここにいるみんな!」



◇  □   ◇ 魔 ◇   □  ◇


「ああ、これでやっと、この飢えと乾きが…………癒える」


 アングザイエティーズ・キスは恍惚した様子で、スコラリス・クレキストを追い詰めていた。


 スコラリス・クレキストは体力と魔力の限界に瀕している。

 アングザイエティーズ・キスは、少し離れた場所でスコラリス・クレキストを締め上げてて、眷属のクモで脱出の牽制をしているだけである。


 しかし、この距離がスコラリス・クレキストにとって絶望的だった。

 自由に動く足が届かない範囲。

 間合いを詰めようもクモが邪魔。

 鞭での拘束に抵抗を止めれば、引き倒されてクモの集団に押さえ込まれてしまうだろう。

 引き合いで抵抗するにも、力はアングザイエティーズ・キスが優っている。

 単純なセンスでは力の比べ合いを覆すのは難しい。


 加えてアングザイエティーズ・キスの鞭は、じわじわとスコラリス・クレキストの魔力を奪っていた。

 青いはずの髪の先が、わずかに栗毛色に戻っている。小夏本来の髪色だ。


 アングザイエティーズ・キスはチラリと、イチョウの木に隠れる白い猫を見た。

 すでにその猫はクモたちの糸によって無力化されているが、警戒は怠らない。


「ティーズちゃん…………」

「勝手に略さないでください。アングザイエティーズ・キスです」

「ぐうっん!」


 スコラリス・クレキストが呻いて呼びかけたが、黙らせるように鞭を一瞬緩めた後にすぐ強く締め上げる。

 緩んだ瞬間、呼吸を整えようとしてそれを阻まれ、スコラリス・クレキストの体力がさらに奪われた。


 あとわずかな時間で、アングザイエティーズ・キスの勝利が決まる。


 ──と、その時。


「クレスちゃんを助けるんだっ! みんなで! ここにいるみんな!」


 一人の太った中学生くらいの男の子が、棒切れを持って群衆の中から飛び出した。


「しみ……ず、くん……」


 アングザイエティーズ・キスは、その男の子を見て狼狽えた。

 少なくない隙を見せる。

 アングザイエティーズ・キスの対処が遅れている最中に、いつの間にか集まってたコスプレ集団が、野次馬をかき分けて飛び出してきた。

 行動的なバカ。だが、間違っていないバカたちが現れた。


 集団の先頭に立っていた太った男の子は、足が遅くすぐ集団に追いつかれる。


「なんてバカなの! お前たち! あいつらの力を吸い取ってあげなさい!」


 今、アングザイエティーズ・キスとスコラリス・クレキストは拮抗している。

 力でただ引き合っているだけではない。魔力を奪い取る、奪われないようにという綱引きも行われている最中だ。


 動けないアングザイエティーズ・キスを守るように、大型犬ほどもあるクモの群れがコスプレ集団の前に立ち塞がる。


 コスプレ集団は止まらない。


 精巧な黒騎士の鎧を着た悪の組織幹部風の男が、ダンボールと銀紙でできた大剣を振り翳し先頭を走り、一体目のクモに捕まって転倒した。


 コスプレ集団は止まらない。

 

「ト、トライアングルアターック!」


 戦闘員コスプレの三人が道端の幟旗の棒を使って、クモを袋叩きにしている。

 しかし、すぐに新手のクモに取り憑かれ、倒れていく。


 コスプレ集団は止まらない。


「俺たちには新しい魔法少女たちもついてるぞっ!」


 馬のマスクをした乗馬服の男が、乗馬鞭を振り回しながら叫ぶ。

 たしかに魔法少女のコスプレをした女の子……なぜか二人くらい男もいたが、とにかくそれっぽい格好の人たちがいた。

 ブラフかもしれないと、アングザイエティーズ・キスは思うが否定しきれない。

 叫ぶだけ叫んで、馬マスクの男もクモの波に飲まれた。


 コスプレ集団は止まらない。


 恐竜の怪人コスプレは、突撃する集団の先頭になっていた。

 転びさえしなければ、質量は十分に凶器となる。

 重く柔らかいボディは、クモの取り付きから中の人を守る。

 一番、クモたちを惹きつけ、クモをもっとも纏わりつかせて、体力の限界で前のめりに倒れた。

 もう立ち上がれないが、クモも転倒に巻き込まれて三体ほど消滅する。


 コスプレ集団は止まらない。


「うおおおおおおっ! 俺たちゃ最強! 俺たちゃ最強ーっ!」


 マスクというよりお面をつけただけの集団が、クモたちを蹴り倒しながら進む。

 遊覧船ジャックをして、スコラリス・クレキストに鎮圧されて尊厳を破壊された素人格闘系配信者たちだ。

 一応それなりに鍛えてはいる集団なので、数を生かしてもっとも多くのクモを倒しているが、やはり体力不足と技量不足でクモに飲まれていく。


 コスプレ集団は止まらない。


 新しい魔法少女と馬マスクの乗馬男にブラフ宣言されたコスプレイヤーたちも、次々と脱落していく。


 最後に残った子は、木刀を持った魔法少女……のコスプレイヤーだった。

 彼女はアングザイエティーズ・キスが助けた黒髪の魔法少女コスプレイヤーだ。


 決して華麗とは言えない必死な木刀捌きで邪魔するクモを倒しながら進み、最初に到達したのは、その魔法少女コスプレの女の子だった。


 なお一番に飛び出した太った少年は、集団の影で最初のころクモに襲われ組み伏せられている。


「……あの子は」


 なんとも言えない疎外感が、アングザイエティーズ・キスの中に漠然とした不安(アングザイエティーズ)として満ちる。

 

「クレキストちゃん、今、助けてあげるね!」


 魔法少女コスプレには不釣り合いなナイフを振り下ろし、スコラリス・クレキストとアングザイエティーズ・キスを繋ぐ鞭のもっとも力がかかっているであろう中間点を断ち切った。

 奇しくもそのナイフは、魔法少女のコスプレヤーに危害を加えようとしていた男が投げたナイフだった。

 この少女、助けられて逃げるさいに現場からちゃっかりナイフを拾って持って帰って行ったのだ。

 もちろん逃げる道中の自衛という言い訳もあるが、ちゃっかりとしている。

 今回、持ってきていたのは、言い訳のしようがない法令違反だ。


 しかしそのナイフは、アングザイエティーズ・キスの鞭を断ち切る際に、黒いモヤに浸蝕されて脆くも崩れ去った。

 

 証拠隠滅は偶然にも成された。


「ただのコスプレ集団が──!」


 断ち切られた鞭は黒いモヤとなって、スコラリス・クレキストを開放する。 

 バカみたいな作戦だが、アングザイエティーズ・キス相手には的確であった。


「私を助けてくれたあの人を、助けてあげて! スコラリス・クレキスト!」


 魔法少女コスプレイヤーの言葉に後押しされ、スコラリス・クレキストは無言で頷き駆け出した。

 クモたちはコスプレイヤー集団を相手に掛かりきりである。


 アングザイエティーズ・キスに増援はない。


 しかしアングザイエティーズ・キスに焦りはない。


「あなたは魔法を使ってはいるが、使いこなしていない。全容を理解していない」


 アングザイエティーズ・キスが冷たく言い放つと、黒いモヤになっていた鞭の残骸がスコラリス・クレキストの背後から遅いかかる。

 

「うぐ……」


 黒いモヤは一塊となり、スコラリス・クレキストの背中を強かに突き飛ばした。

 ダメージは少ないが、バランスを崩してアングザイエティーズ・キスに抱きつくような形となった。

 アングザイエティーズ・キスは怪しく笑う。


 直接肌を触れ合ったほうが、一番魔力を奪い取ることができる。

 弱ったスコラリス・クレキストは、すでに関節技や投げを行える状態ではない。

 しかも感覚で技を出しているスコラリス・クレキストでは、本格的に格闘技を修練しているアングザイエティーズ・キス相手に通用しない。

 変身しているスコラリス・クレキストが、変身していない姫子相手にかけるならばともかく、同質の力を反射強化状態ではまず無理だ。


「このまま、吸い尽くしてあげますね……」


「…………た」


 勝ち誇るアングザイエティーズ・キスの胸の中で、スコラリス・クレキストが何かを呟く。

 つい気になって聞き返すアングザイエティーズ・キス。


「なんですか?」


 スコラリス・クレキストは自らがっちりとアングザイエティーズ・キスに抱きつき叫んだ。


「ミンチル! 捕まえた……っ!」


 スコラリス・クレキストが合図をすると、イチョウの木の中で捕まっていた猫が光り輝いた。

 同時にアングザイエティーズ・キスの背後に、光の門が浮かび上がる。

 スコラリス・クレキストは倒れ込みながら、アングザイエティーズ・キスを押し込む。


「このっ……」


 アングザイエティーズ・キスは、スコラリス・クレキストに勝っているが知らなかった。


 アジトという存在を。

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