表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたくしの狗  作者:
15/15

十五、案内

「まずは、名を名乗るべきですわね。エリアナ=マルキードと申しますわ」

「リオネア=クレヴァーなのです」

「……ユリシア=グンデーレですわ」


 案内の前に名を名乗ると、麻里は数回反芻して「……エレナさんに、リーネさんに、ユーリさんですね!」と言った。緊張しているにしてはかなり距離感が近いのに、少し違和感を覚えた。考えすぎだろうか。


「では、どちらから回りましょうか。何かご希望はございますか?」


 ひとえに案内すると言っても、この学園はとても広い。端から端まで回っていけば、ゆうに半日は要するだろう。迷子を減らすためには片っ端から回るのも一つの手だが、今日そんなことをやっていたら、あっという間に他の生徒に囲まれ、身動きが取れなくなってしまう。

 エレナ様のもっともな提案に、どこか麻里は心あらずな状態で頷いた。まだ混乱しているのか、それとも……。


「えっ…と、ひとつ、質問いいですか?」


 控えめに手を挙げた麻里の視線は、クロードの方に自然とむいていた。陶酔とも不信とも違う目。

 一瞬、クロードに集る計算高い女生徒達に重なって見えたが、きっと被害妄想だろう。


「その人は、その……ここの生徒さんですか?」

「……はい。クロードと申します」


 恭しく一礼するクロードに、麻里は小さく何か呟いた。聞き取ることはできなかったが、表情から大まかのことは読めた。

 原作とは違うクロードへの驚き、ヒロインの前では名乗っていない愛称。――麻里は、恐らくゲームの知識を持っている。


「ご質問はそれだけですの? 特にご希望が無いのでしたら、代表的なところをいくつかかいつまんで回らせていただきますわ」

「あ、は、はい……。わかりました」


 一旦クロードを下がらせてから、人気のない廊下を美術教室、音楽室、資料室、と順に歩いていく。麻里が先程から、感動したような素振りをしているが目が覚めているのは、何度もやり込んだからだろう。

 30分ほど経ってもまだ3分の一も回れず、また、案内は面倒見のいいエレナ嬢が率先して全てやってくれるので、私は正直暇を持て余していた。


「……ユーリ様、ちょっとよろしいですか?」

「…? リーネ様、どうかなさいました?」


 エレナ嬢と麻里が化粧所に消えたのを見計らって、リーネ嬢が耳打ちをしてきた。声色は暗く、どこか収まりが悪そうだ。


「……謝りたいのです、この前のことを」


 この前のこと、とは私の話に考えさせてほしい、と言ったことだろうか。私としては責めるつもりは全くないのだが、それだけでは気が済まないらしい。


「ではせめて、何か、お力になれることはないのですか? エレナ様も、私と同じお気持ちなのです」

「力に、ですか……」


 ヒロインがゲーム知識を有していると分かった以上、そこまで力を借りる必要はない。かと言って何もないじゃ、収まりがつかないだろう。

 だから、ひとつだけ。


「――今度の祭りで、一緒に遊びましょう。その時に、お茶をおごってくださいな」


 それを聞いたリーネ嬢は数回目を瞬かせ、数秒の沈黙のあと、小さくクスクスと笑い出した。


「それじゃ、罰になってないのですよ。私たちが幸せなだけなのです」

「全員が幸せになれるなら、これ以上のことはありませんよ。……あ、お二人が来ましたわ」


 ちょうど出てきた二人の姿を捉え、リーネ嬢はいつものポーカーフェイスに戻る。

 ――この一ヶ月、本当に頑張らないと。私は自分に喝を入れた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ