4.もうガンガンいくしかなくね?
俺はキリカさんにこっぴどく叱られた。
二ノ瀬香乃葉さんとの接触は固く禁じられていたから。
数時間ネチネチと説教をされ、彼女に対する機密事項についての説明を受けた。それは、俺が今後彼女と接する許可が渋々だが降りたという事だ。
「鮫島からの報告では、まあ不可抗力だったそうですし、好都合な面もありますから、特別に今回の件は不問にします」
いや、もう充分叱られたんだけどな。
好都合というのは、夜間のジョギング時に俺が付きっきりで彼女を守れるからだ。
「あなたモテ期来てるんじゃない? ルナさんに、香乃葉様。それに公園で変質者と連絡先を交換したんですって? 良い傾向ですよ」
なぜモテ期の頭数に変質者が含まれているんだ。
やっとキリカさんから解放され、自由を味わっている俺の前に、
「やっほ、オツカレ~」
とルナが現れた。
今日もご機嫌だ。いつも研修とやらが終わると俺のところへやってきて、その日の出来事やグチを話していく。
彼女はテーブルに二人分の飲み物を置き、イスに座るや否や二ノ瀬香乃葉さんについて俺を質問責めにした。好奇心を剥き出しにしてあれこれ尋ねるルナに、俺の残った体力が削り取られてゆく。
「マジチャンスじゃね? いつコクんの? ルナ、メッチャドキドキしてんですけど!」
「なんでルナがそんなに興奮してるんだ?」
それにとても楽しそうだ。
「だあってー、タケシがやっと、憧れの香乃葉ちゃんと話して? これから毎晩夜の公園で会う? マジやったじゃん! ルナ超嬉しいよ!」
「ただのジョギングの付き添いだよ。任務込みの。それに告白なんてしないから」
「はあ!? 何言っちゃってんの? ワケわかんない。もうガンガンいくしかなくね? 向こうから一緒に走ろうとか言ってきてんでしょ? うーわマジでスエゼン? みたいな。
タケシ単純で、ドーテーだし、女の子からしたらチョロすぎってカンジだし、マジ狙ってきてるって。香乃葉ちゃんがムード作ってきたら、まずコクって? したらゼッテー、チューとかするじゃん? そんでさ……」
「頼むから落ち着いてくれ。ルナが言ってる事の方がわけわからないよ」
「タケシのがわかんねーっつうの! バッカじゃね? 好きなんだろ? もうマジさ、任務とかもカンケー無くね?」
「いや、だって一応組織で任務を与えられてるから、こうして彼女と接点が持ててるんだし……」
「カンケーねーっつってんだろ!」
ガン、と下からテーブルを蹴り上げた。怒りのこもった目で俺を睨みつける。
「テメー、グジグジ言ってんじゃねーよ、ストーカー野郎。殺すよ?」
「……」
本物の殺し屋から凄まれると、シャレにならない位怖いんだが。
「そーゆうのマジでキメえし。3年もストーカーしたらもう良くね?
ゼッテーコクれよ? ルナ見に行くし」
「告白とかしないし、見に来るなよ。
俺は彼女と話ができただけで夢みたいな気分なんだぜ? それに二ノ瀬さんが俺を好きになる事は絶対ありえないから、ルナが思ってるようにはならないからな?」
「ウケる、マジドーテー」
さっきから童貞とかうるさいよ、ほっといて欲しい。
「その香乃葉ちゃんさ、ルナ一回しか見た時なくて、よく知らないし。けど、話聞いてるとミエミエってゆうか。マジ誘ってるし」
どんな頭の構造してんだよ。俺の話聞いて、どうしてそう思えるのか理解できない。
「だからルナ、研修終わったら香乃葉ちゃん見に行くし。したらどんな子かわかって、タケシにアドバイス? できるし」
「……なんでルナは、他人の恋愛にそこまで情熱を注げるの?」
「てかタケシ、マジ頭わりーし。決まってんじゃん?」
ルナは唇をすぼめて眉をしかめる。相変わらずルナの言動は要領を得ない。
「つーか、ルナの任務って、香乃葉ちゃんの警護だから」
「は?」
「タケシがストーキングしてる時とか、車で待機してピンチの時だけ助ける? みたいカンジで。ルナ尾行とかできないし、けど人殺すの得意で、テキザイテキショ? とかキリカさん言ってた」
二ノ瀬香乃葉さんとジョギングしてる間もルナに見張られるのか……。後で何を言われるかわからないな。
「あとルナ、前居た組織に狙われてんじゃん? だからタケシと組んでたら安全? 的な」
「申し訳ないけど、俺は二ノ瀬さんに関する事以外はただのボンクラだぜ? ルナが襲われても助けられないよ?」
そう言った途端ルナはテーブルをバンバン叩いて笑い出した。
「はっきり言い過ぎ! マジウケる! タケシがルナより弱えの、前の組織の奴ら知らねーし。タケシと居ればビビるし、いんじゃね?」
話しながらも、ルナは何がおかしいのか笑い続けていた。




