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あの子と秘密組織と世界の真理とストーカー  作者: 呂目呂
第二章 あの子とストーカー
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5.今のままで幸せなんだ

 夜の公園のジョギング。

 家を出る彼女を公園まで見届けた後、俺は何食わぬ顔で待ち合わせの場所へ現れる。

「こんばんは」

 君はストレッチを中断して、いつもの生真面目な挨拶をした。

 もう二人でジョギングをするようになって二週間が過ぎていた。

 俺がストレッチをしている間、君はエアロビクス運動をする。変なダンスは披露してくれず、それが残念だった。

 最初の数周の間に俺と君は少しだけ会話をする。大抵はなんでもないような彼女の普段の生活についてで、俺はほとんど聞き役だ。

「それでやっと図書館に着いたんだけど、休館日だって事すっかり忘れてた」

「そっか、気をつけないと」

 俺はそれを後ろからずっとつけながら、休館日だよ、と心の中で叫んでいたんだ。

「私最近太り過ぎだから甘いもの我慢してるんだけど、今日もつい苺大福食べちゃった」

「全然太ってないのに」

 そう言うと君は

「見えないとこがヤバいんです」

 と、ちょっとお腹の辺りを手で押さえてから「えへへ」と笑う。本当はソフトクリームも食べてたのを知ってるけど言わない。

 五週目以降になると君はペースが落ちて無口になる。自然に会話も無くなり、お互いの息づかいしか聞こえない。俺は黙って走るこの時間の方が落ち着く。たぶん君もそうだ。もし向かい合って座っていたら気まずいだろうけど、走っていれば無言でも気にならない。

 そして、なんというか、幸せだ。君はなんとも思ってないだろうけど。

 最後の1周で君は「ラストスパート」と俺に声をかけてスピードを上げる。ペースも距離も彼女に任せてあるので、俺は合わせるだけだ。

 走り終えるとウォームダウンを兼ねてゆっくり歩きながら、君の家へ向かった。ここでも会話を少しする。

「今ってさ、友達みんな受験の最後の追い込みで大変なの。私だけなんにもなくて、遊ぶ相手いないし、毎日暇だよ」

「ああ、そうだよね」

「緑川君はいつも昼間はなにしてるの?」

「ぶらぶら散歩してる」

「暇なんだ?」

「そうかな」

 忙しいとも言える。ずっと君を見ているから。

「……」

 君はそれっきり黙ってしまった。家の前で君は「いつもありがとう」と律儀にお辞儀をする。そしてなにか言いたそうに口ごもってから「また明日ね」と家へ入って行った。

 

 組織の車へ戻りドアを開けると、ルナの笑い声と鮫島さんの苦笑いに迎えられる。これもこの二週間程で定着した光景だ。

「おい武史よ、この嬢ちゃんどうにかしてくれ」

 鮫島さんは弱り切った顔で言ってハンドルに突っ伏した。一日中ずっとルナの相手をしていればこうなるだろう。気の毒に。

「てか、あんた達の会話? マジ大爆笑! もう、マジカンベンだって」

 ぎゃははは、とルナの笑い声が響き、俺は顔面にクッションを押し当ててやる。もがもがと呻きながらも、まだ笑いをこらえきれずにいた。毎度の事だが、なにがそんなにおかしいのか不思議に思う。

 俺のジャージには仕込みマイクが付けてあり、俺と二ノ瀬さんの会話は車の中に筒抜けだ。一応非常時の連絡用なのだが、ここ最近他の組織の襲撃は無く、ただルナを笑わせる為だけの道具となっていた。

「ひー、今日はマジヤバかった。さっきとかタケシ、ヒドすぎ、超笑ったんですけど」

「……一応聞くけど、俺の何が酷かった?」

「気付いてねーし! 香乃葉ちゃんが、私ヒマなの~とか超アピってんのに、流して、ガン無視? ヒデーわ、あれは」

「何? あれって俺に誘って欲しいってことなの?」

「ひゃははは! マジ? 今それ? ルナだったら殺してるし~。カワイソすぎて逆に笑えるわ」

 ルナはまたとんでもない勘違いをして、一人で盛り上がっているだけだ。二ノ瀬さんは確かに暇そうな時もあるが、俺と遊びたいわけじゃないだろう。

「ねえ、あれだけ構ってオーラ出てんのに、気付かない? 前からずっとじゃん。誘ってあげないの? デートするでしょ、フツー。サメジマさーん、組織的にはオッケー?」

 勝手にしてくれ、の声が運転席から飛ぶ。彼は俺達をアジトへ送る為、ようやく身を起こした。エンジンがかかり、走り出す。

「ほら、キョカ貰ったし」

「俺は今のままで幸せなんだ」

「うわ出た、キメえ」

 二ノ瀬さんと毎日会って会話ができるようになるなんて、以前は想像もできなかった。これ以上の幸福は望むべくもない。

 ルナは口を閉じ窓の外に目をやって、しばらくそうしていた。久しぶりに訪れた静寂を俺と鮫島さんは喜んで受け入れた。

 車がアジトへ着く頃、ふいにルナが抑揚のない口調で言った。

「タケシって、マジ、自己チューだよね」

「へ? なんで?」

「初めてタケシの、香乃葉ちゃんへの想い? 聞いたとき、ルナ超感動した。マジ純愛って思った。ずっと彼女の幸せだけ願ってるとか、マジソンケーって。

 けど今、香乃葉ちゃんの気持ち、全然考えてなくね? 俺は幸せとかって言ってるけど、彼女がどう思ってるか考えたときある? 今どんな気持ちか想像できる?

 もしルナだったら、今頃部屋で泣いてるよ。得意の盗聴で聴いてみたら?」

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