第12話 第五夜、探偵よ、ナンバーで謎解きをせよ
謎解きは一周忌が終わった次の月、まだ寒い中に行われた。尾行の回数と不審な電話は日に日に増えていき久宝寺によれば姉が東京で出産したらしい。その方がいい、ずっといい。
五十鈴川は数字にこだわる女だった。そう思えば、今回の件は数字にからんでいる。五夜に十人の主要人物、これだけで終わることを祈るわけだ。
「でも何で犯人は幸子さんを選んだのか」
「五十鈴川がよく私のことを話していたんじゃ。それか余計に混乱を招く為か」
「原もちゃんとした情報は渡しませんでした」
「全部、計算していたなら本当に何がしたくてそうしたのか。何を明らかにしたかったのか」
五十鈴川の手のひらで転がされただけで終わるのか。そう幸子さんと話しながらナンバーに着いた。前と同じミックスジュースを頼んだ。氷を砕いているようで湿っぽい暖房の中で口にするとちょうど良かった。
「遅いよ。みんな集合しているよ」
「みんなって、久宝寺と五十鈴川だけやないか」
空気が凍った。
「何言うてるん? 五十鈴川は死んだって」
久宝寺の困った顔の向こうに目の色の消えた神路だった人間を見た。
「神路唯奈はここにいるはずがない。最初から話そう。なぜこんな状況になったのか整理しながら」
まず始まりは五十鈴川が山田冬馬と交際していたことから始まる。この交際はおそらく山田冬馬に脅されて仕方なく始まったものだろう。本気だったら、普通の神経で女を風俗に沈めようとする男と交際しないだろう。そしてその通りにならず五十鈴川は抵抗した。その結果、山田冬馬は裏で大捜索がされている。
五十鈴川の遺言書はおそらくちゃんとした物なのだろう。これを達成したらちゃんと成仏出来ると書いてあるという予想をしている。
「予想だけでしょ。そんなんで謎解きされても私が五十鈴川かすみの関係者である証拠は無いでしょ」
でも神路唯奈でないという証明ならすぐに出来る。同窓会も一緒に行くこともあっただろう。飲み会にも行ったはずだ。だったら分かるはずだ。答えてみろ五十鈴川。
「だから私は五十鈴川じゃないって言っている。だいぶ前やから覚えてないわよ。答えは」
その場にいる男をその気にさせる女がいたはずだ。
「そう。それで飲み代を払わせるの」
「いや、神路さん。それは違う。やられたことあるもん。手足の親指を結束バンドで絞められて転がすのが原さんの性癖やもん」
これで目の前の神路かぶれが神路では無いことの証明になった。原の性癖は関係者の間ではもはや常識なのだ。だからこそあのカラオケでは眠るわけにはいかなかった。
遺言書には山田の関係先の詳細が書かれていた。吾郷、木皿、原。吾郷は売春をさせようとした山田の上層部。おそらく木皿はもう一人の探偵候補で、原は親友を見殺しにした恨み。俺が使い物にならなくなったら、木皿に五十鈴川かすみの名を押して使う気でもいたのだろう。
だが、五十鈴川はちゃんと配役を考えた。それが久宝寺だ。
「なんで、僕が」
俺が突かれて一番キツイ急所なのだ。俺はともかく久宝寺には親と姉がいた。動いていない間に刺客は久宝寺に届いた。もし久宝寺たちの安全が確保されないと俺が困るということを知っていたのだ。
俺が過密して尾行があった時でなくとも久宝寺には週に一回尾行はあった。けん制をされている。それを五十鈴川かすみは見越していた。参ったする気になったか? 五十鈴川。
「何のことかさっぱり」
「じゃ、続きいくな」
では原の悪行を知らないということにして話を進めよう。実は済生会中津に昨日行って来た。久宝寺が他の同級生に聞いたんだ。神路って今どうしているのって。そうした済生会で入院しているらしい。
会ってきたよ、本当の神路唯奈に。見たことのない女だったよ。当然か、もう十年は会っていない同級生だ。
久宝寺だって、もう何年も会っていない。化粧をされたらアンタと神路の見分けもつかないだろうよ。それだけアンタは神路に上手く化けた。見事だ。それでだ。子どもが本当に盗られているのかの確認は取れなかったが、心労だそうだ。子どもの話も本当なのかもな。
ここで神路はこの件に関わっていないことが分かった。通夜の時点から入院していたそうだし、山田と子どもを盗られた報復で山田にひどい目に遭わすという線が消えた。じゃ、何が残るかというと、先に触れたように五十鈴川かすみに酷い仕打ちをした人間を消す為の事案だ。
「神路じゃないわよ。ごめんなさいだまして、ただの五十鈴川の高校時代のお友達よ。五十鈴川がひどい目にあっているのを聞いて」
「まさかそれだけの為にこんなに人を殺したのか」
「それほど好きだったのよ」
「仮にそうだとしたら筋は通るかもしれない」
「そうよ。そうに決まっているんですもの」
じゃ、何で最初に言わなかった。最初に自分は五十鈴川の友人で復讐を手伝って欲しいのと言って断れば尾行をつけても良かったじゃないか。
無駄な抵抗はよせ、アンタは五十鈴川の妹か姉だ。
従姉妹かもしれないがそれはさほど重要ではない。五十鈴川が売春をさせられそうになったことを吾郷はごまかして、木皿が警戒して話をするのに途中で二人を降ろして、原に最後を覚悟させたのは全部アンタの存在を察していたからだ。犯人はお前だ。五十鈴川。
「吾郷はなんて?」
「練炭で殺された」
「そうよね、重かったもん。台車に乗せるのも一苦労よ。最近は便利よ。だってお金を払えばただ尾行してくれて、ただ電話をしてくれるサービスがあるのよ。吾郷にたどり着いたら全部分かると思っていた。でもどう考えても山田の影がちらついた」
「三人殺して死刑やな」
「え、ジーコ。殺したって」
「吾郷と木皿と山田だ」
「冷たい水で可哀想だったわ。もっといい殺し方はあったのに」
「それで問題が出て来る。なぜ幸子を呼び出したか」
「そればっかりは分からない。なんでお姉ちゃんが幸子を第五夜に呼んだのか教えてくれなかった」
それがきっと事件の終わりなんだ。俺は探偵だったが、本当に謎を解くのは俺の仕事じゃない。きっと幸子さんが謎を解いてくれる。幸子さんに五十鈴は託した。そうですよね、幸子さん。
「あー、やれやれ。遺言書を預かっているの」
「遺言は一つのはず。何を言って」
〈ともみ、あなたのことだから私は誰かの心や行動に殺されたと思うでしょうね。確かに私は自分の選んだ選択肢の為に死ぬ。山田が既婚者なのは本当に知らなくて、ずっと独身だと思っていた。私がこれを書く一週間前に神路と山田が仲良く歩く姿を見て、私は罪を犯したことを知ったわ。それでも私は山田を愛していたし、また神路も愛していた。そうなったらもうどうしようも無い。いつだって真実を言い合った親友が、繋がりが、消えていく。
私はこの地獄が耐えきれない。山田を詰問すると次のデートの日に風俗に連れて行かれた。本当は愛していない、遊びだったってその時に肌で感じたの。アイツは私をまずヤクザの愛人にしようとした。吾郷って男は悪い男だけど好き嫌いの激しい男だった。折を見て逃げたら追ってこなかったわ。
これは全部、私の罪で、全て私のせい。山田は死ねばいいと思うけど、親友の旦那に本当に死ねとは言えない。私が残した恨みだらけの遺言書ではなく、この遺言書が正しくあなたに届く事を祈って。
追伸、謎解きは古寺にさせてね。あなたは事件の舞台を仕上げるだけでいいの。だって誰も殺していないでしょ)




