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プロローグ 腹ペコの冒険者

ーきっと誰も信じないだろうーあの時確かに私はかけがえのない冒険者たちと広大な世界を渡り歩いたー



ー夜空を覆い尽くすほどの流れ星を見た

 水面が七色に光る海を渡ったー

ー1年中花が咲き誇るお花畑を歩いた

 

 

 


いっぱい仲間と笑った。

いっぱい友達と喧嘩した。

いっぱい1人で泣いた。

いっぱい尊敬する人から学んでー

お腹いっぱい美味しいご飯を食べさせてくれたー


宝石のように流れ出る涙を零しながらも彼女はもうその涙の理由さえ分からないー


でもきっと大丈夫、私の心は、魂はそれを覚えている

   きっとまた必ずみんなと逢えるから


    だからそれまでおやすみ


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 

一面青々とした草原、それは地平線のように広がり、所々に小さな丘ができ、まるで緑の砂漠のよう。空は雲が重なりそのすき間を太陽の光が照りつける、上々の晴れ模様。

 その空を侵犯するように、小型の竜が天空を駆けている。優に30匹は超えるであろう数のワイバーンの群れが、つい先日結成したばかりの冒険者ギルドを遥か上空から見下ろし旋回していた。


横一列で草原を走る冒険者3人、そしてその後ろから遅れて走る冒険者1人。


「…ハア…ハア」


 体力に余り自身がないのか、若干の息切れを含み必死に3人に追いつこうとする者は、小柄な体格で、紫色のローブを羽織り、腰にはハンドアックスを装備、ローブの頭の先端は犬か猫かわからない耳をあしらった特徴的なデザインのフードを深々と被っている。

 顔はよく見えないが少し長い前髪からは汗が滴っており、彼等は今ワイバーンにとって格好の標的だということを改めて認識させられる。

 すると前衛を走っていた1人が後ろに顔を向けていた。白の薄いコート、下は少し長めのスカートのようになっており腰には試験管やフラスコのような瓶がいくつも取り付けられていた。

赤黒の髪に鋭い黄色い目、更に頭の先には天然物のケモ耳がついており少女は鋭い八重歯をちらつかせ激怒する。


「ちょっとぉ!!あんたふざけてんの!?こっちはあんたの荷物分けて走ってんのになんであんたが1番遅いわけッッッ!?」


よく見ればフードの方はハンドアックス以外何も装備しておらず、かわりに前衛の冒険者達に自分の荷物を振り分けていた。


すると前衛を走っている頭以外を鎧で重点的に覆い大きなロングソードを腰につけ更に1番荷物の積載量も多いであろう男は涼しげな顔を向けるとキラキラした笑顔で口を開いた。


「まあ、人には向き不向きがあるからね!!ここがチームワークのみせどころかな?」


普通の異性なら一瞬でときめいてもおかしくない綺麗な黄色の髪に整った顔立ちの碧眼の青年は今の彼女にはそれがより一層鬱陶しさを際立てていた。


「なんであんたは、逆にそんな余裕なのよッッッ!?おっさんっ!!あんたも黙ってないで何か云いなさいよ!!」


すると最後の冒険者であるその男にスポットライトが当たる。

 このメンバーの中では飛び抜けて年齢層が高く、推定でも30半ばはくだらないその男は、茶髪で長い髪を結び後ろに下ろし、黒縁のメガネをかけその上から前髪の先端の一部が降りてきている。その男は横でギャーギャーと騒ぐ怪獣少女に向かってひと言


「…昨日飲み過ぎて頭痛い…もう…無理死ぬ…」


「は?」


その発言に輪をかけて少女が叫ぶ


「…ざっけんなッッッ!!こっちは本当に死にそうなのよっ!!死ぬなら後で勝手に死んで!!」


「…おじさん心も死にそうだよ…」


そんなぐだぐだチームをよそにワイバーンの群れが上空から3体こちらに向かって襲撃してきていた。


狙われたのは最後尾を走る1番仕留めやすそうな単独の方だった。

ワイバーンはそのまま、首ごと喰らいつくようにその鋭い口を開けフードの冒険者に突撃する。


すると前方の3人が急展開し同時に行動に出る。


 初級魔法 アースブロック


先に動いたのはおっさんの方だった。

 そう唱えると、地面を両の手で叩いた。突如、フードの冒険者の地面から固まった土が突起状に現れ、ワイバーンの攻撃を防ぐ。

 するとその隙を黄色い閃光が駆け抜け、ワイバーン2体を瞬時にバラバラにする。

 現れたのは先程の鎧の金髪の青年だった。手にはいつの間にか抜剣された刃を光らせ、血を宿していた。1番後方にいたワイバーンは引き返すが青年は伸びた突起状の土を足場にし15メートル先のワイバーンを一突きし、地上に降り立つ。


「走れ!!小夜ッッッ!!」


ケモミミ少女はフードの冒険者にそう叫ぶとそれに呼応したように全力で駆け出し3人を追い抜いていく。

 それを見届けたケモミミ少女が腰についた試験管の瓶の蓋を4本開けると、その八重歯を光らせニヤッと笑い試験管を指の間に挟んでクロスさせ、空に向ける。


「あんたら、耳塞ぎなさいッッッ!!」


3人に聞こえるように全力で叫ぶと全員瞬時に耳を塞ぐ


ー退魔音響ー


心の中でケモミミ少女がそう唱えると4本のフラスコから四方にマナの粒子の塊が放たれる。

粒子はわずか数秒でワイバーンの群れの高さまで達した。


「ー散ー サン」


そして遥か上空から激しい耳鳴りのような音が降り注いだ。四方から送られる騒音にワイバーンの群れは中央へ集まっていく。

すると十分な距離をとったフードの冒険者が小さな丘の上で先程のおっさん冒険者に向けて呼びかける。


スキル ー知覚伝達ー


「…お願いします」


それを聞き取りおっさんが気合を入れる。


「よしきたぁッッッ!!」


おっさん冒険者のまわりから膨大な魔力が吹き出し再び地面を叩きつけるように両手を降ろし遥か遠くのフード冒険者の位置を正確に把握し唱えた。


:我、神の御手を授かりし者、我この地を掌握せし者、今、天地揺るがし力となりて創造の頂きへと導きたまえ:


上級魔法 ガイアライシング


直後、地面が大きく揺れ、まるで地中の奥底から巨人が持ち上げるように、フード冒険者の地面が地表ごと天高く持ち上がる。

そして上昇する地表の中、荒い呼吸を整えながら空を見上げる。そして、ここにきて初めてフード冒険者は両手を前にかざして目を閉じ唱えた。


:無限の闇に堕ちし哀れな魂よ、我、光の導きとなりてかの者に厳正なる裁きを下したまえ:


フード冒険者がかざした両手を包みこむように膨大な光のエネルギーが集まる。その力の影響で衣服が激しくなびきフードが翻り素顔が露わになった。

 ちょうど地面が目的地に達し、両の手でワイバーンの群れを捉えた。

 最後に乱れる黒髪と付けていたヘアピンと共に彼女が閉じていた瞳を開け叫ぶ。


上級魔法 ガンマメフィスト


「ガンマ!!メフィストォォォォォォォォ!!!!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


一瞬世界を白く包みかえると次の瞬間、白い熱線がワイバーンを包み込みようにして過ぎ去る。

 ワイバーンはそれに触れると骨も残さず灰となって消え白い熱線は地平線の先まで貫いたー

 

はるか下の草原で3人の冒険者達が雲を割った青空を見ていた。1人のおっさんは倒れ込んでいた。


そして、その雲1つない蒼海の青空を遥か上空の特等席から眺めていた少女は口を開く。


「…やっぱりこの呪文恥ずかしいよぉ…」


つい最近まで若干17歳のなんてことない普通の高校生だった彼女にはあの呪文はあまりにも不可思議で理解が追いつかず、何よりも…恥ずかしかった。

 それよりも彼女には今最も優先すべきことがあった。


それはー


「…おなか…すいたぁ」



  腹の音が鳴った




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