教悪師
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カナタにとって、小学生の授業はあまりにも簡単過ぎた。なぜならば、元々は東京大学を目指すほどに賢い高校生だったからである。
「何よ貴方達! こんなんじゃロクに授業が出来ないわ!」
五時間目。カナタ達の学校の算数は担任の先生ではなく、学校に専属の講師に習う事になっている。よって、算数は5年2組の担任である金澤先生では無く、この先生が教員となっている――。
「櫻井さん! 3桁×2桁も出来ないだなんて、先生は情けないわ! きっと貴方はアタシの生徒じゃないんだわ! 教室から出て行ってちょうだい!」
算数の教員――宮本先生は黒板を定規で叩きながら、カナタのクラスメイトの女子である櫻井にそう言う。宮本先生は30歳を超えていながら男性経験が無く、結婚願望を持つが全くそれは果たすことが出来ない。そのストレスを、あろうことか生徒に対して当たり散らす最低教師である。そのことを、未来から来たカナタは知らないはずはなく――。
(ミヤモトの野郎! 思い出したぞ、この女! 1年後にこの学校から飛ばされる教員だ!)
カナタはミヤモト先生の授業を頬杖をついて聞いていた。この教員の算数の教え方は、あくまで『算数の基礎が出来ている前提』の授業である。ミヤモト先生は、まだ基礎のできてない生徒は置いていく方針をとっている。故に、このスピードに追いつけない生徒は酷い末路を辿る。
「櫻井さん! 出て行きなさい! このままじゃ授業が終わりません! みんなの迷惑になりますよ!」
「……はい」
計算ができない生徒は授業の邪魔だと罵られ、教室から追い出されるのである。櫻井――その少女は極めて優秀な生徒だ。しかし算数のみが苦手で、まだ基礎は覚束ない。それを分かった上で、ミヤモト先生は彼女の心臓を抉るように罵声を浴びせる。当然、櫻井は言い返す言葉などない。出来ない自分が悪いと思い込ませる。それが、ミヤモト先生のストレス解消方法なのである。
「ふん! アタシの授業を阻害するヤツが消えたわね! ほら、何ボサッとしてるの! 板書ばかり見てないで早く答えを出しなさい! こんなカスみたいな問題が解けないヤツは全員摘みだすわよ!」
ミヤモト先生は黒板に定規を叩きつけ、生徒を睨みつける。――小学生に対してやっていいことではない。だからこそ、ミヤモト先生は1年後に別の小学校へと飛ばされていくのだ。ミヤモト先生はあくまで優秀な数学の講師。どれだけ授業で他人の心を傷つけようとも、成績が上がる生徒が続出するのならば彼女に頭は上がらない。その事実が彼女の悪態を助長させ、今に至るのだ。
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