Part25 「ショカン山ダンジョン攻略 その7」
Part25 「ショカン山ダンジョン攻略 その7」
ムーシュ・バリガーを連れて帰り、僕たちのパーティーに迎えるため多少の準備が必要だった。
「ですから、オーアールさん多少の脚色が必要なんっす、僕たちと本物の悪魔が同行しているというのは色々と問題があるっす。」
「しかし、自分もマッパーとしての責務が有ります、記録に嘘は書けないであります。」
「オーアールさん?私たちこれからテレポート魔法無しで、探検を続けるのは大変です、せっかく仲良くなれたのにもう会えなくなるなんて悲しいですわ。」
オーアールさんは大汗をかき震えだした。
「はいやはり、姫様の事情に鑑み、ムーシュさんはただ優秀なタンクとの記録に留めおくであります。」
「まあ、オーアールさん嬉しいですわ。」
<流石生まれながらの王族、いざとなったら大変な圧だ。>
「後はムーシュさんの見た目っすね、流石に角はまずいっすね。」
「いやダンナそうでもないぜ、獣人の血をひいたりすれば角が生えてたりするのは当たり前の範疇だぜ。」
「ふむ、そうぢゃな獣人の血筋だったり、何やら怪しげな血筋だったほうが、ムーシュの見た目を裏切るパワーの説明がしやすいのう。」
「そんなもんすか?ところでムーシュさん僕らと同じ探検服で良いっすか?」
「応、人間。俺っちは何でもかまわねえ、いざとなったら一瞬で俺っちの愛用の鎧に着替えられるからな。」
ムーシュさんはやにわに立ち上がると軽く手を振る、すると“ズン”と重い音と共に一瞬でムーシュさんの体が黒鋼の全身鎧で包まれる、その鎧は重厚で如何にも頑丈そうでともかく重そうだ、きっと僕じゃ立ち上がることもできないだろう。そしてその鎧の表面には無数の傷がつき、傷の上にさらに傷が幾重にも重なり元の色が何色だったのさえ分からなくなっている。
「流石、歴戦って感じっすね。」
「応、人間!俺っちは年季が違うからな。」
「その人間って呼び方はやめてください、まるで自分は人間じゃないって言ってるみたいすっよ、あくまで人間の体でいてください。」
「じゃぁ、宿六とでも呼ぶか?WWWW」
「旦那様です。」
ああ、リズさんの目が座っている、どうもリズさんはムーシュさん相手だとむきになってしまう様だ。
「うぅ、ダンナサマ。」
「よろしいですわ。」
「今の早着替えは人に見られたらまずいっすか?」
「いやダンナそうでもねえよ、タンクの早着替えなんて、珍しいもんじゃねえよ。」
「成程、あとムーシュさんに注意事項はないっすか?」
「あとは大丈夫ぢゃろう、まあ喧嘩でもして騒ぎを起こしたりせねばな。」
「喧嘩もできねえのかよ。」
「ん~喧嘩位い良いっす、但し絶対怪我をさせないこと、これが条件っす。」
「ムーシュは頭悪そうだからな、大丈夫か?おまえ手加減って知っているか?」
「リリッカ俺っちを馬鹿にするな!」
「はいはい、ともかくムーシュさんをギルドに登録しに行くっす。」
☆☆☆☆
ギルドに着くと大勢の注目を浴びる、僕たちのパーティーはリズさんのおかげで裕福なので、仲間入りを狙う人々が多くいる、僕たちの新しいメンバーに興味津々なのであろう。
ごっつい鎧を着たひげ親父が突然目の前に現れた。
「勇者殿、タンクが必要であればなぜ吾輩に声をかけて戴けぬ?この“北天の守護”タージ、きっとお役に立てましょうに。」
「いやいや待たれい、“城壁”のサンジを抜きに話を進められては困る。」
我こそと言い立てるむさくるしい男達に囲まれ閉口した。
「なんだてめーら、黙って聞いていればみんなこの“漆黒の盾”ムーシュ・バリガー様に喧嘩売っているのか?」
「貴様が噂の?その細い体でタンクとは笑止。」
「いいぜ、まとめてかかってきな。」
ドンと、重い衝撃音と共にムーシュさんの鎧と盾が現れた。盾は初めて見たが漆黒で、一切光を反射しない艶消しだ、方形で体のほとんどが隠れる大きな盾だ、きっとものすごく重いのだろう、凄い存在感だ。
「ふん、貴様剣はどうした、忘れたかWWW」
「てめーら相手に剣なんか抜いたら笑われっちまうわ。まとめて泣かしたるからかかってきな。」
鎧袖一触!その辺に居た野次馬やら何やら含め一気に吹き飛ばされた。
「呵々、ぬるいわ!」
「えーと、テートさんあんな感じなんっすが?」
「えー、お名前がムーシュ・バリガーさん、二つ名が“漆黒の盾”、ジョブがタンクですなこれで登録完了です。」
「有難うございます。」
「無事済んだっす、朝食にするっすよ。」
「ムーシュ、馬鹿笑いしてないで早く来い!」
☆☆☆☆
マスケギルドで朝食をとっていると、やにわにギルドが騒がしくなる。
ギルドマスターのテートさんと行政官デアリスさんが難しい顔をしてこちらにやってくる。
「何かあったっすか?」
テートさんがまず説明しだした。
「はい勇者様、実はショカン山ダンジョンを探索していた者の内かなり深いところまで到達した者から、オークナイトを見たという報告がありまして、取り敢えず行政官殿を呼んだ次第でして。」
次にデアリスさんが難しい顔をして。
「勇者様、ご存じとは思いますが、オークナイトが居るという事は最低でもオークロード、下手をするとオークキングが居るという事です、並のオークとは違い統制の執れた大きな群れが居るという事です、至急に対策を必要とします、是非ともご高見を賜りたいと思います。」
「ん~、まずあわてることはないと思います、落ち着いてください、もし統制の利いた群れが町に悪意を持っているとすれば、とっくに何らかの被害が出ているはずです、被害がないという事は悪意がないとみても良いでしょう、冒険者の皆さんに、無用にオークの群れを刺激しないよう伝えてください、あとは僕たちがコンタクトをとって意思の疎通を試みます、その結果次第で対処を考えるという事でどうでしょう?」
「確かにおっしゃる通りです、しかしオーク相手に平和交渉が可能でしょうか?」
「そのオークロード又はオークキングの統制力、知力、性格次第ですが、ここまで静かに潜んでいた事を考えると、それほどあり得ない話ではないと思います。」
「はあ、何分よろしくお願いします。」
デアリスさんとテートさんが退出する、二人とも心配げだ。
「えーっと、シャルさんこんなもんでよかったすか?」
「まあ順当であろうよ、取り敢えず見てからぢゃ。それにしても、デアリスを楽にしてやらなんだのは何故かのう?」
「ん~、ちょっと僕も楽になりたいから、最後っす。」
「それにしても、洞窟の中でそんなに大きなオークの群れって可能なんすか?」
「光の届かぬ洞窟の中ぢゃ、普通に考えたら食料が足りる訳がないからのう、せいぜい10頭位の群れが限界ぢゃろうて。」
「10頭位ならどうとでもなるっすね。」
「そこが問題ぢゃ、10頭程度ではオークナイト、ましてやオークロードは生まれるはずがないからのう、せめて100頭が居ないとのう、どのようなことになっているのか見てみなければ何とも言いようがないのう。」
「ダンナ心配するな!オークの百頭や千頭、俺と、ムーシュで軽く捻ってやる!」
「おう!」
「出来る限り平和的に解決するつもりっす、そのつもりで。」
「俺っちには分からねえ、なんでオークごときにそこまで気を使う?」
「彼らは、少なくとも今まで平和的に生存していたっす、その心意気を大事にしてやりたいっす。」
「まあ、ご主人様、人の上に立つ者はそうでなくては。」
「生きている者は、むやみに殺しちゃだめだよ。」
「マリエッタは良い子だね。」
☆☆☆☆
僕達は宿舎に戻り作戦会議をすることにした。
「んーっと、ギルドでは見え張ってたっす、実はオークについて僕は何も知らないっす、基本的なことからレクチャーお願いするっす。」
「なんだよダンナWWWW、オークは体が人間、頭はイノシシというモンスターだな、体力は人間に勝るが、知能はだいぶ劣る、概ね単独行動だがたまに数頭の群れを造る、1対1じゃ人間が苦戦するが基本的には人間にとって脅威ではないってとこか。」
「まあそういうことぢゃが、今回問題になっているのはオークナイトを見たと言う情報ぢゃな、オークナイトというのはオークの上位種で体力、知力共に並のオークを上回る、これだけでは大した問題ではないのぢゃが、オークナイトの発生条件がオークロード又はオークキングが居るということぢゃ。」
「んー、つまりオークロードかオークキングが居るのは確実ってことっすね。」
「そうだな俺もオークロードってやつは話に聞くだけで、初めてかち合うことになる、めったにない体験だな。」
「そうぢゃかなりレアケースに遭遇したのう、あ奴らは極めて知能が高く、統率力が高い、100頭以上の群れを従えている可能性が高い、上位種のオークキングだった場合1000頭は下るまい、またそれ位居なければあ奴らが発生する事も無いはずぢゃ。」
「でも待ってください、洞窟の食糧事情を踏まえると、10頭位の群れっていう話っすよね?」
「うむ矛盾するのう、矛盾の存在理由をしっかり見極めなければならぬのう。」
「何時ものように行ってみなければってやつっすね。それでオークの上位種の発生条件ってなんっすか?」
「うむ、オークの想いかのう?人が神や悪魔を発生させた現象と似たようなものかのう?」
「えっ、神が人を創造したのではないのでしょか?」
リズさんが不安な顔を向ける。
「一般的にはそういう事になって居るのう、しかし神も悪魔も人の想いがあってのものぢゃ、神は人の信仰心、敬愛等を糧とし己が力とする、悪魔は人の恐怖心畏怖等を糧とする、どちらも人の想いがあってのものぢゃ、時として人は神や悪魔を忘れ新しい神や悪魔に縋る、流行みたいなものぢゃな。」
「へえー、ムーシュはどうなんだ?」
「俺っちか?俺っちみたいな下っ端はあまり関係ないけどな、魔王様は明らかに人間に忘れられてからその力は失ったな、人間の流行の神や悪魔が急速に力をつけるのを見てきたのは確かだ。」
「神や悪魔の力の源泉が人の想いであれば、発生条件も人の想いであると、想定しても間違いであるまい。」
「それで人から忘れられた神や悪魔はどうなりますの?」
「古代神と呼ばれるものがそうぢゃ、多くは現神の目を逃れ隠れ潜むことになるのぢゃ。」
「んっと?現神とは今流行に乗っている神様っすよね、なぜ古代神は隠れなければならないんっすか?」
「古代神といってもまた信仰を得れば現神に返り咲くことも可能ぢゃからな、現神にとって強力なライバルということぢゃ。」
「成程なかなか神様の世界も生存競争が厳しいってことっすね。」
「ゆえに古代神の多くは諸悪の根源として語り継がれることが多いということぢゃ。」
「んー、取り敢えずはオークの事っす、つまりオークロード又はオークキングは相当数のオークたちの想いに支えられているという事っすね。」
「そういうことぢゃ、オークたちの想いとは何ぢゃろうな、今回はそこがカギかのう。」
「きっとねー、オークたちは“生きたい”んだと思うよ。マリエッタはそう思う。」
「案外マリエッタの言う事が正解かもしれないっす、先ずは行ってみなければっす。」
「そういうことぢゃ。」




