Part9 特訓(剣)
Part9 「特訓(剣)」
リズさんは生活にも仕事にも大分慣れたようだ、タカスカの町民もやっとリズさんを見なれたようだ、町にやっと平穏な日常が戻った。
「あー、なんだ、ダンナすること無いし、ちょっと剣の使い方でも練習して見るか?」
「えっ、教えてくれるんっすか?」
「ダンナも大分体捌きが出来てきたからな。んー、なんだ、その、俺は今までに人にものを教えるなんてこと無ったからな、上手くはできないけど、剣なら多少なんとかなりそうだしな。」
「宜しくお願いします!」
「ちょっと待ってくれよ、準備してくるからな。」
☆☆☆☆☆☆☆☆
「よう、ダンナ準備できたぜ。」
「はい!」
僕は張り切って“きくいちもんじ”を手に立ち上がった。
「いや、ダンナ今日は“きくいちもんじ”は無しだ。ついてきな。」
「はい?」
家の裏手に直径15cm高さ1.5mほどの杭が立っていた。
「今日はこいつが相手だ。」
「はい?」
「これを使いな。」
如何にも安物の剣を手渡される。
「鍛冶屋のトール爺さんに貰ってきたなまくらだ。」
「このなまくらで、この杭を切ってみろ、それが今日の練習だ。」
僕はリリッカさんからなまくらを受け取り、力まかせに杭に叩きつけた。
「ダンナ、それじゃだめだ、剣は引くか押すかしないと切れねえぜ。ちょっと見ていろ。」
リリッカさんは杭の上部5㎝位の所になまくらの鍔元をあて一気に引いた、杭の先端が綺麗に切り取んだ。
「へへっ、なまくらでもこれ位は出来るんだぜ。」
「なるほど、摩擦点の移動ですね。」
「なんだ~?」
「いえ。こっちの事で。」
僕は杭に向かいなまくらを振り回し当たる瞬間を狙って手前に思いっきり引いてみた。なまくらは杭に5mmほど食い込んで止まった。
「へえー、そういう事だよ、呑み込みが良いな。」
「有難うございます。」
「じゃ、俺は家に居るからよ、頑張って二つに切って見せな。」
「はい!」
剣が杭に食い込むと、剣の動きが止まり剣の柄と手が激しく擦れ強烈な痛みが走る。
<これを乗り越えないと、ここでは生きて行けないっす!>
やけになって剣を振り回していたら、あっと言う間に手の豆がつぶれ出血し剣の柄がヌルヌルしすっぽ抜けるようになった、かえって痛みが無くなったような気がする。
<僕はなんて柔なんだ。>
暫らくすると、杭の剣を叩き込んでいた部分が若干削れてきた。
<これは、そうだ無理と言う奴だ。>
ちょっと泣いた後家に帰る事にした。
「ただいま。」
「まあー、大変御主人様の手が!」
「すぐに治療しますからね、ここに座ってください。」
リズさんの治療魔法“ヒール”をかけてもらい、痛みが和らぐ、もう涙が浮がんできた。
「へー、これがヒール魔法か、大したもんだな。良かったなダンナこれで明日も練習できるぜ。」
もう涙しか浮かばない。
杭が二つになるまで4週間かかった。
☆☆☆☆☆☆☆☆
「やっと杭も切れたし次のステップに行くぜダンナ。」
「ハイワカリマシタ」<ヒキッ>
家に裏手に回るとリリッカさんが木の棒を持っている。
「今日からは防御の練習だ、剣は武器としてだけではなく、防御にも使える、これが出来ると出来ないとでは生存率がかなり違ってくるからな、しっかり覚えてくれ。」
「はい!」
ごく…
リリッカさんの棒が襲い掛かってくる、必死に剣を振り回し棒を弾く。
不意にリリッカさんが大きく振りかぶり強烈な一撃が飛んでくる、受けきれずに僕は地面に転がった。
「ダンナ、たまにはこういった強烈な攻撃もあるんだぜ、ダンナの力じゃ受けきるのは難しいから、せめて体に当たらない様攻撃を逸らせてくれ。」
「つまり、ベクトルの向きを転換させるという事ですね?」
「へっ、なんだそれ?」
「いえ、こっちの事で。」
リリッカさんが上から大きく振った棒の軌跡を、下向きに等角になるよう全力で剣で支え逸らす。
「へー、そういう事だよ。まったく呑み込みが良いな。」
「ありがとうございまふ。」
へろへろな返事だけは何とかする。
「取り敢えず、判り易い様に大きく振りかぶるからな、頑張って避けてくれよ。」
「はひ。」
日がだいぶ傾いた頃やっと今日の練習は終わった、痣だらけの体をリズさんのヒールで癒し貰う。
「全く、ヒーラーが居るってえのは心強いな、ダンナ明日もバリバリ行くぜ!」
「はひ。」
リリッカさんから及第点をもらったのは5週間後だった。
☆☆☆☆☆☆☆☆
「ダンナの剣捌きも様に成ってきたし、体も出来てきたからな、ちょっと難易度をあげるぜ。」
「ハイワカリマシタ」<ヒキッ>
家の裏に回ると、木の枝に分厚い板が2枚ぶら下がっている。
「見てなダンナ。」
リリッカさんは顔の高さにぶら下がった板に、なまくらの切っ先をあて、一息に突く、切っ先が板を突き抜けた刹那板が弾ける。
「剣で突くのは攻撃として有効な手段だな、なにせスピードが違う、難しいのは当てる事だな、かわされたり、弾かれたりすると大きな隙が出来るし、かといって腕だけで半端についても有効にはならない、足、腰、体幹、腕すべての力が乗って初めて有効な突きになる、まあ小難しいことは自分で考えてくれ、取り敢えず、この板に穴をあけたら合格だ。」
「はい。」
リリッカさんが居なくなった後暫らく考えてみる。
<やっぱり体で覚えるしかなさそうだ。>
なまくらで板を軽くついてみる、すると板は横を向く<真ん中を突くしかなさそうだ。>真ん中を狙い突いてみる、すると板は後ろに揺れる<成る程半端な力じゃどうともならない、言われた通り全身の力を使って突くしかなさそうだ。>力いっぱい成るべく素早く突く、板に切っ先がわずかに食い込み大きく揺れる。
<これは、揺れる板を狙うのが正しい練習法なんだろうな。>
何度も何度も突いているうちに、突いた後体がぐらつかなくなった、いちいち重心が乱れると、無駄に体力を消耗するから、体の方が勝手に覚えてくれたようだ、板には引っ掻き傷がいっぱい付いたが穴が開くのはまだ遠い先のようだ。
<今日はもう帰ろう。>
また、リズさんのお世話になっていると、リリッカさんが帰って着た。
「ダンナ、板を揺らしたまま練習していたな?」
「見ただけでわかるんすか。」
「当然だよ、いちいち板を止めていたら、板の厚さを倍にしてやろうと思っていたんだけどな。」
「ヒー!」
「WWWW、でもさすが俺のダンナだ根性あるぜ。」
「有難うございます。」
板に穴が開いたのは6週間後だった。
…
☆☆☆☆☆☆☆☆
「だいたい、剣の基本はできたはずだ、後は折を見て少しずつ技を教えてやるよ。」
「はい、有難うございます。」
「わたくしも、ヒールのお浚いが出来ましたわ。」
「WWWW、やっぱりヒーラーが居るのは心強いな。」
シャルさんの目が怪しく光っている。
「亭主殿、自分の変化に気が付いておるかのう。」
「へっ!」
自分を鑑定して見る。
スキル…剣技(Lv1)
「剣技スキルが付いています!」
「ふむ、亭主殿はLvアップが難儀ゆえ、こうしてスキルを増やしていくのが、成長の鍵ぢゃの。」
「やったな、ダンナ。」
「きゃー、おめでとうございます。」
「御祝着に存じ上げます。」
まだ、Lv1だけどなんとなくいい気分…




