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機械皇女は行進する  作者: ごてぱんだ
第一章〜お前の生きる価値は私が決める〜

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第四話〜化け物〜

 足を進め、ギルドの裏庭。別途建てられた離れへと導かれるようにフィリアは入っていく。


 床から天井まで一直線で簡素なつくりの室内。大部分が空白で色のない空間だが、部屋の奥にはベッドやシャワー室、更には机にソファーと生活感が溢れていた。


「ここ、元々は倉庫だったんですけどねー」


 カチャリ。扉の鍵を閉めたクノシエはふと横目で見ていたフィリアに一言。

 聞くところどうやら、元々は物置兼倉庫としてテルシエノ最初期に建てられた建物であったものの、ギルドの拡大とともに次第に使われなくなっていき、今ではクノシエの別邸兼さぼり部屋のような様になっているらしい。


「どうです?これだけ空いていれば、ひと暴れするには向いているかと」


「確かに広さはあるけど……これで収まる?」


「そんなの、そうならないように壁くらい張ってますよ。ほら」


 クノシエは鼻を高くして、何も無い空間を叩く。

 普通なら虚空を叩いたところで空を切るだけなのだが、クノシエの背後、叩いたその場所で彼女の拳が止まった。そして、そこを中心にまるで波のようにぐるり四方を衝撃波が伝わる。


「簡単な原理で、ただ魔力で内側にもう一枚壁を作ってるって感じです。強度は保証します、並大抵の力じゃ破壊できません」


「それって術者の力量?」


「……あら、察しがいい」


 クノシエの針のように鋭く妖艶な顔つきを見てフィリアに訪れる。


 かくはずのない、汗が頬を滴る感覚。


 残っている日常感覚というのは恐ろしいもので、汗なんてかくはずもないのに、フィリアの身体が勝手に感じ取っていた。

 幾度と戦い、学び、肌で感じ。その中で覚えるこの感覚。フィリアのこれまでを振り返っても、ここまでの視線は例に見ない。


「それじゃ、自分が相当強いって自慢してるようなもんだけど」


「ええ、当たり前でしょう。多分あなたが思うより私、強いですから」


 ____________それじゃあ、始めましょうか。


 瞬間、まだかまだかと待ちきれなかったクノシエは勢いよく地面を蹴りフィリアの眼前まで迫る。それとほぼ同時に斜め下から顔面に向かって伸びた腕。フィリアは目を見開き、ギリギリのところで反応する。


 構えている拳の高さ的に恐らくは顔面一直線のコースだ。そう判断し咄嗟に両手を上げ、何とかガードを間に合わせる。


 が、しかし。飛んできたのは、実にその小柄な体型からは想像できない様な重すぎる一撃であった。ふわり。フィリアの身体があまりにも簡単に宙へ浮いた。


「……っざけんじゃねえ」


 防いだままの腕の隙間からちらりと見えた、口元を緩くし悦に浸っているクノシエに心底腹が立つ。


 そのまま吹き飛ばされた勢いで、フィリアは壁にたたきつけられた。

 ブリキの身体であるからか痛みこそそれほどに感じないものだが、恐らく生身であれば少なくとも腕は持っていかれていたであろう。

 時間にして五秒にも満たないその一瞬で、クノシエを見上げる形になったフィリア。先手を打たれた。


「あら、潰すつもりで殴ったのですが。意外と頑丈ですね」


「随分と甘く見られたもんだな」


「それはそれは。ふふ、失敬」


 幾らでもチャンスはあるはずだが、クノシエは不動だ。それどころか壁に打ち付けられ、ずり落ち座りこむフィリアを見下ろすほどの余裕を見せている。


 確かに気が緩んでいた。それは認めよう。


 しかもって、してやられたままのフィリアではない。地面に手をつき、ゆっくりと息を吐き立ち上がり一歩、一歩。


 全力で叩き潰す。そのフィリアの変化を感じ取ったのか、クノシエも拳を握り直した。


 次は私の番だ。そう言わんばかりにクノシエに向かい殴りかかる。


 本当は剣聖の子を使いたいところだが、既にフィリアのそのスキルは死んでいた。洞窟の中から何度か発動させようとしたが、何の呼応もない。あれはあくまでもフィリア・グローリエとしてのスキルであって、今のフィリアには関係の無い物。死んでいると言われたらそうであろう。だから今のフィリアはこうして直接叩く以外の方法が取れない。


 そんな中、クノシエに向かって拳を向けるフィリアは思った。やはり、身体がいつもより軽い。


 羽が生えたような、そんな感覚。何処から動力が生まれているのかフィリア自身把握していないものの、普段より数段調子がよい。


 一つまた一つとクノシエへ、確実に拳を届ける。

 段々とスピードを上げ、責め立てる。


「うんうん。今のは、中々良いですね」


「はっ、その余裕もいつまで持つか見ものだな」


「ふふ。ええ、いつまで持つか。楽しみですね」


 だなんて感想を織り交ぜながら、クノシエは悠長に微笑み綺麗にいなしていた。それも、顔色一つ変えないで。

 それもそうだろう。ギリギリまで丁寧に向かってくる拳へ視線を合わせ、絶妙なタイミングでフィリアの手首を押し払い拳の軌道を変える。そして、すかさず反撃の拳を伸ばす。クノシエのその所作は細部まで繊細で無駄がなく洗練された、余裕は見せるが決して油断はしていないものだった。


 恐らくは相当な鍛錬を積み、幾つか死線を超えているのだろう。似たような境遇だからこそフィリアには分かる。とはいうものの、決してフィリアが劣っている訳ではない。拳は次第に頬を掠め、段々とクノシエを捉えていく。


 尽きることがないスタミナ。いや、まだ動力を把握していないだけで実際にはあるのだろうが、それでも感覚として無尽蔵にあるかのように感じるそれのおかげで、一度の殴り合いが長引くほどフィリアの方が段々と優勢になっていた。


「おいおい、そろそろ限界じゃねぇか?追いついてきたぜクノシエ!」


 遂に、拳が届くその瞬間。パシリ、クノシエは初めて真正面からフィリアの拳を掴み止める。

 ぶつかり合った両者、一歩も引かず。両者の間に一瞬の間ができた。

 追い付いた。その一瞬の出来事にフィリアは目を見開き声高らかに鼻を鳴らす。昔から負けず嫌いで闘争心をむき出しにしていたフィリア。ただただ、今この瞬間が楽しくてしょうがなかった。


「そうですねえ、少しばかり私も余裕がなくなってきました。私の見込み以上みたいですね」


「そりゃうれしいな。お眼鏡に叶ったのは」


「当然。私が声を掛けたんですから」


「確かにそうだったな。んじゃあ、その期待に応えるためにもう一段階ギアを上げねぇとな」


 二人は一歩も引かない姿勢のまま、話を続ける。

 方や楽しそうに、方や優雅に。


「おや、これより更に上があると」


「あたりめぇだろ。こっちはようやく動きなれてきたんだ、まだまだ続けるよなぁ?」


 実際、ブリキになってからというものまだ間もないもので、フィリア自身慣れていない部分が多かったのだ。

 しかし、そこは流石指折りの実力者。フィリアはこの手合わせの間に、段々と自身の身体に慣れてきていた。

 おおよそ、体感七割といったところだろう。


 微調整に微調整を重ね身体に慣れ、思うように動かせるようになる。強く、更に強く。そう進む自分にフィリアは燃えていた。


 がしかし、それも束の間。クノシエの唐突な一言にポカンとリズムを崩される事となる。


「うーん、困りましたねぇ。続けるのはいいのですけれども、これ以上となるとビアさんの攻撃をいなすのは思ったより骨が折れそうです」


 変わらずマイペースにクノシエは、空いていたもう片方の手でわざとらしく自分の顎をさすった。

 瞬間、場の空気が少し。ほんの少しだけ、冷んやりと重くフィリアにのしかかる。

 相変わらず何を考えているのか読めない状況にフィリアは少し釈然とせず唱えた。


「んだよ、そういう割には全然涼しそうな顔してんじゃねえかよ」


「あら、ばれてましたか。まあ、だって私、まだ全力の一割も使っていませんからね」


「は?何て?」


 今こいつ、何て言った?


 予想だにしていない一言にフィリアは思わず聞き返した。

 聞き間違えである、そう願って。


「だから、まだ一割も本気出してないんですよ。私。ああ、でも安心してください。面倒なのには変わりは無いですよ」


 だが、降ってきた言葉。フィリアの耳は正しかった。

 なんとも変わらず、当たり前な日常の様に優雅なままクノシエは淡々と答える。


「……バケモンかよ」


 これで?この強さでまだ一割未満?ふざけんじゃねぇ……ワクワクすんじゃねぇかよ


 フィリアに緊張が走る。


 今でさえ、身体に慣れていないとはいえ。それでもかなりの攻防だと、そうフィリアは思っていたからだ。

 そんな中でこうも言われたら、緊張が走るのはごく自然なことだろう。

 今日知り合った目の前の自分より小柄な、とてもハッタリを言うようには見えない奴が。自分の何歩も先を進んでいるかもしれない。


 思わず頬を引きつらせるフィリアにゆっくりと頷きながらクノシエは目を細め、一言落とした。


「ええ、本当にバケモノですから」

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