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カラスと、悪魔と呼ばれた聖女  作者: ユライダココロ
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19

◯月✕日

彼は見舞いに行く度、私をよく見てくる。







病室の窓を開けに行くと、決まってジャックが私の背をじっと見る。振り返ると彼は目をそらすのだが。


「ジャック、何かあるなら言って」


「……」


こう話しかけても無視してくるので、私は困り果てた。

何に怒った素振りを続けようというのだろうか。


「もういいわ。あなたの見舞いももうすぐ終わりだもの。私、公爵邸には戻らないことにしたの」


「それはどういうことだ」


「ここで働くわ。魔物が激化しているということだから、ヴァロンと共に働くの」


ようやく私と顔を合わせたジャックは、目を白黒させた。それから私の袖を引く。大きい彼のことだから、服を少し引っ張られるだけでも転げそうになる。


「ヴァロンが……ヴァロンがいいのか」


「はい?」


「だから、君は……兄さんの方が良いのか」


しょんぼりして言う彼の質問に、わけがわからなかった。その手を振り払い、ジャックには背中を向ける。


「あなたに守ってもらったことには感謝してるの。でももう、守ろうとしないで」


「君の力を利用することは絶対にしない。それに、周りのやつがどう言おうと君は悪魔ではなくて」


「あなたはもういいのよ。十分、恩を返してくれたわ」


私は聖女になりたい。悪魔と言われるのではなく。それはあらゆることに対しての、償いでもあった。

だからこれは、自分の力で切り開くべきもの。そこにジャックに頼ることなどない。彼はもう、十分恩返ししてくれた。

それに私にこだわっているのは、翼を治してあげたためだろう。

部屋を出ると、ヴァロンの元へ行く。診察室のカーテンがたなびいて、彼の長い髪は揺れた。


「ルナさん。少し待っていてください」


「先生、ありがたいね。あたしの腰を毎日見てくれて。ああ、そこのお嬢ちゃんは前にあたしの孫を見てくれた子かね」


腰が曲がったおばあちゃんが、私にシワだらけの手を伸ばしてきた。右手を躊躇せず、彼女はゆっくり包んでくれる。


「ありがとう。あたしの孫の翼を、治してくれてありがとう」


噛みしめるように、彼女は何度も何度もうなずいて、涙をこぼした。誰かの誇り、命に等しい鳥人の翼を治したこと。

こんなに感謝されることは初めてだから、たじろいでしまう。


「あなたの噂はちゃんと良いものもあるんですよ。いつかあなたは、悪魔と言われるのではなくて聖女になれます」


私の目標を、彼は見透かしているようだった。毎日、老人相手に診断を続ける彼は、それから棚に目を向けて首を傾げる。


「おや、湿布が足りませんね。在庫切れしましたか」


「それなら私が買ってくるわ。薬売りのところへ行けばいいのでしょう?」


「鳥人に薬売りは滅多にないんですよ。交易品の集まるところで、ポツンとあるだけなので」


「大丈夫よ」


道がわからないだろうと心配されるが、私は元スラムの子供。入り組んだ路地も、店も、得意中の得意である。

ヴァロンから少量のお金が入った財布を受け取り、外に出かける。道を進むと、周りは住宅街なので視線が痛い。ここから南に向かえば、私の存在は小さくなるほどの繁華街にでるはずだ。







交易品は鳥人の飛行運搬で山の中だというのに、かなりのものが集まっている。

ドライフルーツ、アクセサリー、異国の綺麗な織物。

人が多く、息も詰まりそうだったが、私は何とか湿布を店で買い上げた。露店も連なる中、店の看板に薬草のマークがあったのでわかりやすかった。

それを抱えて病院へ戻ろうとするが、大きな影が立ちふさがる。


「おいみろよ、こいつの銀髪」


「噂の白い悪魔じゃねぇか」


ガラの悪い男が二人、私のことを見下してくる。

彼らは鳥人なのだろうか?

背中に成人の大きな翼は見えない。


「私と同じ、人間なの?」


「あ?人間野郎と、俺達を同じにすんな」


星のタトゥーを首にした男がツバを飛ばしてきた。


「あのクソ忌々しいカラス野郎が、法律なんて難しいもんを作りやがるせいだ」


「あいつのせいで、俺達の翼は」


鳥人の法律のことはあまり知らないけれど、こういうガラの悪い人たちはよく知っている。


人身売買、誘拐、拉致、窃盗に、殺人。

そういう犯罪に手を染めている。黒くなりすぎた手は、もはやそれ以上汚れても何も失うものはない。


「そうだ、お前は公爵のお気に入りだったよな」


「私を捕まえてもなんにも得にならないわよ」


「はっ、命乞いするやつは皆そう言うぜ」


「!?」


男は私の背中に回り、後ろから身動きを取れなくする。口元を手で抑えられ、何も叫ぶことができない。

仄暗い路地に引きずり込まれて、私は足をバタつかせる。


「人間様はまだ味わったことがねぇんだ」


「そうだ、その目だ。ははっ!恐怖に染まるやつの目はいつもやめられねぇな」



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