表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カラスと、悪魔と呼ばれた聖女  作者: ユライダココロ
2/23

殿下に対する(にく)しみを燃やしてはならない。

私は憧れの聖女様のようになりたいから。

スタライト王国に伝わる、伝説の聖女の話。小さい頃から、私は伝説の聖女の背中を追いかけている。


人間の中には稀に能力者が生まれてくる。


人間、獣人、エルフ、ドワーフ、竜人。


種族が交差する中、私達人間に与えられた恩恵はその稀有(けう)な力である。魔力というものとはまた別で、人間は神様からもらったその能力をもって国を守ってきた。


「ルナ、仕方ないことをわかってくれるな。お前は不義の子なんだ。ビアンカは私達の子。殿下にはよほどふさわしい」


父とも言えぬ公爵は、私をいつもないがしろにする。昔から彼は、ビアンカのことを一番に考える人だ。パナケイア公爵家は、治癒の力を発現しやすい家系。

だから彼は妹が病弱だとわかったとき、必死になって私という存在を探し回った。


パナケイア公爵に出入りしていた使用人。それが私の母だった。母と引き離され、公爵家に無理矢理引き取られて。それからビアンカに引き会わされた。

金髪碧眼の絵に描いたような美少女は、悪魔の顔を持っているとは知らずに。私は彼女の病を必死で治したものだ。


『ルナお姉様の髪は真っ白ね。まるでネズミよ』


『赤い目なんて血みたいだし。あ、これは悪口じゃないのよ。()め言葉だから』


可愛らしい顔で言われても無駄である。彼女は本心から悪口を言っているし、私はその言葉に耳も貸さないようにしていた。


私の容姿は不気味がられること。そんなこと、母と暮らしていた頃からとっくのうちに経験していた。


「で、お前には新たに縁談を持ってきた。喜べ、相手は獣王国のクロウ公爵家だ」


とりあえず、今回のがダメなら次の縁談話という具合に、父は適当に選んだ。否、もう私はビアンカの病を治すという役割を果たして、用済みだからできるだけ遠くへ送るつもりなのだ。私という存在は目障りで、彼らには薄汚いネズミに見えるから。

義母である公爵夫人がそういう目でいつも(けむ)たがる。


支度(したく)はもうしてあるからな。早く行って来い」


と言われて、私は父親の顔を一発殴る………ことなどなく馬車に乗り込んだ。


『優しいルナ。母さんのことを忘れないで。向こうに行っても、お前は立派にやるのよ』


母の言葉が話しかけて、私の(こぶし)を踏みとどめてしまう。彼女は女手一つ、私を育ててくれた。

彼女の娘でよかったと、少し思う。伝説の聖女の話をしてくれたのも、母だった。彼女は薬草を売る仕事をするかたわら、よく話してくれた。


伝説の聖女は各地をめぐり、人々の傷病を癒やしたこと。それから彼らに勇気を与えたこと。


「母様、あなたの願いを必ず叶えますから」


母が私を公爵家に奪われる時、最後にいった言葉。


『困っている人を救いなさい。種族も身分も、罪人だろうと構わずに。あなたがその力を持つ限り』


人を憎んではならない。

人は何度も間違えてしまう生き物だから。

母の薬売りは、物乞いにさえ無償で届けられていた。そんな彼女の背を見てきた私は、彼女が憧れた伝説の聖女を目標にした。


右手に宿る癒やしの力。


「大丈夫、きっとうまくいく」


だからメソメソ泣いてる暇なんてない。向こうの地で困っている人を助けるのが私の役目。


王妃教育で今まで忙しかったけど、それもなくなった今。

一つ始めることにした。





◯月✕日

獣王国で静かな結婚式をした。

私はこれから、クロウ公爵の妻となる。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ