第18話 登校
スマホで書くの
寝転がって書けて以外と悪くないですね
「お醤油取って」
「ん、ほい」
「ありがと」
朝食の何気ない場面
目玉焼きにかける醤油を渡す
アクビが出るくらい日常の風景であり、そこにワクワクもドキドキも無い
「あなたたち、若いのに甘い雰囲気ゼロね」
「中身はアラサー夫婦だからな」
面白くないという感じで母が言うのを
ズズッと味噌汁をすすりながら素知らぬ顔で答える。
朝食でアーンとかでもすると思ったのか?
そんなこと新婚時代にだってやらなかったぞ。
「まぁ夫婦の寝室でイチャコラしてると思うことにするわ」
「「ごふっ!!」」
「あらさすが夫婦。息ぴったりね」
二人して味噌汁を吹き出しかけた様子を見て満足したのか
母は台所へ戻っていった。
「まったく母さんめ」
「はいティッシュ」
「あんがと」
千波が自分もティッシュで口を拭いながら、俺にもティッシュを渡してくれた。
こういうツーカーの呼吸も愛なのだ。
何もイチャコラだけが愛の形ではないのだ。
「じゃあ私そろそろ行くね」
ランドセルを背負いながら千波は登校の準備をした。
「一人で行けるか?」
昨日は初登校だったので、通学路を教えがてら俺が朝の登校に付き添っていた。
「子供じゃないんだから大丈夫よ。行ってきます」
千波はそう言って笑って玄関へ向かった。
小学校の方が高校より始業時間が早いので、千波と一緒に登校すると、俺としては少し早めの登校となる。
夫婦仲睦まじく登校というのもいいが、朝のコーヒーをゆっくり飲むのも捨てがたい。
俺が優雅に食後のドリップコーヒーをいそいそと準備していると
「なんで貴方が朝からここに来るのよ!!」
「幼馴染みだから当然なのです!!」
何やら玄関が騒がしい。
千波ともう一人
もう片方の声の主が思い当たり、嫌な予感全開である。
俺がこっそり覗きこむと、玄関先で千波と萌が口論している所だった。
このまま気付かなかったふりはできないかと思ったが、
「あ!!お兄ちゃん!!おはようございます。
萌と一緒に行きましょう!!」
「お兄ちゃ▪▪▪▪」
千波が絶句して固まる横をすり抜けて、萌が溌剌と俺の方を見て挨拶してきた。
隠れているのは無理なようだ。
「おはよう萌ちゃん▪▪▪▪朝からどうしたの?」
「はい!お兄ちゃんと登校したくて、お迎えに来ました」
「じゃ▪▪▪▪じゃあ3人で行こうか」
ギッと千波に睨まれたが、断る方便が思い付かなかった俺は
悪手とわかっていても、そちらへ手を進めるしかなかった。
俺はドリップコーヒーを諦めて出発のためカバンを取りに行った。
両手に花で登校
右腕に女子小学生の妻
左腕に女子小学生の幼なじみ
第3者が字面で見ると非常にカオスで羨ましい状況だが
当の本人である俺は生きた心地がせず、一刻も早く
二人と通学路が別れるポイントまで歩を進めたかったが、
両腕を抱えている同伴者が小学生では、足早に進むという訳にもいかなかった。
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「ユキ兄ちゃんと千波さんは、毎朝一緒に登校してるのですか?」
「いや今日はたまたm「はい、そうですが何か?」
俺に被せるように千波が答えた。
「あら?千波さんはつい先日転校されてきたのですから、まだ登校は二度目くらいでは?」
「毎朝、ふ う ふ で登校すると雪広くんと約束してるんです。
ふ う ふ ですから」
女性は嘘をつく時ほど、力強い物言いになるのは何故だろう?
こちらが何を言おうが、そちらの記憶違いだろで千波に押し通される未来しか見えない俺は何も言わなかった。
「あらあら、流石に高校生の夫の実家に押し掛け同居するために
わざわざ転校した方の重さは半端ないですわね。グラビデ級並の重さですわ」
「な!?あなたこそ、元世界では人妻なんでしょ!!
夫の人は今のあなたを見て、どう思うでしょうね!!」
「ああ、それなら御心配なく。
夫とは将来的には婚姻しますが、それまではお互い自由恋愛OK
ということになりましたので」
「「 !? 」」
これには俺も思わず絶句した。
夫婦の形はお互いが納得していれば問題はないが
「その合意協議を夫とするのに骨が折れました。
おかげで、私も学校に登校できるようになったのは
一昨日前なのですよ」
それ、夫の人、本当に納得してるのだろうか?
萌の夫は脳破壊されてないだろうか▪▪▪▪
「どうして▪▪▪▪そんな選択を?」
先程まで萌に対して敵がい心剥き出しだった千波が思わず萌に尋ねた。
千波さんや▪▪▪▪興味あるんですか?
「色んな経験をしたからこそ、今の私があり
今の私だからこそ、夫を結婚相手に選んだ訳ですよ。
だから、その過程である過去の恋愛も大事にしたいのです」
「なるほど▪▪▪▪ん?
じゃあ、なんで雪広くんに絡むのよ!?
ま▪▪▪▪まさか二人とも実は過去の今頃に実は付き合▪▪▪▪」
「ないないない!!それは本当ない!!」
手元に手を当てて、「こんな小さな子を!?」みたいな表情で俺を見る千波に
俺は必死の否定をする。
「萌との仲を全力否定するユキ兄ちゃんに思うところがありますが、
一応、お兄ちゃんの言う通りに、私たちに男女交際していた事実はありませんよ」
「だったらなんで!?」
「何も、過去の恋愛を全てトレースはしませんよ。
明らかに負の経験にしかならなかったものは除きます。
それで空いた時間とリソースは、折角なら別の経験をしてみたいのです」
思ったよりも芯の通った主張に、俺も千波も言葉が出てこなかった。
「ユキ兄ちゃん覚えてますか?
お兄ちゃんが小学校を卒業する時に
将来、私と結婚して下さいって言ったのを」
「雪広くん!!」
「いや、どうだったかな▪▪▪▪記憶が▪▪▪▪」
「嘘ついてるわね。雪広くん、嘘つく時は目線そらすから」
「ちなみに、ユキ兄ちゃんは当時、いいぞーって萌に言ってくれました」
「ぐふっ!!」
組んでいた腕からゼロ距離で、千波の肘が俺の脇腹にめり込む。
「少女のちょっと背伸びした微笑ましい夢じゃないか
形だけでも叶えてあげたいって思っtいたっ!!」
今度は左腕が萌につねられた。
過去の軽率な自分には恥じ入るばかりだが、昔の他愛もない約束が
こんな風に返ってくるなんて思わないじゃないか。
「確かにお互い、その後、約束を本気で履行しようとはしませんでした」
「だったら▪▪▪▪」
「だからこそ思うのですよ。
その子供の頃の夢を叶えられたら、どんな風景が広がっているのかって」
妖艶な顔で笑う少女は、夢見る少女であった。
ただし、ひどく純粋であるがゆえの恐ろしさもあった。
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