第19話 絶対領域
ソファで寝そべって執筆するスタイルに慣れてきました。
萌の演説を聞いて呆気にとられていると、千波たちと別れるポイントまでたどり着いた。
「じゃあ、ここで失礼しますね。ユキ兄ちゃん」
「じゃ▪▪▪▪じゃあね雪広くん」
千波も萌に圧倒されたようで言葉少な目だ。
ようやく俺の両腕が自由になった。
小学校の方へ歩いていく二人を見送り、一先ず嵐が過ぎた事に安堵する。
何だか朝からドッと疲れた。
しかし、これから毎朝こんな感じなのか?と絶望的な予見が頭をよぎり
足取りが重くなる。トボトボと高校へ向けて歩き出すと、
「おはよう雪広。朝からモテモテだったじゃない」
背後から声がかけられた。
「聖良▪▪▪▪見てたんなら声かけて助けてくれりゃ良かったのに」
「面白そうな場面だったから、つい野次馬してしまったわ」
フフフッと笑い聖良は俺の前に回り込んで笑顔を見せる。
「それで、隣にいた小柄な女子小学生の子とは、どんな関係なの?」
「ただの幼なじみの近所の女の子だ」
「ただの幼なじみにしては、言ってることが、かなり過激だったと思うけど?」
「聞いてたのかよ」
「なかなか衝撃的な演説だったからね」
「ところで▪▪▪何のつもりだ?」
「何が?」
俺はグイッと腕を引き抜こうとしたが、
ガッチリと俺の腕を抱え込んだ聖良の腕は振りほどけなかった。
「幼なじみの子に許してたから、私もOKかなって」
「小さい子が相手だからだ。高校生同士で腕組んでると洒落にならない!!」
高校へ近付き人の目が気になる。
再度強く腕を引き、ようやく聖良から離れる。
「あら残念。けど、ふーん▪▪▪」
「何だよ▪▪▪▪?」
「ううん。何でもー」
腕を振りほどかれたのに何故か上機嫌な聖良に俺は首をかしげたが、深くは考えなかった。
そのため、雪広が自分と腕を組む事を嫌がる理由が、カップルと見られるのを忌避するため、引いては自分を女として見ているという事実に、聖良が満足感を得ていたためであることに、雪広は思い当たらなかった。
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翌朝、昨日の朝を思い返すと気が重いが自宅を出る。
無論、千波も一緒だ。
「あら、夫婦仲良く登校なんていいわね」
と母さんが茶化すが無視した。
玄関を出ると、萌が待ち構えていた。
「おはようございます。ユキ兄ちゃん。ついでに千波さん」
「おはよう萌ちゃん」
「ついでなら要らないです」
冷淡に萌へ返す千波。
「おやおや挨拶は人としての基本ですよ千波さん」
「人の旦那に色目を使う女に、人の道について説かれるなんてね」
何とかこの登校時間は気絶しながら歩けないだろうか
と、非現実的なことを妄想しながら俺は、今日も両腕を女子小学生に抱えられ歩き出した。
「そんなんだから千波さん、クラスで私しか友達いないんですよ」
「友達!?誰が!?はぁ!?」
「昨日も休み時間にユキ兄ちゃんのことでお喋りしたでしょ」
「あんたが一方的に話しかけてくるだけでしょうが!!」
思わず口調が乱暴になる千波
だが、俺は別のことが気になった。
「千波▪▪▪友達いないのか?」
「ち、ちが▪▪▪」
「まぁ、しょうがないですよ。
転校生って異物ですからね」
狼狽する千波に、萌が追い打ちをかける。
「あ、言い方が悪かったですね。
子供の時って、転校生が来るってイベントじゃないですか。
けど、大人になってみると新しい人間関係作るのって
エネルギーいる事だって解ってるから、旧交を結び直すので皆、手一杯なんですよ」
確かに、大人になればなるほど、新たな友人を作るのは大変だ。
大人になって知り合う人というのは、仕事関係であればどうしても上下関係や利益関係があったりで、純粋な意味での友人という物は作り辛い。
「私たちみたいに精神がアラサーだと、別に単独で行動しても苦じゃないし、
子供みたいにウザ絡みせず周りもソッとしておいてくれる。
だから、今は結構クラスで一人でいる人もいますよ」
「いや、私今まさにウザ絡みされてるんだけど」
千波のぼやきを無視して、萌は俺の腕から離れて腕を広げて空を見上げる。
「私は今しか出来ないことをしたいのです。
新たな人の縁を結ぶことも、その一つです。
だって、折角与えられた新しい人生、もったいないじゃないですか」
クルクルっとランドセルを背負いながら回る萌は、
改めて見ると、小学生にしても小柄な体躯だ。
「見た目は幼女なのに結構深いこと言うよな」
「ユキ兄ちゃん。萌もいつまでも可愛い妹ではないのですよ」
小悪魔っぽく笑う萌には、幼さと色気が同居してドキリとさせられた。
「その格好も、今しか出来ない事なのかしら?」
千波が少し嫌みっぽく萌の服装を見ながら言葉を投げる。
「そうですよ。可愛いでしょ?お兄ちゃん」
ピンクオレンジの鮮やかな色のスカートに
上は白地にあえてのキャラ物イラストがプリントされたTシャツ
そして、萌のトレードマークであるカチューシャは
白いコスモスの造花で彩られている
幼さと華やかさが仲良く同居したコーディネイトだ。
「小学生っぽくて良いんじゃないか」
妻の千波の手前、萌を可愛いと直接的に褒めるのは憚られたため、
曖昧な言葉で俺はごまかした。
「ふふっ嬉しいです」
そう言って、こちらに駆けてきて、また俺の左腕に飛びつく。
そんな萌を見て、右腕につかまる千波は無言で、
自分のモノトーンのシックなワンピース姿を見下ろしていた。
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「ただいまー」
今日は部活がある日で、帰宅がいつもより遅めだ。
千波は小学生なので、とっくに帰ってきている。
なので、わざわざ夕飯は俺を待たずに母と千波が先に済ませている。
「今日は千波ちゃんが作ってくれた麻婆茄子よ」
「旨そう。夏が来るって感じだな」
白米が進むメニューだからおかわり不可避だな。
「千波は?」
「お風呂も終わって部屋にこもってお勉強中よ。大変よね中学受験って」
中学受験を経験してない俺は、小学生の頃は学校の宿題をやる程度だった。
それすら時々やらなかったりと適当な物であった。
俺も風呂入ったら宿題と英語の予習するかと、麻婆茄子の最後の一切れを口のなかに放り込んだ。
―――――――――――――――――――――――――
風呂が終わりストレッチをしてから、麦茶を入れたコップとホットココアのカップを持って、夫婦の部屋へ入った。
「勉強お疲れー、ちょっと一息▪▪▪」
一息つこうと千波に声をかけながら入室して、
俺は思わず固まって、一度扉を閉めた。
部屋の中に小学生女子がいたからだ。
何を今さら寝ぼけたことを言っているんだと思うかもしれないが、
そうとしか表現しようがない。
夫婦の部屋にある学習机にツインテールがいたからだ。
え?千波▪▪▪だよな?
ツインテールなんて初めて見た
これは、どう声をかけるべきなんだ?
その髪型似合ってるよ?
駄目だわからん。どうすれば▪▪▪
部屋の扉の前でウンウン悩んでいると
ドアが開いた
「いいから、とにかく入りなさい▪▪▪」
顔を真っ赤にした千波腕を引っ張られて、俺は危うく
手に持った麦茶のグラスとココアのカップを落としそうになった。
部屋に入ってあらためて千波の全景を見て
俺は二度ビックリすることになった。
英字新聞柄の白地のTシャツにパープルのホットパンツ
そして黒のニーハイソックス
黒のニーハイソックス
黒のニーソ!!
絶対領域!!
ツインテールにニーソ
「可愛い▪▪▪」
呆然としながら、俺は思わず呟いてしまった。
「あ、あのーほら!!
これ、お義母さんが前に私に着せたいって買ってきた服!!
一度は着ないと悪いかなって思って▪▪▪」
真っ赤な顔をした大きな身ぶり手振りで、服装についての説明をした。
「▪▪▪▪▪。」
俺は無言で、今度はじっくりと千波の全景を頭から爪先までなめるように見る。
ホットパンツとニーソックスの間に存在する柔肌は、若々しさを強く主張している。
絶対領域という単語を命名した人はあらためて天才なのだと再認識した。
「あんまりジロジロ見ないでよ▪▪▪▪」
消え入るような声で千波がモジモジと股の間に手を挟み込んだ。
「隠さないで。ちゃんと見せて」
俺は千波の手を掴んで太ももの横に気をつけの姿勢をさせた。
「ちょっと▪▪▪」
蚊のなくような小声で声をあげる千波の抵抗する力は
驚くほど弱々しかった。
ニーソ、絶対領域って文字だけでドキドキするなー。
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