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第11話 弱ってる

 「今日も聖良は休みか」


 昼休みが始まり、弁当を広げながら俺は幸也に声をかけた。


 「そうだな。今週はずっとだな」


 幸也も空席になっている聖良の席を見ながら、心配そうに言った。


 「俺、聖良にメールで、どうしたん?って送ったんだけど、

  家族のことでちょっとバタバタしてるだけ。

  今日は行くつもりって返信あったんだがな」


 家族のバタバタ……


 離婚についての話し合いだろう。


 いや、この世界ではまだ未婚なのだから、婚約破棄に近いのかもしれない。

 両家両親やらも絡むと話が長引くらしいからな……



 「武藤。昼休みに悪い。ちょっといいか?」

 「なんですか加納先生?」


 授業終りに教室にまだ残って生徒たちと雑談していた加納先生が、俺に声をかけてきた。


 「武藤は、たしか八幡の自宅の場所知ってるよな?」


 「はい。聖良とは帰り道一緒ですから」


 聖良は俺の出身中学の隣の中学の出身で、帰る方向が一緒なのだ。そのため、部活帰りにタイミングが合えばよく一緒に帰っていた。


 「悪いんだが、提出書類がたまってるから、自宅に届けてやってくれ」


 「この時代だから、連絡や提出物は何でも紙ベースですもんね」


 「教師生活の晩年は、メーリングリストやらグループウェアやら訳がわからんかったよ」


 加納先生はそう苦笑し、では頼んだぞと、書類一式を俺に渡した。



 「休んだ時の連絡書類か……」



 ふと思い出した淡い記憶……


 青春の甘く苦い記憶が呼び起こされたが、それには気付かないふりをして、俺は書類を鞄に仕舞い込んだ。




―――――――――――――――――――――――――




 放課後、今日は部活のない日なのでまっすぐ家路につく。

 あとは先生に託された聖良への書類を自宅へ届けるだけだ。


 しかし、聖良は俺の予想ではおそらく修羅場の真っ最中。

 お家訪問しても果たして大丈夫なのか?


 そうこうしている内に聖良の家の前に着いた。

 玄関のチャイム押して出てこなかったら、ポストに書類入れてメールしとくか

 お母さんが出てきたら気まずいな……


 と思いながらチャイムを押そうとすると



 (ガチャリ)



 玄関の扉が開いた。


 家人の人が出てきたかと身構えたが、

 現われたのは、厚手のパーカーに下はパジャマという出で立ちでうつむき加減の聖良だった。


 「あ、聖良」


 思わず声を上げると、気だるそうにノッソリとした動きで頭をあげた聖良は大きく目を見開き、


 「あれ!!雪広。どうしてここ……に!?」


 驚いているようだが、いつもの元気はなりを潜めた弱々しい声で、さらに口元を覆うマスクのせいで、より声は届きづらいものであった。


 「風邪ひいたのか?」


 「うん、ちょっとね……」


 「今から病院にでも行くのか?」


 「ううん。家に飲み物とか何もなくて買出し……

  家族も今いなくて……」


 「部屋戻って寝てろ。俺が行ってくるから

  すぐ戻るから玄関の鍵開けといて」


 俺は聖良の返事も聞かずに、踵を返してコンビニに早歩きで向かった。




―――――――――――――――――――――――――




 「入るぞ~」


 コンビニで急いで買い出しをして戻った俺は、玄関から声をかけて家の中に入った。

 すると、二階で何やらドタバタ物音がする。


 さっき他に家人はいないと聖良が言っていたから、少々無遠慮ながら二階へ勝手に上がらせてもらう。


 「何やってんだ、お前」


 二階の物音がする部屋を覗き見て、俺はあきれたような声で言った。


 「いや、だって部屋の中が荒れてて恥ずかしいから……」


 聖良は積み上がった雑誌を束ねようとしていたようだが


 「寝  て  ろ 」

 「はい……」


 俺の剣幕に小さくなってベッドに潜り込んだ。


 「これ、スポーツドリンクと飲むタイプのゼリーな。枕元に置いとく」

 「ありがと……」


 「熱は測ったのか?」

 「……38.8度」


 「ちょっと高めだな。保冷材を脇に挟んどこう。

  冷蔵庫開けさせてもらうぞ。プリンも入れておきたいし」

 「うん……ありがとね」




―――――――――――――――――――――――――




 「ほい、保冷材。直接脇に挟むと冷たすぎるから、これで包んであてな」


 俺は自分のハンカチで保冷材を包み、聖良に渡した。



 「うん……ふふっ」


 「なんだ?」


 「何か雪広、お母さんみたい…テキパキしてて」


 「子供がしょっちゅう熱出してたからな。慣れたもんだよ」


 子供は就学前はしょっちゅう熱を出すので、1週間ぶち抜きで休むなんてこともよくあった。俺も仕事を休んで、よくメグちゃんツムちゃんの看病をしていた。


 「何も言ってないのに、私が欲しい物買って来てくれて……あ、お金」


 「いいよいいよそんなの」


 慌ててベッドから起き上がろうと上体を起こした聖良を制すために、聖良の肩に手を置きそのままベッドに横たわらせる。

 パジャマ越しに触れた華奢な肩は熱を帯びていた。


 「ごめん……今度、絶対お返しするから」


 「落ち着いてからでいいよ。例の件、まだ揉めてる真っ最中なんだろ?」


 「うん……こういう負の話し合いには凄いエネルギー要るのって本当なんだね。

  こんな風に倒れるの久し振り」


 自嘲気味に聖良は力なく笑った


 「両親はどうした?」


 「二人とも仕事。連日話し合いで仕事休んでたから、今日は行かなきゃだって

  私も今日は学校行こうと思ってたのに……」


 「そうか……」


 時刻はすでに17時を回っている。

 そろそろ仕事を終えた聖良の親が帰ってくるかもしれない。


 聖良と両親が話し合ってる件のことを鑑みると、俺が聖良の部屋に上がり込んでいる所に蜂合わせるのは、非常にややこしい話に発展しかねない。


 「じゃあ、俺もそろそろ帰るわ。預かってきた書類は机の上に置いといたから。

  しっかり寝ろよ」


 そう言いながら立ち上がろうとすると


 「雪…広……」


 か細い声で俺の腕をつかんできた。

 その力はとても弱々しい。


 「不安だから一緒にいて……」


 目を細めて弱々しく懇願する少女

 


 「……わかった。聖良が寝るまでそばにいるから」


 少女の手を優しく握り、頬を撫でてあげる



 安心したような顔で目を閉じる聖良


 俺は、聖良の両親が帰ってこないか戦々恐々としていたせいで、聖良の手を握りながら心臓の鼓動が速くなるのを感じていた。




―――――――――――――――――――――――――




 聖良はあの後、すぐにスースーと寝息を立てたので、眠りが深くなったであろう頃合いを見て、聖良の家を出た。

 なんとか聖良のご両親と鉢合わせという事態は避けられて、ホッと胸をなでおろす。


 すると、狙いすましたかのように、携帯電話の着信音が鳴る。


 画面を見ると、千波からであった。


 一瞬、罪悪感とも何ともいえぬチクリとした痛みが走った気がするが、気を取り直して電話に出る。


 「はい。もしもし」


 「あ、雪広くん。今、電話大丈夫?」


 「うん大丈夫」


 「突然なんだけど、今日の夜、ごはん食べに行かない?

  お母さん今日はお仕事遅くなるみたいだからさ」


 「ああいいぞ。じゃあ、家に迎えに行くよ」


 「ありがと。お店は私の方で予約しとくから」


 「OK。前に行ってたあの店か?」


 「そ。最近行ってなかったからね。じゃあ待ってるね」


 通話を切って、俺は駅の方に歩きだした。




―――――――――――――――――――――――――




 「辛~い!!」


 タイ料理屋のトムヤムクンを一口食べて、千波は悶絶して、慌ててドリンクのマンゴージュースへ手を伸ばした。

 


 「あれ?千波。ここのお店の辛さは絶妙だって、前はパクパク食べてたのに」

 「辛いもん。明らかに!!」


 「なんで……あ、そっか!!タイムリープで子供舌に戻ったんだ」


 「ガーン。せっかく子供たちがいないから、辛い料理を堪能できると思ったのに」


 「かわりにガパオはどうだ?これなら少しは辛さレベル低いぞ」



(パクッ)



 「やっぱり辛~い!!」


 俺はマンゴージュースのおかわりを慌ててオーダーした。




―――――――――――――――――――――――――




 「ふう……」


 タピオカココナッツミルクを食べながら、ようやく人心地つく。


 「辛いものは徐々に慣れていくしかないな。お子ちゃまには」


 「むぅ……」

 俺のからかいに、ふくれっ面でそっぽを向く千波


 「今度はケーキバイキングにでも行こうか」


 「雪広くんのおごりね」


 「小学生と割り勘はしないよ」

 千波のご機嫌が持ち直したようで一安心だ。


 「そういえば、雪広くんはなんでこの時間でも制服だったの?

  今日は部活無い日じゃなかったっけ?」


 「ああ……ちょっと野暮用でな」


 さすがに、密室にパジャマ姿の女子と二人きりだったのを、上手くボカして伝えられる自信がなかったため、適当な答えになってしまった。



 「ふーん……」


 横目でジトッとした目で見てくる千波

 こういう時、付き合いが長いと困る


 「そういえば、千波はどうなんだ?学校は楽しいか?」


 「親みたいな言い方ね」


 千波は苦笑して机に両肘をついて物憂げそうに溜息をついた


 「正直、学校行きたくない」


 まさかの妻の不登校発言に、俺は人の親として最大の試練に立ち向かうことになった。


韓国料理やタイ料理は、子供が離乳食じゃなくなると

まぁ行けなくなります。


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