3話:【起動】―― 邪馬台国OS、千年へのアップデート (プランの完遂。列島の未来の確定)
いつも応援ありがとうございます。他3作品、およびエッセイ・俳句への温かいご声援にも心より感謝いたします。
本作は、3世紀の邪馬台国と大陸をひとつの「巨大な回路図」と捉え、歴史の謎を現代のエンジニアリング視点で論理的に解き明かす、異色の知略サバイバル戦記です。
【本作の基本プロトコル】
亜那 阿知寝:大陸の数理を解析する天才アーキテクト。
与太彦:現場主義を貫く、泥臭くも凄腕のフィールドエンジニア。
卑弥呼:国の未来を演算し続ける「大和OS」の設計者。
神話やロマンの裏に隠された、古代の「技術者たち」の命懸けのデバッグ作業。
後半に向けて物語の演算速度(クロック周波数)はさらに加速します。彼らが辿り着く「究極の暗号」の結末を、どうぞ最後まで見届けてください!
第十一章 第3話:偽装の幾何学 ── 台風と盗掘への「解答」
卑弥呼の亡骸を収める場所を求めて、二人は日田の盆地を見下ろす険しい嶺に立っていた。そこは、地図にも記されぬ断崖であり、常に激しい上昇気流が渦巻く「空の結界」であった。
「……与太。ここを墓所とするのか。日田の盆地でも、博多の平野でもなく」
阿知寝の問いに、与太彦は不敵な笑みを浮かべ、泥に汚れた設計図を広げた。
「旦那、九州の空は、数年に一度はすべてを押し流す『荒ぶる風(台風)』が通りやす。教科書通りの立派な墳丘なんて造ってみなせえ。百年もすれば土が痩せ、千年経ちゃあ暴かれちまう。俺たちが造るのは、権威を示すための『山』じゃねえ。時を止めるための『遮蔽物』でげす」
与太彦が指し示した図面には、一見すると不自然なほど複雑な「溝」の網目が描かれていた。
「水の流れを逆算しやした。土石流が起きるたびに、むしろ土が厚く積み重なるように『逆流の溝』を掘っておいたんでさ。風が吹けば吹くほど、雨が降れば降るほど、山が墓を隠し、守る仕掛け……。自然という名の自動メンテナンスシステムですよ」
阿知寝はその幾何学的な溝の配置を見て、目を見開いた。
それは天竺で学んだ「フラクタル」の概念に近い。不規則に見える自然の崩壊さえも、計算された「入力」として利用し、墓所を地中深くへと埋没させ続ける設計。
「……なるほど。破壊を利用して永続を得るか。だが、与太彦。自然は欺けても、後世の『人間』の欲は欺けまい。いつか、この場所を特定する者が出る」
「分かってらぁ。だからこそ、この墓には『物理的暗号』を仕込みやした」
与太彦は図面をめくり、断面図を指した。
「金目のもんや鏡、魏の法典の写し……。泥棒が欲しがるような『囮』は、一番目立つ場所に置いておきやす。だが、そこを一口でも掘ってみなせえ。絶妙なバランスで支えてる砂の栓が外れ、入り口は永遠に埋没する。欲に目がくらんだ連中がそこを『本尊』だと思い込んでいる間に、仕掛けは完結するんです」
「……では、本尊は」
「そのさらに三丈(約九メートル)下。地質学的に『空洞』と認識されねぇ特殊な岩盤の隙間で、女王様には眠ってもらいやす。……そこには金属器の一片も置かねぇ。ただ、阿知寝の旦那が持ち帰った、あの茜色の絹に包まれてな」
阿知寝は静かに感嘆の息をついた。
後世、どれほど探知技術が発達しようとも、岩盤と同化したその「隙間」を見つけることは叶うまい。そこには反射すべきデータも、観測すべき空洞も存在しないのだから。
「……完璧だ、与太彦。貴様の土木は、すでに神の領域に触れている」
「へへ、旦那の数理があったからこそですよ。……さあ、始めやしょうぜ。歴史を欺く、最後の大工事だ」
二人のエンジニアは、自分たちの主を「無」へと還すために、最後の手を動かし始めた。
九州の山々を吹き抜ける冬の嵐が、彼らの作業を隠すように、乳白色の霧をさらに深く、重く立ち込めていった。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。
本作『卑弥呼プラン』は、いよいよ7月10日をもちまして、全57話の幕を閉じることとなりました。天才アーキテクトたちの命懸けのデバッグ作業の結末を、どうぞ最後まで見届けていただけますと幸いです。
さて、本作のような「徹底したロジックと生存戦略」を描いた歴史ドラマがお好きな皆様へ、すでに全八章で完結しているこちらの作品をご案内いたします。
■ 完結済『泥田と田楽 桶狭間』(全八章)
絶望的な兵力差を覆すため、織田信長が放ったのは「音」と「情報の刺客」でした。
諸国を放浪し、京の知恵と堺の富をその脳髄に蓄積(データベース化)した男・秀吉と、「機能美」を追求する魔王・信長。
幼少期に共有した「泥の記憶」を基盤に、二人の天才が交わったとき、桶狭間の豪雨さえも、緻密な観測と情報網によって手繰り寄せた必然の勝機へと変貌します。
過酷な泥土を生き抜くための「野生の合理性」と、土地に根ざした「物流の理」。精神論や根性論を排し、全く新しい視点で信長と秀吉の戦いを再定義した、知略サバイバル戦記です。
合言葉は、「川の深さは?」「赤味噌の濃さよ」。
『卑弥呼プラン』の熱量のままに駆け抜けられる一気読みに最適な一作ですので、ぜひこちらもURLから戦場を覗いてみてください!
https://syosetu.com/usernovelmanage/top/ncode/3147505/
いつもお読みいただき、本当にありがとうございます。全57話の物語も、いよいよ残すところあとわずかとなりました。
本作では「邪馬台国」「遣魏使」という大きな歴史のうねりの中に、呉・洛陽・天竺という3つのルートを同時に進行させる試みに挑戦しています。現代の知恵であるAIの力も借りながら資料を集め、時系列を編み込んできましたが、国境も文化も異なる3つの物語を一つの結節点へと収束させる作業は、想像以上に険しい道のりでした。
何分にも俄物書きの身ゆえ、時系列の重なりや描写に万が一不整合な点が生じておりましたら、ひとえに私の力不足です。どうか寛大な心でお許しいただければ幸いです。
張り巡らされた知略の糸が、どのような未来を形作るのか。最後までお付き合いいただけますと嬉しいです。




