第58話 帰還
「それで、ボクがダンジョンの管理をする必要はないってことで間違いないかわん?」
なし崩し的にダンジョンマスターにされてしまったが、管理とか面倒くさそうなのは誰かにやってもらうに限る。
「もちろんですとも。わん太様のお手を煩わせることはございません。ダンジョンの管理は私の眷属が行いますのでお任せください」
つまりは名前だけのダンジョンマスターで良いってことだ。今更だし、それなら良いか。
「ん? 眷属が……ってことはクロセルさんが管理するんじゃないのかわん?」
「ええ、折角ダンジョンから離れられますし、私はわん太様の執事としてお仕えする所存ですがよろしいでしょうか?」
「もちろん! 最近街の住人も増えて忙しくなってるから大歓迎わん」
ダンジョン攻略にも行きたいし、周辺の探索もあるしで拠点を空けることも多いから管理してくれる執事さんは願ったり叶ったりです。
◯[イケオジ執事ゲット!]
◎[執事さんはわん太達に付いていくのか]
「それでは、わん太様の街まで戻りましょうか。移動はこの私にお任せください」
ニンマリ笑ったクロセルさんはそそくさとこたつの上を片付け始めた。
こたつまで片付いてしまうと本当に広いだけの部屋で何もない。
「ここはダンマス用の部屋となっています。それに、わん太様達が入ってきたのは謂わば裏口でして、本来の入り口は山の頂上側にあるのですよ」
▽[裏口w]
∈[頂上ってあの噴雪口のあったとこかにゃ]
◎[お約束としては噴雪口が入り口とか?]
「流石に噴雪口が入り口はないと思うわん……ないよね?!」
「少し離れたところに入り口はありますよ。ただ、認識阻害がかかっているので普通は気づきません。では向かいましょうか」
部屋の真ん中に魔法陣が浮かんだ。恐らく転移陣だろう。
みんなが魔法陣の中に入ったのを確認してクロセルさんが指を鳴らした。
ふわりとした浮遊感に続いて視界が変わる。
◯[洞窟の入り口……?]
▽[しかし、外は思いっきり吹雪いてるな?!]
◆[あれは、吹雪は吹雪でも……]
「桜吹雪?!」
洞窟の外は明るい日差しと共に桜吹雪が舞っていた。
「ここ、昼に来た山の頂上っすよね?」
洞窟から出たドゥーエは呆然と目の前にそびえ立つ桜の木を見上げている。
「ええ、あの辺りでお昼ごはんを食べましたね」
リュードさんが指差す方向には確かに見覚えのある岩場があったが、大きく伸びた木の根に侵食されつつあった。
「思った以上に成長してますな。精霊も溢れてきています」
桜吹雪の中にキラキラ光る光の珠も見えている。おそらく、あれが精霊だろう。とはいえ、数が多い。
∈[いや、だからどういうことなのにゃ??]
◎[こたつを供えたら吹雪が桜吹雪になった]
▽[いや、どこに桜の樹の要素があった……あ、あったわw]
「ほんと、どういうことなの?」
「ここ、フカルア山に龍脈が流れている話はしましたね。この過剰な魔素を調整するためのダンジョンですが、ダンジョン以外でも魔素を消費できれば噴雪等が起きずにすむのです」
そう言ったクロセルさんの視線の先には巨大な、そう、とてつもなく巨大に成長した桜の樹がある。
「わん太様のおかけで片付いた懸案事項のもう一つがこの桜の樹ですな。過剰な魔素を吸収して成長しておりますので噴雪の心配もなくなりました」
「なるほど……って、ボクのおかげ?」
「ええ、ちょうどそこで桜の種をお蒔きになりましたでしょう?」
桜の種、種って言うと、さくらんぼか、確かに蒔いている。
◯[あ、わかったwww]
▽[伏線回収乙w]
「なんか納得いかない気がしなくもないけどわかったわん。それで、ここからパウリの街にはどうやって移動するわん?」
少し距離を取りながらクロセルさんがニヤリと笑った。
「私の種族をお忘れではありませんかな?」
―― ゴオッ
強烈な風が巻き起こり、地面に落ちていた花びらも舞い上がる。
『この姿であればパウリの街まではあっという間ですよ』
花吹雪が収まったそこには、白く輝く龍と、五体投地の姿勢で地に伏せるドゥーエの姿があった。
◆ ◇ ◆
「高い、高い、高いっす」
恐れ多いとクロセルさんの背中に乗るのを嫌がるドゥーエを無理やり引きずり上げての空の旅だ。
「きゅっきゅー!」
ちなみにイナバくんはウキウキとクロセルさんの頭の上に納まっている。
∴[しかし、あの山の頂上に咲いた桜の樹はなんなんだ。ファンタジー感あふれてって、アンメモはファンタジー世界だったわ]
◆[この高さだと海がよく見えるな。やっぱり俺たちの居るところと離れてるのは間違いなさそうだ]
∈[わん太はウチらより行動範囲が広いのにゃ。移動手段欲しいにゃー]
フカルア山の周りをグルっと遊覧飛行した後は山沿いに北上、見えてきた大きな湖はヒルメさん達と出会ったところだ。
「わん太君、パウリの街が見えてきました」
『ほう、あれがパウリの街ですか。実際に見ると中々に大きいですな』
丘の上の桜の樹も心なしか大きくなったように見える。
木の柵で囲うところから始まったパウリの村もいつの間にか大きな街になっていた。
ゆっくりと高度を落としつつ近づく氷龍に街の中が慌ただしくなる。
「きゅっ!」「しゃっしゃーく!」
ナギサくんに飛び乗ったイナバくんが先に街へと下りていった。
『さて、わん太様、私達はどこに降りればよいですかな?』
「あー、丘の上の桜の樹のところにお願いするわん」
イナバくん達に気づいた街の人達がこちらに向けて手を振っている。
慌てて集まってきていた自警団のみんなもホッとしたような顔で見上げていた。
「わん太様ー!」「おかえりなさーい」
南門の上を通り大通り沿いに飛ぶボクたちに声を掛ける人々や追いかけてくる子供達がいる。
時折ひれ伏している土竜族がいるのは見なかったことにしよう。
そういえば積もっていた雪もなくなっており、時折風に乗った桜の花びらが舞っているだけだ。
「まるでお祭り騒ぎですね」
「まあ、吹雪が納まったからね。それに、ほら、ホントに宴会準備が始まってるっぽいわん」
街の中央の広場ではおなじみとなった宴会準備が始まっていた。
広場に集まったみんなも上を見ては手を振ってくる。
『さすがは王の帰還ですな』
「いや、王の帰還って……あ、ボク、王様だったわん」




