第119話 ムトゥンガ遺跡
「ふむ、キャン坊と殿下はともかく、勇者様に王女様達は今のこの国の歴史はわからなかろう?」
「はい、そもそもこの島がベアゴロー様によってクマノ勇者国になってるとは知りませんでした」
「『大厄災』の後の『大異変』とういのもなんとなく思いあたりはしますが……」
「ボクも碧鳥人族の村で少し聞いただけだから、何かがあってこの島から逃げ出したとしかしらないわん」
碧鳥人族の島には大きな町はなく、当然ながら図書館のような施設もなかった。村の長老と呼ばれる人達の口伝による歴史だけが伝えられており、それもベアゴローさんが来てから後のことがほとんどだった。
∴[時系列的に『大厄災』、『大異変』、ベアゴローさん?]
◆[区別されてないか混ざってそうだけど二回大きな災害が起こったで良いのかな?]
∈[ルーダン魔王国の滅亡も同じ時期っぽいにゃ。アンメモ世界全体で災害が起こったとみてるにゃ]
「じゃあ、勇者様と王女様達のためにもおさらいといこうか――」
今から六百年ほど前、『大厄災』と呼ばれる魔素災害が起きた。
この災害はある程度予見されており多くの者が島を去り、麻結さん達の祖先が島を離れたのもこの『大厄災』の時となる。
「――多すぎる魔素は害となり、魔素を必要とする精霊をも減らす要因となった。ここより西の森が魔境と化したのも『大厄災』の影響だね。それまではただ深いだけの森だったのが完全に人を拒むようになった」
「魔境ってそうやってできたんっすね。その『大厄災』から島を復興したのがベアゴロー様っすか?」
「若、初代様が現れたのは『大異変』の後です」
「そう、ベアゴロー様は『大異変』によって壊れた世界を修復するために現れた。『大厄災』と『大異変』は根っこは同じだが性質の異なる災害だ。もっとも、一般にはあまり区別されていないがな」
「根っこは同じってことは、やっぱり龍脈の乱れが原因わん? でも、性質の異なる災害ってどういうことわん?」
「やはり勇者様は龍脈の事を知っているのですね」
「もちろんわん。水龍さんは龍脈のところにいる可能性が高いわん。それに、この島の龍脈がおかしいってスコップさんも言ってたわん」
「龍脈がおかしい……、そうスコップさんが、え、スコップさん? あの、勇者様、スコップさんというのはどなたでしょうか?」
神妙に受け答えをしていた葵さんの顔が困惑に変わった。
『スコップさんとは聖剣シャベル・スコップ、ワイのことや!』
そう言ってブルブル震えるので仕方なく二本一組の短剣こと『聖剣シャベル・スコップ』をテーブルの上に取り出した。
みんなにもスコップさんの声は聞こえているらしく、特に初めてスコップさんの声を聞いた葵さんの切れ長の目がまんまるになっている。
「せ、せ、聖剣様?! 本物ですか?! いえ、喋られている時点でインテリジェンスソード、魔剣、聖剣なのは間違いないのですが……。勇者ベアゴロー様がどこかに残してきたと言われる『聖剣シャベル・スコップ』、実在していたのですね」
『お、クマゴローのやつ、ワイのことを忘れたわけではなかったんやな。あいつ、サイズが合わないからってワイのことを置いていきおったからなぁ……』
「……い、いえ、ベアゴロー様は龍脈が乱れた時に聖剣を携えた新たな勇者がこの地を訪れると言われていました。そして、『周辺の応急処置はしといたけど大元はそのままだからヨロシクくまー』と新たな勇者への伝言を残されています」
そう言って葵さんは目をそらした。
『……』
「……それって丸投げって言わないかわん!?」
◯[草www]
▽[そんな状態で良く保ってたな。いや、だからそこは辺境の地のまま……なのか?]
◆[それで結局『大厄災』と『大異変』の違いは何なんだろ]
「……ベアゴロー様の意図は分かりかねます。そ、それでですね、『大厄災』と『大異変』はどちらもこの島の龍脈の中心『ムトゥンガ遺跡』を起点としています。『大厄災』は龍脈に溜まった魔素が溢れ出す、いわば魔素の噴火でした。この災害は兆候や警告等もあったため多くの人が島から避難することになりました――」
魔素は魔力とも呼ばれ精霊等が好むが濃すぎる魔素は毒でもある。
この『大厄災』で島の精霊はかなり減ったらしい。
また、朱鳥人族や碧鳥人族以外の種族のほとんども島を去った。
「――『大厄災』から百年ほど、皆が忘れた頃に揺り戻しのように『大異変』が起きたのです。『大厄災』で魔素が吹き出したのに対し、『大異変』では魔素が吸い込まれ、急激に魔力濃度が減っていきました。これにより減っていた精霊が完全に絶滅したと言われています」
そこまで一気に話した葵さんは一息つくようにカップを手にした。




