第118話 トゥアルア図書館2
「……道が開かれるとはこういうことだったか……。勇者様こと北の島の王様に碧鳥人族の正統な王女。いやはや長生きはするもんだな。ま、キャン坊と殿下は大変、いや、実際に大変なのはオークラか」
「わん太殿と麻結様が身分を明かさなければそれほど問題にはなりますまい。とはいえ、そのままにしておくわけにもいかず……」
「ボクとしては鳥妖精さんたちに頼まれた水龍さん探しができれば問題ないわん。あ、このお菓子おいしいわん」
サクサクふんわりな生地の上にたっぷりのクリームと果物がのせられているお菓子は不思議な食感だった。
ボクらは葵さんに導かれるまま図書館の敷地へと入り、海の見える庭でお茶とお菓子を頂いていた。
「あー、わん太殿、それもですよ。水龍様はわかりませんが、鳥妖精族も精霊様と共に何処かに消えてしまったと言われてるんです」
キャンベルさんはテーブルのクリームに顔が付きそうな勢いで頭を抱えている。
「そう言えば鳥妖精族は朱鳥人族や碧鳥人族にとっては祖先のようなものだったな。それで水龍様の方だが、あたしは会ったことがないし、今いるかもわからないが、居たと言われていた場所は知っているよ」
葵さんは掛けていた眼鏡を外して拭きながら西の方を見つめた。
∴[やっと水龍の話が出た! ところで葵さんってネーメさんそっくりじゃない?]
◆[あー、ラナ王立図書館の司書さん! 確かに同じ森精霊族というには似すぎてる]
∈[にゃ 、2Pカラーにゃ。これは全部の図書館に配置されてるに違いないにゃ]
ボクは普通のプレイヤーの開始位置となっているラナ王国は行ったことがないからわからないが、今は水龍さんの情報の方が大事だ。
「ホントかわん! とりあえず、少しでも情報があるなら教えて欲しいわん」
「そうだね、今からずっと昔の話さ。ここが『トゥアルアの街』と呼ばれる前、『パーの村』だった頃、西の方には都があると言われていた」
「聞いたことないっすよ? それにここの西って言えば魔境っす。住んでいるとすれば魔王ぐらいじゃないですか……」
「私も魔境の方に都があったとは聞いたことが……、いや、あ、そういうことですか?! いや、しかし……」
焙火くんは知らないようだが、キャンベルさんは何か心当たりがあったようで、しきりに首を傾げては考え込み始めた。
そんな焙火くんとキャンベルさんから視線をこちらへと戻して葵さんが続ける。
「今となっては名前のないその都には水龍様と鳥妖精族が暮らしていると言われていた。伝聞系なのは、その都との交流はほとんどなく、こちら側からたどり着いたものもごくわずかだったからだ。迷い込む形でたどり着いた者の話ばかりで本当かどうかもわからなかったんだが、あながち嘘でもなかったと言うことか。あたしが知っている水龍様情報としてはそんなところだ」
◆[結局、水龍様も鳥妖精族もこっちの島ではあまり知られていない?]
◎[迷い込むって妖精郷かなにかかな]
▽[そんなところに水龍探しに行けるのか?]
「葵様、もしや、その都というのは『ムトゥンガ遺跡』のことですか?」
そう問いかけたキャンベルさんは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「『ムトゥンガ遺跡』? 遺跡ってことは今は都はないってことかわん?」
「そうだな、今は『ムトゥンガ遺跡』と呼ばれている場所が水龍様達の暮らしていた都で間違いないだろう。その都は遥か昔、『大厄災』と呼ばれた魔素災害が起きた時に滅びたと考える説もある」
「ん? 葵様、ムトゥンガ遺跡が滅びたのは『大異変』ではなく『大厄災』ですか?」
「えーと、キャンベル、『大異変』と『大厄災』は違うものっすか? オレ、『大異変』は聞いたことがあるっすけど、『大厄災』は初耳っす」
「王国建国以前の話はあまり残ってないからな。それに『ムトゥンガ遺跡』関連で『大厄災』と『大異変』をあえて混同させて有耶無耶にした経緯もある」
「有耶無耶っすか?」
「ああ、しかし、殿下が知らないのは問題じゃないのか? キャン坊、教えてないのか?」
「いえ、今は歴史としては教えています、いるはずです。ただ、『ムトゥンガ遺跡』発見の経緯については一般には伏せられており……、それと、今のタイミングで若様に伝えるのは問題があるとぉ……」
「え、キャンベル、どういうことっす?」
「あ……」
やっちまったとばかりに目をそらすキャンベルさんを焙火くんが見つめていた。




