第116話 城塞都市トゥアルア2
「……すみません団長、良く聞き取れませんでした。いや、聞いてはいましたが。頭が理解を拒んでいるのです……」
『城塞都市トゥアルア』の代名詞とも言える巨大な城壁の中に入ったボクたちは、そのまま街の中央から少し海寄りにある城の一室に集まっていた。
人払いが行われ、この場に居るのは碧鳥人族の麻結さん、クレスさん。
そして、朱鳥人族の第三王子だった焙火と騎士団長のキャンベルさんに加え、副団長のオークラさんと新たに爺とよばれたペンギンさんが同席している。
「まあ、オークラがそんな態度になるのもわからんではない。だからこそ街での言及は避けたのだ」
キャンベルさんにトゥアタヒ村での出来事を聞き、ボクたちを紹介されたオークラさんは深い溜め息と共に頭を振り、外れかけていた片眼鏡を掛け直した。
「それでは、改めまして、第三騎士団副団長のオークラです。主に内政を担当しています。しかし、『わん太王国』の王である今代の勇者様に碧鳥人族の正統な王女様となる麻結様ですか……」
そう言うとオークラさんは机に突っ伏しそうな勢いで再び深い溜め息をつき、更には天井を仰ぎ見る。
「えーと、そんなに私達の立場は問題があるものなのでしょうか?」
眉根を寄せ、頭を振るオークラさんを見て麻結さんがおずおずと尋ねた。
◯[『わん太王国国王』『勇者』『碧鳥人族王女』のどれが一番問題なんだろ?]
❤〚焙火君と麻結ちゃんのロミジュリも推せる〛
∪[ああ、どう見てもホイホ君、麻結ちゃんに惚れてるよねぇ]
「……ふう、いえ、貴女方に問題があるわけではないのですが……。こちらの状況は何か聞いていますか?」
「クマノ勇者国の国王選出で焙火くんのお兄さん二人が争ってることは聞いたわん。後、クマノ勇者国はいずれ勇者に返すってことは……」
その勇者がボクなのが問題ではあるが、そこまで困った事になるわけではないような?
「それなりには聞いているようで安心しました。それでは、順に詳しく説明しましょう。まずは国王選出関連ですが、このクマノ勇者国では初代国王であり勇者のベアゴロー様から国を預かった立場であり、いずれ勇者様が現れた時には国王に就いてもらうとなっています。これはわん太様が現れたことで現在の国王選出がどうなるかで揉める元となるでしょう。また、わん太様を抜きにしても今回の国王選出は第一王子派と第二王子派で朱鳥人族内部でも揉めています。さらにはこの争いですが、裏では碧鳥人族の派閥争いの代理戦争ともなっているのです。その碧鳥人族の派閥というのが本家碧鳥人族と元祖碧鳥人族なのですが、そもそもなぜ本家、元祖の派閥があるかと言いますと、どちらも元々の王家の直系ではないからなのです。そう、そんなところに『魔鉞サッパ』を携えた王女、麻結様の登場です。ふふっ、碧鳥人族の派閥争いがどうなることやら。後は仮に国王選出を行わなくなった場合でも、教団がわん太様を認めるかの問題があります。クマノ勇者国最大の宗教はクマノ勇者教団ですが……、あ、ちなみに、次に多いのは精霊教ですな。そして、クマノ勇者教団もベアゴロー様原理主義の過激派のクマノ派と穏健派の勇者派に分かれております。問題はクマノ派がわん太様を勇者と認められるかになりますが――」
「爺、この鶏肉はかなり辛いぞ! いくら辛いのが好きでも食べられないっすよ!」
「ほほう、この爺が食べられないと申しますか……、どれ……、こ、これは、強烈な辛味と鶏肉が実にマッチした極上の辛味! いえ、単純な辛味ではありませんね、フルーティな熟した果物のような香りが口の中に広がります。おお、回復してきた舌にかすかに感じる苦み。この鶏肉との一体感は……、どれほどの腕前のシェフが下拵えを行ったのでしょうか? この城のシェフではここまでの味わいは出せない……、いえ、若様、さては究極の香辛料を見つけたのですかな?」
「あぁ、いや、爺はそれを食べても大丈夫っすか……。それは、わん太さんに提供してもらった鶏肉っす。究極の香辛料というか、味付き肉っす、ね、ねぇ、わん太さん」
「え、あっと、そうわん。キウイからのドロップアイテムなんだわん」
焙火くんがおそらく爺やさんを驚かそうと出したハバネロ味の鶏肉が引くほど高評価をもらっている。
というか、あれを食べられる人がいたことが驚きである。
「なんと、わん太様提供でしたか。流石はわん太様……」
「――ちょっ、ちょっと、殿下にわん太様、皆様も! 私の話聞いてましたか?!」
一生懸命説明をしていたらしきオークラさんがこちらに気づいて声を上げた。
いや、お昼に着いて何も食べてないことを思い出したらお腹が空いてしまったのだから仕方がない。
「え、あっと、ちゃんと聞いてたわん。その、精霊教ってやっぱり精霊を信仰してるわん?」
「そうですよ。かくいう私も精霊教徒でして、この島から居なくなったと言われている精霊様復活を日夜祈って、祈って、いのっ……、精霊様ぁぁっ?!」
「きゅ、きゅっ?」「しゃ、しゃーくっ?」
口をパクパクと開けたまま固まるオークラさんの前には美味しそうにキウイを頬張る精霊のイナバくんとナギサくんがいたのだった。




