XXIII.シルヴェーヌとのお茶会
キードゥル93年7月
「本日はお招きいただき、ありがとう存じます、クリスティーネ様」
「いいえ。ご足労ありがとう存じます、シルヴェーヌ」
今日、クリスティーネがお茶会に招いたのはシルヴェーヌ・ユーン。中級武官で、リュードゥライナの側近候補だ。雰囲気がラナに似ているが、顔立ちにはまだ幼さが残っている。身長の低いクリスティーネと身長が同じくらいで、少しクリスティーネは驚いたのはここだけの秘密である。
シルヴェーヌはクリスティーネの目の前で跪く。
「お初にお目にかかります、クリスティーネ様。貴族学院三年生、シルヴェーヌ・ユーンと申します。今回、レスツィメーアの研究に参加させていただけたこと、心より光栄に存じます」
「よろしくお願いします、シルヴェーヌ」
そう言って、クリスティーネはシルヴェーヌを席に勧めた。他の席には、レニローネとラナがそれぞれ座っている。
「ラナ様から、急にレスツィメーアの研究に参加することになった、と伺ったときは本当に驚きましたわ。最近の武官は毎日、レスツィメーアの噂ばかりお話になるのですもの」
「驚かせてしまったことは謝るわ。けれど、貴女が一番いいと思ったのよ、シルヴェーヌ」
「……!とても、とても光栄です。このような光栄なことに指名されたからには、精一杯やらせていただきますわ」
シルヴェーヌは緊張した面持ちでそう言った。やはり、周りが上の身分ばかりだと言うことで、緊張しているのだろう。
そのとき、レニローネが口を開く。
「シルヴェーヌ・ユーン殿、挨拶が遅れました。わたくしはレニローネ・ライゼングと申します。研究の面では、わたくしもまだ分からないことが多いのですけれど、頼ってくださると嬉しいです」
「よろしくお願いいたします、レニローネ様。わたくしのことは、シルヴェーヌと呼び捨てにしてくださいませ。敬語も必要ありません」
「……そう。よろしく、シルヴェーヌ」
シルヴェーヌはレニローネに対してニコリと微笑んで、「はい」と頷く。
「クリスティーネ様、レスツィメーアに関してのご説明をお伺いしてもよろしいですか?噂は広まっているのですけれど、クリスティーネ様ご本人から本当のお話をお聞きしたいです」
「分かりました」
クリスティーネは頷き、ティルツィアに説明した時のようにレスツィメーアについての説明を始めた。
「……なるほど。噂との齟齬もありそうですね。お聞きしてよかったです」
シルヴェーヌは納得するように何度か頷いた。
「シルヴェーヌ、噂とはどのようなものがあるのでしょう?」
「……正直、わたくしはあまり信じていなかったのですけれど……」
シルヴェーヌによると、クリスティーネが神々に愛されているからだ、とか神々の化身だ、なんて言われているらしい。
(……うぅ、そんなこと言われても困るのですけれど!)
「止めても無駄かと思われます。大体、そういう噂を流す人たちって、人の話聞かない連中ですから」
「時が解決してくれるのを、待つしかなさそうですね」
「はい。…………それと、失礼であると、分かってはいるのですが」
シルヴェーヌが真剣な表情をして話し始めた。
「レスツィメーアを編み出したのは、本当にクリスティーネ様なのですか?」
「え?」
「……不躾であると分かっています。ですが、わたくしのように信じていない者が一定数いるのも事実なのです。領主やアイリス様が、何かしたのではないか、と」
シルヴェーヌの瞳は、人を貶めるような目ではない。ただ、真実を知りたいだけなのだろう。
「わたくしたちは、別に領主やアイリス様を疑っているわけではありません。ですが、可能性の問題として、あり得る、というだけで」
「……なるほど」
(……でも、わたくしがレスツィメーアをつくったということを証明する術はないわ)
「わたくしは、本日クリスティーネ様とお話をして、七割ほどは確信にいたると思っています」
シルヴェーヌは真っ直ぐこちらを見つめる。
「……わたくしには、レスツィメーアを開発したということを証明することはできません」
「……っ」
全員が目を見開き、驚愕した顔になる。
(わたくしなんかの言葉で、信じてくださるのかは分からないけれど)
「嘘はつきません。わたくしは、確かにレスツィメーアを作ったと断言できます」
シルヴェーヌは少し固まった後、視線を下げて微笑む。
「……わたくしにとっては、そのお言葉だけで十分かもしれません」
「ですが、お気を付けください。杖を持たないクリスティーネ様が、本来ならば何十年もかけて行われることを、一年も経たずに開発したことは皇国中に広まっており、その影響力は絶大です。……それに、クリスティーネ様のお言葉で納得してくださらない者もいるでしょうから」
シルヴェーヌからの忠告を受け、お茶会は終了した。
「次は、レスツィメーアの研究会でお会いいたしましょう、クリスティーネ様」
「えぇ、また」
シルヴェーヌはラナのことが大好きです。憧れの人らしいです。




