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XXI.悪びれない文官 前編

短めです。

キードゥル93年6月


「クリスティーネ様」


クリスティーネは髪を結われていた。そんなとき、目の前に人影が現れる。

朝から真剣な顔でクリスティーネに話しかけたのは、上級文官――ラナ・ヴァソールだ。


「この後、少しお時間よろしいですか?」


(……どうしたのかしら?)


長くなる話だろうか。それとも、今いるコリスリウト、フィリアーネ、ユティーナ、リーシャ――側近たちの前では離せない話か。

クリスティーネは疑問を抱きつつも、頷いた。


「えぇ、分かりました」





「お時間をとっていただき、ありがとう存じます」


ラナは完璧な角度で、礼をした。

今、クリスティーネたちは会議室に来ている。

ラナの背後には、ラナと同じように四人ほど後ろで頭を下げている者たちがいる。二人は、よく見る顔だ。クリスティーネの側近である、シリウス・スティーネル。そして、マルティオ・ルイーゼだ。


「ラナ、そちらは?」

「今回の件に関する者たちです」


クリスティーネに見えるようにラナは少し体をずらした。

シリウスとマルティオ以外は、茶色の髪の少女と、全体的に色素の薄い少女だ。


(確か……五年生のリッカルダ・クァツァーと、三年生のラケーレ・ダウィアだったかな。よく一緒にいるのを見かけるわね)


二人共下級貴族だ。このメンバーはどういうことなのか?

それに、何故か四人とも顔色が悪い。

そのとき、リッカルダが跪き、ラケーレが続いた。


「お初にお目にかかります、クリスティーネ様」


リッカルダの声が会議室に響く。儚いような美しさがある声なのに、芯があって強い声にも感じられる。


「貴族学院五年生。下級介添え、リッカルダ・クァツァーと申します」

「貴族学院三年生。下級武官、ラケーレ・ダウィアと申します」

『以後、お見知りおきを』


クリスティーネはリッカルダたちに立つように言い、二人は立ち上がる。

その後、全員に席を勧め、テーブルを囲った。


「それで、ラナ。用件とは何かしら?」

「最初から、説明させていただきます」


簡潔にまとめると、リーシャ・ドティフ・ハワードは他人から――それも、下級貴族からお金を巻き上げていたらしい。リーシャは、魔術具づくりでは右に出るものはいないほどの名手だ。それで脅されたのだろう。




「……わたくしの側近が、ご迷惑おかけいたしました。申し訳ありません」


クリスティーネは座ったまま、頭を下げた。


「えっ?」

「……」


ラケーレは声をあげて驚き、リッカルダは目を見開いて驚く。


「そ、そん……クリスティーネ様はわたくしたちに頭を下げてもいいようなお方ではありません」

「ラケーレ様の言う通りですわ。それに、クリスティーネ様が悪いのではありません」


二人が必死にそう言い募る。


(……優しいなぁ)


人によっては、事を荒立てようと、その者の主を侮辱することだってある。


(それでも)


「リーシャはわたくしの側近ですもの。側近の犯した罪は、わたくしの責任でもあるのです」


そう。主の評価が側近への評価にも成り得るように、側近の評価も主への評価に直結する。


「あまり思い出したくないかもしれないけれど、被害額はどれくらいかしら?」


クリスティーネがそう聞くと、リッカルダたちが額を口にする。


(意外と多い……)


これは、もう側近の解任からは逃れられない。元より、他人から金銭を奪っている時点で、解任は決定事項ではあったが。


「分かりました。それと……他の被害はありますか?暴力を受けたとか……」


リッカルダたちの証言によると、魔術具を発動手前のところまで起動させて脅されたものの、体への被害はなかったらしい。


(……不幸中の幸いだわ)


「クリスティーネ様、リーシャはどうなるのですか?」


シリウスが気まずそうにそう問う。一応、シリウスはリーシャに教えてもらったりもしていた立場で、先輩だ。仕方がないだろう。


「……解任です。それと、返せる分だけのお金は返させます。無理な分は、当主に立て替えさせます」

「そうですか」


シリウスが少し安堵するように息を吐く。他の者たちも安心したようだった。


……慰謝料として、もう少し払わせましょう。わたくしからも、少しは払わなくては。


「ラナ、リーシャを呼んでください」

「はい、かしこまりました」


(……ここからが正念場よ)


クリスティーネとシリウス、マルティオは一度部屋に戻った。リッカルダとラケーレにも一度、自室に戻ってもらった。いろいろな懸念があるからだ。

それから、フィリアーネに側近を全員集めてもらった。


「あらあらぁ、クリスティーネ様からのお呼び出しだなんて、どういう要件かしら?」


リーシャは勝気な灰色の瞳をニコリと微笑ませてそう言った。


(……当然、動揺なんかはないわね。流石上級生、と言ったところかしら)


クリスティーネはリーシャに席を勧めた。あくまで、自然に。これくらいはなんてことない。


「リーシャ、貴女にお話があります」

「あら、何かしら?」


リーシャは先程から奇妙なほどに笑っている。


(……絶対にばれない、という自信でもあったのかしら)


「……あら、この状況ですと、まるでわたくしが罪に問われているようにしか見えませんことよ?早めにご用件をおっしゃってくださらなければ、わたくし、緊張で心臓が押しつぶされそうですわ」


眉を震わせてそういうリーシャ。口角は上がったままだが。


(……勘が鋭い)


クリスティーネはそんな心の声は口に出さず、ニコリと微笑んだ。


「……リーシャ、これからの問いに対して、嘘偽りなく答えることを誓えますか?」

「……」

「リーシャ?」


リーシャはニコリと微笑んだまま、何も言わない。典型的な貴族の笑みである。


(……実力行使もあり得るかしら)


「……いいですわ。賭けに乗って差し上げます」


リーシャは、自信満々に笑って、そう言った。

実はラナ。今日はリーシャが寮にいると知っていて、この日を選んでいます。

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