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番外編X.ヤドハロートの復讐計画 ヤドハロート視点

クリスティーネが眠る直前くらいの時系列です。

地の文がかなり多いです、すみません。

 キードゥル94年3月


(あぁ、もう……)


 アイシェの幼馴染――ヤドハロート・クルーズは盛大にため息をついた。

 いくらアイシェの処刑が冤罪である証拠を集めようとしても、全く集まらない。


 エミリエールの領主夫妻につく側の人間が多すぎる。

 まぁ、エミリエールにとっての反逆者となってしまうのは、ヤドハロートの方なのだが。


「アイシェが亡くなってから、もう十一年か……」


 流石に十一年経とうものなら、既に証拠などほぼ残ってはいないのだ。


 ヤドハロートももう二十六だ。両親から、早く嫁を取れ、と圧が掛かっている。幼い頃からアイシェがいい、と決めていたのに今更他の女を見ろと言われても困る。だが、クルーズ家はヤドハロート以外の子供がいないのだ。養子をとることもできるが、父が許さないだろう。ただえさえ、アイシェの側近をやっていたためにクルーズ家は肩身の狭い思いをしているのに、と。


 だが、結婚して行動を制限するのも気が引けるし、アイシェ以外を愛せる気がしないのだ。

 それでも、父は三十代になるまでには嫁を見つけて、強制的に結婚させるだろう。

 それまでに、目的を達成しなければならない。




(……ここまで見つからないのなら、いっそ復讐をすれば……)


 と思ったところで、ヤドハロートは首を振った。

 アイシェが望まないことはやりたくない。


 でも――そうでもしなければ、アイシェの無念が晴らせないのも事実だ。


(復讐、するしかないのだろうか)


 もし、復讐をするとしよう。ヤドハロートは文官だ。武官としての訓練をしているわけではないので、一人で襲撃でもしたところで、城の武官に投獄されるのが落ちだ。


(協力者が要る)


 だが、エミリエール領内で、それは期待できない。もししてくれるとして、元側近仲間のローゼットと、旧メディナ派の極一部だけだ。


 ならば、他領から。エミリエールが潰れた場合に都合がいいのは、ヒサミトラールだろう。

 ノルシュットルも無難ではあるが、エミリエールと仲の良い領地だからこそ、難しい。



 約五十年前、レスティニア王国とヒサミトラールでの戦争で負けたレスティニア王国は、ノルシュットルとエミリエールに分かれている。まだまだレスティニア王国を再建しようとしている者が多い。そのため、ヒサミトラールに対しての嫌がらせは多岐に渡る。


(やはり、ヒサミトラール内に協力者を作るか……)


 もし、復讐が成功した場合、エミリエール内は大混乱に陥るだろう。領主夫妻がお亡くなりになるのだから、当然だ。

 ならば、新しく領主を立てる必要がある。領主教育を受けている人物が最適だろう。だが、次期領主は無理だ。流石に次期領主をエミリエールに引っ張ってくるわけにはいかない。


「ヒサミトラールなら……第二領女のクリスティーネ様か」


 開発魔法――レスツィメーアを作った天才だ。そんな人物が協力してくれるのかは謎だが。

 このとき、クリスティーネがもうすぐ長き眠りにつく――というのをヤドハロートは知らない。


 ◇◆◇


「側近のお話、お受けしたいと思います」

「言っておいて何だが……何故だ? 其方はアイシェの側近だっただろう。其方は私を恨んでいると思っていたのだが」


(その通りですよ、領主サマ)


 ヤドハロートはニコリと微笑んでそう言った。

 実は、ヤドハロートは文官の才を買われ、領主であるトールに側近の打診があった。全て蹴って来たが。


「そんなことは。アイシェ様が、間違っていたことを自覚したのです。あれは、〈呪われた子〉だったのだと」


 ニッコリと微笑んだ裏では、全くそう思っていない。

 正直、言うことすら躊躇われた。だが、そうでもしなければ、この男はヤドハロートを信用するかの天秤にすらかけないだろう。


 トールは少し驚きつつ、頷いた。


「事実だからな。ようやく洗脳が解けたか」


(洗脳されているのは、そちらだと思いますけどね)


「では、ヤドハロート・クルーズ。其方をトール・ロード・エミリエールが側近に命ずる」

「恐悦至極に存じます」


 ヤドハロートは礼をした。正直、アイシェを殺した男に屈するなど、嫌悪感しか湧かないが。


「では、追って書類を渡させる。今日のところは下がって良い」

「それでは、失礼いたします」


 終始笑顔を絶やさず、ヤドハロートはトールの部屋を出た。


 ヤドハロートがトールの側近になったのは、情報を得るためだ。警戒はされるだろうが、トールの予定の把握はできるだろう。


「ヤドハロート?」


 後ろから聞き慣れた声が降って来た。

 元同僚のローゼット・エーデルだ。


「ローゼット、久しぶりだな」

「あぁ、ヤドハロートが城にいるなんて珍しい。何かあったのか?」

「……いろいろ報告したい。この後予定は?」

「仕事は終わったから、飲みにでも行くか?」


 ローゼットの提案に、ヤドハロートは頷く。

 じゃあまた後で、とローゼットとは一旦別れた。


(ローゼットが女ならなぁ。政略結婚するのも楽なのに)


 ヤドハロートはぼんやりそう思った。





 ローゼットと集合したのは、よく行く居酒屋だ。平民街にあるが、貴族もよく通っているらしい。個室なので、秘密の話をするには最適なのだ。


「それで、何だ? 報告って」

「えー、今日よりトール領主の側近になった」

「ハァッ!?」


 急に大声でローゼットは叫ぶ。まぁ、無理もない――のだろうか? うるさいのはやめてほしい。


「いやいやっ、お前断るって――」

「いやー、案外いけた」

「本当かよ」


 ローゼットは呆れつつ、ヤドハロートを見る。


「ハァ、それで? 何がしたいんだよ、お前は?」

「……復讐がしたいんだ」

「……」


 ヤドハロートが静かに言うと、ローゼットも閉口する。


「それは、アイシェ様の望みだと思うか?」

「……それは、どうだろうな。死んだとき、怒られるかも」


 ヤドハロートは寂しげな笑みを浮かべた。


「いいのか、お前は」

「いい。死んでも。アイシェに会えるのなら、本望だ」

「……お前は死ぬなよ」

「なんでお前が決めるんだよ」

「お前には、幸せになってほしいんだ」

「親かよ」

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