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番外編IX.わたくしのことを馬鹿にしない方 ファミリア視点

 キードゥル93年


「……ファミリア、彼女をお茶会に誘いなさい」


(……はい?)


 ファミリアの兄――ファーラレンス・メリアティードに朝の挨拶をした後、すぐさまその言葉を言われた。

 いきなりのことで、頭が理解するのに時間がかかる。


「彼女とはどなたですか?」

「昨日話したでしょう。クリスティーネ・ヒサミトラール様ですよ」


 ファーラレンスにまるで咎めるかのような目で見られる。ファミリアの頭には疑問符しか浮かばない。


(……何故、わたくしがそのような目で見られなければならないのでしょう?)


 昨日、ファーラレンスから話されたヒサミトラールの第二領女――クリスティーネ・ヒサミトラール。ファミリアとは同学年だ。ファーラレンスによると、クリスティーネは研究魔法を開発したと、領主から報告があったらしい。ファミリアはまだ魔法を習っていないので、よく分からないが、凄いというより、あり得ないことなのだそうだ。

 ファミリアはファーラレンスを軽く睨みながら反論します。


「そんなの分かるわけがありません」

「……それで、行くのですか?」


(お兄様は、断ったら徹底的に脅してくるではありませんか)


 疑問形にしたところで、ファミリアに拒否権などないのだ。


「ですが、まぁ、情報が得られれば、お茶会は一度でいいでしょう」

「え? 一度だけでいいのですか?」

「えぇ。害がありそうなのであれば、離れるのが一番ですから。……お菓子作りの話をするのが良いかもしれません」

「お菓子作りですか?」


 一度、ファーラレンスにはお菓子作りをしていると話したときに「領主一族がそんなことをやっているのですか?」と鼻で笑われたのだ。あれは本当に傷ついた。


「えぇ、私のように馬鹿にするような態度をとった者は今後一切近づかない方がいいでしょう」


(お兄様がそれを言うのですか?)


 ファミリアはそれを口に出すのをやめた。言ったら怒られそうだったからだ。その判断は正しかったと言えよう。



 そうして、お茶会の日がやってきた。

 側近によると、女性は華やかで可愛らしいお花や装飾が好きらしい。ファミリアにはよく分からない。ファミリアは、あまりゴテゴテと装飾するより、一つのアクセントでさっぱりしたいタイプなのだ。

 そうして、クリスティーネがファミリアの部屋に入ってくる。


(わぁ、綺麗なお方)


 さらさらのなびく銀髪。整った顔立ち。

 右目は水色、左目は紫色の瞳をしている。


「ごきげんよう。ご足労いただき、ありがとう存じます」


 奇跡的に、噛まずに言葉を発せた。

 とりあえずは一安心だ。


(……クリスティーネ様は、わたくしがお菓子作りをしていると言っても、馬鹿にしたりせず、楽しそうだと言ってくださった……。そこにわたくしが領主一族だから、という建前……というか、心から楽しそうだと言ってくださったような気がします)





「お菓子作りに対して、と言ったのですか? そんなことを言うなんて優等生サマにも驚きですね」

「クリスティーネ様を悪く言わないでくださいませ、お兄様。わたくしの、初めてのお友達なのです」

「おや、そんなことを言うようになったのですね、ファミリア?」


(……わたくし、お兄様には負けたくありません)


 いつも、いつも何においても、負かされてきたのだ。もう、諦めてしまっていた。


(ですが、今はいつも馬鹿にしてくる兄――ファーラレンス・メリアティードに勝ちたい、とそう思うのです)

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