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辺境伯と暗部頭

 辺境伯領主、クラーク・ギネスは婚約者はそっちのけで大量の書類の決済を行なっていた。先代からの事業に成功し、辺境伯領は見違えるほどに発展した。しかし急激な発展は歪みを生み、それの最終的な解決は領主にのしかかってくる。つまりは気が狂うほどに忙しい。これ加えて魔族との国境での小競り合いもある。つまりは半分死にかけている。


「クラーク様!」


 半死半生で仕事をしているクラークの執務室に一人の男が飛び込んできた。


「なんだ騒がしい」

「っは、は。き、きん、禁域が… …」

「まずは落ち着けよトシゾウ、その状態ではなんの報告かわからんぞ。そこに水差しがある。一杯飲め」


 トシゾウと呼ばれたこの男。クラークの幼馴染であり、クラークの影である。常にクラークを守り、クラークの敵となるものを監視し、クラークを守護するものである。


「うぐっングぐ。ふーー」

「落ち着いたか?」

「はいーすんませんっす。あまりの出来事に」

「で、なんの報告だったんだ?」

「禁域と、ご婚約者様に関する」

「禁域!? 婚約者? そこになにが関係あるんだ」


 あまりの驚きにクラークは座っていた椅子から立ち上がり、机上の書類が数枚、宙に舞った。禁域はギネス家の最高機密。現在の辺境伯領が繁栄できている要の部分。先代が賢者に相談し、計画し、自分に引き継がれているその場所に何かあれば辺境伯領は以前の、中央で噂されているような不毛の大地に逆戻りする事になる。


「とりあえず順を追って説明するっす」

「頼む」


 あげた腰を一旦下ろす。


「まず例のご婚約者様が、本日禁域に侵入したっす」

「は?」

「侵入しました」

「丁寧に言わなくても聞こえてる。しかしあそこに侵入できるわけないだろう」


 最高機密なだけあってあそこには賢者が施した厳重な呪いと結界が張り巡らせてある。普通の人間であれば、そこに近づくことは無意識に避けるし、迷って入口に近づいたとしても結界に阻まれて禁域に入ることは絶対にできないはずだ。


「と思うじゃないっすか? 自分も監視しながら禁域の方に向かうなー。でも結界はってあるし、人払いの呪いもかけてあるから偶然かなー? って思いながら後ろを尾けてたんっすけどね」

「止めろよ」

「いや、そこは、なんかすんません。あまりにも自然にてこてことすすんで行くんで」


 ちょっとそのてこてこすすんでいく様が想像できる。実際城の中を案内している最中あの女はてこてこと歩いていた。思っている事を全部口に出しながら。思わず口の端が緩みそうになるのをクラークは引き締めた。


「まあいい。続けろ」

「そのまま監視してたら人払いの呪いなんのその、禁域の結界なんのその、まるでないものかのようにスルッと禁域に入ったんっすよ」

「は?」

「入ったんですよ」

「だから聞こえてる!」

「信じられないでしょう?」


 信じられない。賢者の呪いと結界をものともしないだと。しかもあの禁域に入り込むだと。

 だがあそこには。魔素がーー


「そう。魔素だ! 禁域には魔素が充満しているはずだ! 公爵家の娘は無事なのか!? 普通だったら五分ともたないぞ」

「それが……」

「っダメだったのか!? おい! 医者は呼んだのか!?」


 賢者からの紹介された公爵家の娘が嫁いですぐに急死はまずい! いくら辺境伯領が独立独歩だとはいえ、国家に属している以上、これ以上中央との関係を悪化させるわけにもいかない。しかも賢者の肝入りだ。


「いや、それが全くの無事っす」

「は?」

「全くの無事です」

「しつこいっ!」


 この緊急事態にこの男はなにをふざけている。


「それが原因がまったくわからないんっすが、ご婚約者様、侍女、ペットと全員あの中で動いていたんですよ。自分も禁域には入れないんで観測塔の上から遠眼鏡で監視してたんすが、普通に動いて、普通にじゃれてました」

「そんなわけないだろう。辺境伯領に充満していた全ての魔素があそこに集約されているんだぞ。魔族とてあの魔素量では生きていけないはずだ」

「それがピンピンと」

「もしや、あの女。公爵家の間者などではなく、魔族の特殊工作員かーー」


 ありえる。賢者の紹介とはいえ、あの賢者も完全に信用できる存在ではない。仮に魔族と結託して、存在もしていない公爵家の娘を作り出し、我が領に嫁がせ、内部からの崩壊を狙ったか。


「……いや、それも違うかと」

「なにを根拠にお前はそんな事が言える! 禁域の魔素に只人が耐えられるわけがないだろう。耐えられるとしたらそれは特殊な魔族以外いないだろう。普通の魔族でも耐えられる魔素濃度ではないぞ!」

「それがっすね」

「なんだ。何か根拠があるのか?」

「根拠というか。自分もこの目で見ておきながらあれが現実だったのか幻術だったのかまだわからないんすがね」

「お前にしては珍しい物言いだな」


 この男、おちゃらけた雰囲気に相反して幻術の達人である。そして幻を操る身として、幻を絶対に看破すると豪語している。世の幻術は全てマスターしており、見知らぬ幻術であったとしてもそれの構造はなにかしら既存の影響を受けているためそれが幻術だとわかるという。


「それぐらい常軌を逸していたんで。多分ご主人も言葉だけだったら自分が幻術にかかったと思うと思うっすよ」

「いいから言ってみろ」

「んー」

「早くしろ」

「わかりましたよ。そんなにイライラしないでくださいよ。言うっすよ」


 クラークはトシゾウの言葉に首肯する。


「禁域が完全に浄化されたっす」

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