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39.邪竜、孫と一緒に息子の様子を見に行く【後編】



 一方その頃、リュージはと言うと。


 カルマルコを任せて、リュージは冒険者としての、仕事に出かけていた。


 今日のクエストは森の掃除。


 わき出てくる雑魚モンスターを狩る仕事だ。


「るーちゃん、大丈夫なのでしょうか……?」


 ワイルド・ラビットを狩ったあと、シーラがリュージに尋ねる。


「うん……すっごい心配……」

 

 リュージは剣を腰に納めて、表情を曇らせる。


 倒したワイルド・ラビットがドロップした魔力結晶ドロップアイテムを拾い上げて、腰のポーチにしまう。


「るーちゃんリュージくんがいなくてさみしがってたのです。泣いてて、かわいそう……」


 ぐすん、とシーラが鼻を鳴らす。


 この子は優しい性根をしている。他人の痛みにとても敏感なのだ。


「早く仕事終わらせて、家に帰ろうか」


「はいなのですっ!」


 にぱーっ、と笑うシーラがかわいらしくて、リュージは赤面し、目をそらす。


「ギルドの報告だとあとワイルド・ラビット5体と、ワイルド・ベア1体を倒してきて欲しいみたい」


 モンスターは定期的にわき出る。


 森や洞窟など、魔素ネビュラ・ガスのたまりやすい場所では特に出る。


 だから定期的に、モンスターを狩らないと、その数はどんどんと増えていくのだ。


「じゃ次の獲物を……」


 と、そのときだ。


「ぱぱー」


 と。


 聞き慣れた、平坦な口調。


「えっ!?」


 と思ってそちらを見ると、なんと褐色幼女が、こちらに近づいてくるではないか。


「ぱぱー」

「る、ルコっ!?」


 ぴょんっ、とルコが飛びついてくる。


 リュージは正面から、ルコを抱き留める。

「ぱぱ。ぱぱ。うれしい。また。あえた。うれしい」


 ぬぼっとした表情のまま、ルコがニヘッと笑う。


「るーちゃん、どうしたのですっ?」

「おお。しーら。あえて。うれしい」


 にへーっと、とルコが笑顔を浮かべる。


「いったいどうやって……」


 と、そのときだ。


「ああっと! りゅー君! 申し訳ございません!」


 すんごい笑顔の母が、手を振りながら、こちらに駆けてくるではないか。


 そばまでやってくると、


「んもー。ルコってば困ったものなのですよぅ。りゅー君に会いたいーって、勝手に家を出て行ってしまったのです。で、気付いたここにいたわけですよー」


 イヤー申し訳ねえ! みたいな顔を……まったくせず。


 にっこにこしながら、カルマがそういうじゃないか。


「で、ルコを追いかけて、お母さんもここに来たわけです。こらっ、だめでしょうルコっ! さあ! 家に帰りますよっ!」


 カルマはリュージから、ルコを回収。


「? かるま。おかしい。ここ。いっしょ。きた」


「あーーーーーえっとぉ、ほらダメだってばぁ! りゅー君が迷惑するでしょう! 帰りますよぅ!」


 ルコを抱き留めながら、カルマがその場を後にしようとする。


「やーだー。やーだー。ぱぱ。そば。いいー」


「えー? そうなんですかぁ? それは困ったなぁ。これじゃあ帰れないなぁ」


 母がチラチラ、とリュージを見て言う。


「ルコはりゅー君の側にいたい。しかしルコ、お父さんのお仕事の邪魔をしたいのですか?」


「それ。ない。じゃま。しない」


「そうですかぁ。しかしこの場にいたらりゅー君の仕事の邪魔になってしまいますよ」


「なんと。それ。やだ。じゃま。しない」


「うーん、これは困りましたねぇ。ああっとそうだぁ! ねえねえりゅー君りゅー君っ!」


 うきうきしながら、母が言う。


 ……なんとなく、母の言いたい(やりたい)ことがわかってきた。


「……なに?」


「お母さん、ルコを抱っこして、お二人の冒険についていきます。ああっと! 邪魔をするわけじゃないですよ。そばにいて、ルコがぐずらないよう面倒は見ます。ね、ねっ、それなら冒険についていっても良いでしょう?」


 リュージはルコを見やる。


「るぅ。ぱぱ。じゃましない。かるま。だっこ。おとなしく。する」


「………………うん。わかったよ」


 パアッ……! とルコの表情が明るくなる。そして……母も。


「さありゅー君! あとワイルド・ラビット5体とベアが1体を倒す仕事が残ってますよ! 頑張って!」


 スチャッ、とカルマが映像を記録する魔法道具【記録の水晶】を片手に構える。


 ルコを片手に、逆の手に記録の水晶。


「さあ! ルコのことはお気になさらず! 仕事をほらふぁいとー!」


「…………はい」


 たぶんこの母のことだ。


 ルコをだしにして、息子の冒険を、見に来たのだろう。


 リュージはシーラとともに森を歩く。


「ああっと! ワイルド・ラビットが出てきましたよー! ルコっ、ほらっ、りゅー君が戦いますよ!」


「ぱぱー。がんばー」


「ああっと! りゅー君が華麗にラビットの攻撃を避けた! 見なさいルコ! お母さんの息子、あなたのお父さんの勇士をほら!」


「ぱぱ。すげー」


「ハアアアッ! 息子がシーラと連携してラビットを倒しました! 見た見たねえねえルコっ! お母さんのりゅー君とっても強いでしょう!?」


「ぱぱ。つえー」


 ……なんだ。この。


 羞恥プレイか、何かだろうか。


 リュージの冒険を、母と娘が見ている。


 母が丁寧に、娘に、リュージの活躍を解説してくれる。


「あれはシーラとりゅー君の得意の連携、雷神剣です。【纏う雷】をシーラが出して、それでりゅー君が倒すという連携ですよ」


「ぱぱ。しーら。あざやか。れんけい」


「でっしょー! あなたのお父さんはとってもとっても素敵でちょうすごっく強いんですよー!」


「ぱぱ。つよい。つよい。ぱぱ。むすめ。うれしい」


「ふふっ、強い父をもって、あなたは幸せ者ですねルコ」


「るぅ。しあわせー」


 ……背後で、母と娘が。


 リュージのことを、辱めてくる……。


「あの……ふたりとも」


 リュージは立ち止まり、カルマたちを見やる。


「はいはいなんでしょう?」


「その……もう少し、静かに……ね?」


 娘の面倒を見てくれているカルマに、感謝はしている。


 だからやめてとか、帰ってくれとか、強く言えない。


「委細承知! ルコ、静かにお父さんの活躍を見守りましょうね」


「しー。かるま。うるさい。おしずかに」


 ふたりがうんうん、とうなずく。


 ……結局その日の冒険が終わるまで、ふたりはついてきた。


 母親同伴の冒険者なんて、前代未聞なのに。


 その上、娘同伴の冒険者なんて……と重くため息をつく、リュージであった。

お疲れ様です!


次回も頑張ります。


ではまた!

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