十二話目~宣言~
視聴覚室に戻った俺たちを迎えてくれたのは、寧々さんだった。ルシファーはそれからずっと外で警戒態勢を敷いてくれていたらしく、寧々さんが声をかけると上空から降りてきた。
彼が視聴覚室に足を踏み入れてから、まずはアスモが手土産である本を渡した。
「こちらがご注文の品です。とりあえず、悪魔に関する本は一通り持ってきました」
「よくやった」
言葉とは裏腹に、ルシファーはやや不満気味だ。見かねてか、本を物色していた寧々さんが声をかける。
「どうしましたの、ルシファー?」
「いや、な。小難しい本ばかりだから、退屈しのぎにはなりにくそうだと思ってな」
言われてみれば、確かにそういった類の本は少ない。大抵が専門書。しかも分厚いものだった。
それを聞いたアスモはすぐに踵を返すも、ルシファーが引きとめる。
「よい。それより、他に何か収穫はなかったか?」
「ええ、ベルフェゴールと遭遇しました」
それを聞いたルシファーは驚愕に目を見開いた。が、すぐにきっと眼光を強める。
「なるほど。そうかそうか。ならばなぜ、貴様らは生還できている? 戦った形跡もなさそうだが?」
その問いに、アスモが間髪入れず答えた。
「それは、あちらに戦う気がなかったからです。それに、彼らについていくつかお耳に入れておきたいことがあります」
「言ってみろ」
「一つ。彼らは――いえ、ベルフェゴールはこの学校内を全て見通せる目を持っています。千里眼、と本人は言っておりました。二つ、彼らが言うには、嫉妬を殺したのはサタンたち。そして三つ。彼らはどことも手を組む気がない。しかし、情報の提供だけはいつでも行う……といったところです」
そこまで聞いていたルシファーは途端に皮肉ったように肩を竦めた。
「ふん、あいつらしいことだ。食えんやつよ。それにしても、嫉妬を下したのはやはりサタンたちであったか……厄介だな」
珍しくルシファーは緊張した面持ちを見せていた。それほどサタンという奴はヤバいのか?
「ねぇ、ルシファー。どういうことか説明してくださる?」
寧々さんが問うと、ルシファーはハッと我に返ったように口を開いた。
「うむ。まず、お前らにも聞いてもらいたいことがある。サタンはかなり狡猾な奴だ。それこそ、マモンの比ではない。同様に、その実力もかなり高い。このゲームにおいて多少の制限は付与されているが、それでも強大な力を持った奴だ」
「単純な戦闘力なら、一、二を争うからね」
アスモが合いの手を入れると、ルシファーは静かに頷いた。
「だが、あいつは頭が弱いのが難点だ。つまり、倒すのは不可能ではない。策を十重二十重に張り巡らせれば、必ず勝てる」
「なるほど。まぁ、彼のパートナーも頭がよさそうには見えませんでしたし、何となく想像がつきましたわ」
寧々さんはまだ最初のことを根に持っているのだろう。平然を装っていたが、目の中では炎が燃え上がっていた。
と、そこでルシファーがふと首を傾げる。
「それにしても、ベルゼブブの奴が生き残っているとはな。少し意外だ」
「同感です。よほどうまく身を隠しているか、はたまた逃げる術を持っているということでしょう」
二人は意味深に頷き合っていた。その様子を不可解そうに見守る俺に対して、寧々さんがサッと一冊の本を広げてみせる。そこにはベルゼブブという名前と、説明が書かれていた。
ベルゼブブ――暴食を司る悪魔。イラストは、ハエの絵が添えられている。ひょっとして、これがそのまま歩いているのか? それはちょっと不気味だ。
いや、そんなことはどうでもいい。どうやらこいつは聖書にも出てくるかなり高名な悪魔のようだ。ただ、ルシファーたちはそこまでこいつのことを脅威に感じていないらしい。単に力が弱いのか、それとも争いを好まない性格なのか。それが少しばかり気がかりだった。
そんな折、ふと寧々さんがコンセントの方に目をやった。
「そろそろ時間切れも近いですね……もし何かあったら連絡を下さいまし。どうぞ、こちらに」
そう言って先ほどコンセントから引き抜いたスマホと、ポケットから出したと思わしき一枚の紙をこちらに寄越してきた。どうやらそれが彼女のアドレスらしい。俺は受け取ってすぐ、アドレスを登録する。
「ところで、アスモよ。貴様ならもう気付いておるだろう。ベルゼブブの居場所に」
「ええ、もちろん」
そこでアスモは息を吸い、堂々と言った。
「まず、間違いなく、彼は調理室にいます」
それはつまり、ベルゼブブを襲撃するということを含意していた。




