第11話 超、大、大、大、大スライム
「フライドチキン?
僕の言葉がわかるのか?
スライム王?」
巨大なスライムの体が、ゆっくりと膨らんだ。
少し大きくなった気がする。
それから、彼は首をかしげるように地面を見た。
僕には、はっきりとした幼い声が聞こえた。
「スライム王?
ポグ、言葉わかる?」
スライムは独り言をつぶやいたあと、視線を僕に向けた。
その巨大なスライムの体が上下に揺れて、
僕はかなり緊張した。
完整な文を話せる魔物?
僕が遊んだゲームの中なら、もう中ボス級だ。
「話せるなら、阿福に謝れ!」
「ポグ……話せる?
話す……阿福に謝る?」
巨大スライムは興奮した幼い声を出し、
揺れ方を少し大きくした。
僕は、彼がさらに巨大になった気がした。
僕はごくりと唾を飲み込んだ。
なんだか、状況がおかしくなってきた気がする。
たしか「不戦之約」の効果は、
相手がぶつぶつ独り言を言うことだったはずだ。
でも、それで魔物が言葉を覚えるなんて、さすがに不思議すぎるだろう。
巨大スライムが、ゆっくりと触手を伸ばしてきた。
僕はすぐに法杖を前に構え、
阿福が僕の後ろで叫んだ。
「桃晝、それは法杖であって、
普通の木の棒武器じゃないよ。
法師になりたいなら、法杖を持っても魔法は使えないから!」
阿福が慌てて僕に叫んだ。
僕は法杖を振り、スライムの触手を軽く叩いた。
ポグは涙を流し始めた。
そして触手を引っ込め、「ぷちゅ」と音を立てた。
面倒くさい。
僕には、彼がいったい何をしたいのか、
まったくわからない。
「近づくな!」
「ポグ、近づかない......?」
僕はまた魔杖を何度か振った。
巨大スライムははっきりとした幼い声を出し、
静かにその場で僕たちを見ていた。
膨張は、どうやら止まったらしい。
「そんなふうに振り回さないでよ、
法杖は……僕が借りた物なんだから!」
「わかった、僕は魔法を使うつもりはない。
でも先に法術で爆撃するのはやめてくれ。
君が約束しないなら、返さないからね!」
「えっ? でも、あのスライム……。」
「君、相手の数値とか、
敵意があるかどうかの種類も見えるんだろ?」
「さっき確認したよ。
今のあいつは、感情系の数値もすごく安定してる。」
「じゃあ、
なんでまだ法陣で爆撃しようとしてるんだ?」
僕は宙に浮かぶいくつもの法陣を見た。
どうして、あんなに長く消えずに維持できるんだ?
阿福はぺろっと舌を出した。
僕は視線をそらす彼女の目を、じっと見つめた。
「わかったよ。
法術で爆撃するのはやめる。」
宙に浮かんでいた法陣は
、一つずつ消えていった。
阿福は落ち着いた様子で、僕を見ている。
「まだ発動はしてないけど、
魔力は精霊に渡しちゃったんだ。
じゃないと、また封鎖されるかもしれないし。
えっと、法陣は解除したから……その、
法杖を返してくれる?」
僕は巨大スライムが目を細めるのを見た。
すると、体が急にまた少し大きくなった。
「ポグ、フライドチキン食べたい、
フライドチキン!」
僕がフライドチキンなんて、用意できるわけがない。
でも阿福は、いかにも不服そうな顔をしている。
それでもスライムに謝らせたら、少しは気が済むのだろうか?
「えっと?先に謝れ。
おにぎりを払い落とすのは、よくないからな。」
「ポグ、先に謝る!」
巨大スライムの丸い目が、僕のほうへ向いた。
彼は幼い声を出したあと、体を何度か震わせた。
僕は嬉しくなって、阿福のほうを向いた。
「スライム王が君に謝ったぞ!
おにぎりを壊したこと、許してあげるのか?」
「え?だから、あれはスライム王じゃないってば。
それに私は女神だから、おにぎりみたいな小さなことは気にしないよ。
私が消滅させようとしたのは、脅威を感じたからで……」
「でも、話せるし大きいだろ! うーん……
僕は王っぽいと思う。
じゃあ、おにぎりを壊したことは謝らなくてもいいのか?」
「わかったよ、謝罪は受け入れる。
でも私が女神だから、スライム相手に細かいことを言わないだけだからね。
あと、もう法杖を乱暴に振らないで。
壊れるから!」
僕は法杖を持ち上げて、巨大スライムに向けていた。
阿福の悲鳴を聞いて、慌てて下ろす。
「え? 何が起きたんだ?」
「あの細めた目……眠くなったの?」
巨大スライムは、ゆっくりと球状に縮んでいった。
目を細めたまま、体が規則正しく膨らんでは元に戻り始める。
彼は出入口をふさいでいた。
僕は頭が痛くなってきた。
もうここで、かなり時間を取られている。
太陽も沈む準備を始めていた。
「私の法杖……本当に気をつけてよ!」
僕は近づいて、法杖で何度かつついた。
巨大スライムは、まったく反応しない。
「うわ、いったいどうなってるんだ?」
僕は法杖を阿福に返した。
「活動量の数値を見る限り、
眠っちゃったみたい!」
何だって、眠った?
彼は出入口を丸ごとふさいでいるのに!
花圃は開放された場所だから、抜け道はいくつもある。
それに平日だ。
あの看板に表示されている今日の来客数も、二人だけだった。
僕もさっき少し周囲を見たが、たしかに他の客は見当たらない。
でも、こんな巨大なスライムが出入口をふさいでいる。
もし誰かが訪ねてきたら、騒ぎになるかもしれない。
騒ぎで巨大スライムが目を覚ます。
そして阿福が、敵意ありという大義名分を得て、堂々と爆撃する……。
どう考えても、ろくな結果にならない。
まずは、それを防ぐ方法を考えよう!
「法術で、どこか別の場所に移動させられないのか?」
「彼の体は魔力でいっぱいだから、
移動させる途中で精霊が魔力の衝撃を受けて消えちゃうかもしれないんだ。
優秀な法術使いは、魔力を安定して放出するように教わるけど、
私はあの魔力量を中和して安定させないといけないし、
同時に法陣も維持しないといけない。
そうなると少し難しいし、法術の効果は持続できなかったら消えちゃうんだよ!」
僕は眉をひそめた。
まさか、こっちの精霊がここまで脆いとは思わなかった。
「魔力を安定して放出すれば、法術が持続するのはわかる。
でも、どうして濃すぎる魔力が精霊を傷つけるんだ?
濃いほうが精霊もたくさん使えるんじゃないのか?
そのぶん、もっと威力のある法術が発生するはずだろ?」
「そうだよ。でも精霊が魔力を見た瞬間に吸収しないよう、
予防しなきゃいけないんだ。
一度でも体が耐えきれなくなったら、そのまま消えちゃうから!
え?桃晝、そんなにショックを受けた顔しないでよ!」
僕は頭痛を覚えながら、目の前のスライムを見た。
こっちの奇妙な法術システムは、まだ理解できそうにない。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
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