88 アンバーと来訪者。
『今日から転校生の方が通われる事になりました』
「宜しくお願いします」
ココの倫理観や死生観は、寧ろ単純で分かり易いと思う。
寧ろ僕に向こうが合わなかっただけ。
産まれる場所を間違えただけ。
『では、アンバーさん』
《はい》
『彼女の隣の席をどうぞ』
「はい」
《アンバーと申します、宜しくお願いしますね》
「はい、僕はニア、宜しくね」
《はい》
もう、以前の様に外見を気にしなくて良い。
僕は妖精種のケルピーと妖精の子供に生まれ変わった。
だから人種の好きな外見に変身出来る。
もう劣等感を味合わなくて済む。
『はい、ではアナタは、その隣の席で』
『はい、皆さん、宜しくお願いします』
来訪者と呼ばれる転移者が同時期に転校して来た、けれどどうしてか、その男は大人だった。
良いんだろうか、大人の男が、ココに居て。
《あの、落としましたよ》
『あ、すみません、ありがとうございます』
《いえ》
どうして、僕はこんな所に居るんだろうか。
何度も嫌だと言ったのに。
結局、こんな場所に置かれる事になった。
僕の居場所は、ココしか無いから、と。
『あの、何か』
《本がお好きですか?》
『まぁ、はい』
《なら、もう読みましたか?復讐の罪人》
『はい』
出来るなら、こんな所には居たく無い。
死にたい。
《お邪魔してごめんなさい。今度、もし良かったら、読書会に来てみませんか?》
『ありがとうございます、考えておきます』
《はい、では》
『はい』
隣の隣の席のアンバーは、本当に可愛いと思う。
でも本当なら、僕はココに居ちゃいけない。
僕は、何処にだって居ちゃいけない。
「いつもありがとう、お礼にどうぞ」
《あ、いえ、当たり前の事で》
「それでも、僕にはとっても嬉しかったんだ、受け取って欲しいな」
《あ、はい、お気遣い頂いてすみません》
「良いんだ、単なるお礼だから」
《はい、ありがとうございます》
隣の席の子はとても可愛いのに、謙虚で控え目で大人しい。
けれど子供らしい一面も有る、なのに大人っぽさも有る。
だから僕は直ぐに好きになった。
「名前の通り、本当に綺麗で可愛いね」
琥珀色の髪と目に、小麦色の肌。
いつも可愛い髪型に、可愛いリボン。
《あぁ、どうも、ありがとうございます》
「ううん、コレからも宜しくね、アンバー」
《はい、どうも》
何処の学園に行くかを考える為にも、アンバーの様子を見に来たのですが。
《何処にも、来訪者様がいらっしゃってるんですね》
『どうしましたか』
アンバーは良い子です。
まだ被害が有るとは言い切れないのでしょう。
《ウチにもいらっしゃるんですけど、どうしてか私、気に入られてしまって》
『嫌ですか』
《正直、はい》
『先生は何と言っていますか』
《それが、ただ仲良く、とだけで》
確かに傍観すると決めましたが。
新たな脅威は別です。
『最悪は介入しても宜しいですか』
《はい、すみません、宜しくお願い致します》
友人は守るモノです。
困っていたら手を貸すのが友人です。
アンバーは私の友人です。
『アナタですか、アンバーを困らせているのは』
教室に入って来た見知らぬ真っ白な少女が、コチラへと歩いて来た。
思わず僕の事かと思った。
けど違った。
「こ、困らせるだなんて」
『良い大人が子供に好意を示すのは、どうかと思いますが、困らせる事だとは知りませんでしたか』
「へっ」
『えっ?』
彼が驚くと同時に僕も驚いて声を出してしまった。
ニアも僕と同じく、自分達が大人だと思っているだろう、そう思い込んでいたから。
『何故、アナタまで驚きますか』
『だって、僕も、大人だし』
「も、って、僕は」
『誰ですか、彼の所有者は』
無表情で真っ白い女の子が影に話し掛けると、出て来たのは僕の後見人の悪魔。
グレモリー指導長、監督所から僕をココに連れ出した張本人。
《はい、どうも、2人共に私で御座います》
『コレをどうするつもりでしたか』
《こう、ですね》
グレモリー指導長がニアの肩を軽く押すと、影が倒れる彼を吞み込み。
消し去った。
『なっ』
『何故、ココに暫く留め置いたのですか』
《全ては彼の為、似て非なる純粋な彼の為、違いを分からせる為に》
『僕は、純粋じゃない』
僕は子供にしか興味が湧かない。
だから僕は監督所を出る事を拒んだのに、グレモリー指導長が無理矢理ココに押し込んだ。
関わる事すらも、嫌だったのに。
こんな所に僕を置くなんて。
《いいえ、アナタは関わる事すらしなかった》
『当たり前じゃないですか、僕は大人なんだから』
『では外見が子供なら良いんですか』
『違う、そんなのは間違ってる。他人の中身や外見を気にするなら、自分達だって気にするべきだ。外見がどうだ、中身がどうだ、だなんて。そんな綺麗事を通用させたら、いつか誰かが傷付く』
見た目が大人だから。
中身が大人だったから。
本当なら、両方が大人の相手を選ぶべきだ。
そうしなければ誰かが、誰かの子供が傷付くんだから。
『ではアナタは違うんですか』
『僕は、例え外見が子供になろうとも、中身の僕は大人だ。大人なら、どんな外見だろうとも、子供を守るべきだ』
《そう分かっているのに、アナタはそうなった、何故でしょう》
言い訳にするつもりは無いけれど。
僕の場合は、母親の過保護や、歪んだ接し方だったと思う。
母は、本当に僕を可愛がってくれた。
けど、行き過ぎだった。
常に僕を優先し、常に一緒で、どんな時にも1番に考えてくれていた。
けれど反対に父は厳しくなり、母は更に過保護になったけれど。
単なる仲の良い親子、普通の家庭だ、と思っていた。
けれど、おかしいと気付いたのは、僕に好きな子が出来た時。
僕が家に招いた時だった。
気持ち悪い。
そう言われ僕はフラれた。
その事を母に相談すると、嫉妬したのね、と嬉しそうだった。
僕も、おかしいと気付いた。
それから父に相談したけれど。
もう、自分の子供だとは思えない、だから好きにしろと言われ。
僕は教師に相談した。
でも、少し過保護なだけで、気にし過ぎだと言われた。
そして祖父母は遠い場所に居て。
僕はもう、逃げ場が無かった。
嘘を言って、性的虐待を受けていると通報し、保護して貰った。
好きにしろと言った父は激怒し、母は大泣きした。
裏切った、こんなに大事に育てたのに、裏切るなんて最低だと罵った。
そして施設も、逃げ場にはならなかった。
親とヤッた気持ち悪い奴。
そう言われてハブかれるか、仲間だからと関係を迫って来る奴だけだった。
けど、小さい子達は気にしない。
分からないから気にしない。
でも、いつか気付いて僕から離れる。
親の思いを理解した気がした。
でも、凄く嫌だった。
だから施設を出る年齢になって、僕は寮付きの会社に入った。
子供とは関わらない場所、他人と関わらなくて良い場所へ。
そこで、一生を過ごして。
ずっと1人で生きるつもりだったのに。
何もして無いのに。
こんな酷い地獄に落とされるだなんて思わなかった。
『証明して下さい、単にアナタが歪んだだけなのか、忘れて証明して下さい』
『出来るなら、そんな事が出来るなら僕だってしたい、けど』
『ではして下さい、私は何でも出来ます、叶えます』
《では、お待ちしておりますね。数十年後に、また、お会いましょう》
僕が、最初から大人だったなんて。
ずっと、良い夢が見れていたのに。
「何で、あんな所で戻すなんて」
『いっくん、良かった、目覚めてくれて本当に良かった』
「お母さん、何で」
『勿論、大好きな息子の為に、何処にだって行くのがお母さんだもの』
この気持ち悪い母親から逃げ出す為に、外国にまで行ったのに。
逃げ出したかったのに。
逃げ出せたのに。
また、戻された。
何で。
どうして。
向こうでは、まだ何も悪い事はして無いじゃないか。
「何で、何でだよ!!」
『いっくん、嫌な所は直すわ、だから』
「帰してくれよ!あの世界に帰してくれよ!!」
1人は返され、1人は生まれ変わる事になりました。
《ごめんなさい》
『アンバー、何がですか』
《本当なら、家族に頼るべき所を、ヒナ様に》
『適材適所です、それに私は女王です、コレは私の役目です』
きっとアンバーの家族は、知ったら殺そうとしていたと思います。
しかも異性ですから、どちらも八つ裂きにしていたでしょう。
《ありがとうございます》
『コレは悪魔アミィの目です、暫く観察してから帰って来るそうです』
返された男は母親を殺していました。
お前のせいだ、お前のせいだ、と。
《あぁ》
『確かに歪んでしまうかも知れませんが、その後です、どう生きるかです』
《はい、ですね》
『良いのですか、彼は変わらず小児性愛者のままかも知れません』
《彼はずっと名乗る事も関わろうともしませんでした、成す事を恐れていました、きっと生まれ変わります。生まれ変わって、私の友人になる筈です》
『そうですか』
《はい、本当に、ありがとうございました》
『気にしないで下さい、コレはアンバーの為だけでは有りませんから』
《はい、ですね、でもありがとうございます》
返された男は、ココでもダメなままでした。
例え外見が子供でも、中身が大人で子供が好きはダメです。
少し考えれば分かる筈ですが。
ネネさんの言っていた、転移ハイだったのかも知れません。
『私のお気に入りのアイス屋さんが有ります、一緒に行きませんか』
《はい、是非》
自分がされても嫌では無いからと言って、道徳や規律を乱してはいけません。
秩序は大事です。
維持には秩序、平和には秩序が必要ですから。




