68 学園と教育と兄の職探し。
今日は保護者参観日です。
《お母さん、凄い若くて可愛いかったよねー》
『アレはジュリアとロミオです、親では無いですが保護者です』
「そうなんだー、僕もー」
『そうだったんですね、何故なのでしょう』
「シャナ属とチピトカーム属なんだけど、黒い猟犬だから、全然似て無いからだって」
『精霊種は必ず遺伝子通りになるワケでは無い、と知っている筈ですが』
「うん、でも嫌なんだって、人種を襲う種は嫌なんだって」
《襲わないかもなのにねー》
《けれど、親でも、嫌う権利は有るから》
「ねー」
《まぁ、仕方無いよねー、私もお兄ちゃん嫌いだもーん》
『何故です』
《んー、分かんない、けど嫌いー》
『そんなものですか』
「うん、みたいー」
《血縁を忌避するのは本能が強いから、正しく回避出来ている証拠、らしいけれど》
『あぁ、近親相姦ですね、成程』
《多分、うん》
《あー、お兄ちゃんと結婚は嫌だなー》
「あんまり良く無いんだもんねー」
『ですね』
私は、単に合わなかっただけかも知れません。
でも、世話をしないのはおかしいと思います。
「もう、出来上がったんですか」
《まだ叩き台だが、確認して欲しい》
『口述をタイプして貰ってました、それと関係者を少し口説いていたのでネネさんと一緒に罰を考えたいと思います』
《いや、アレは少し褒めただけで》
「罰の前に、教育が必要そうですね、無難に褒める事と口説くと告白の違いが分かって居なさそうなので」
『私も良く分かりません、一緒に学びましょう』
《はい》
口説かれているのか、告白されているのか、単に褒められているのか。
そうした事とはもう無縁になるのですが、念の為、同席する事にしたんですが。
「良かった、同じで」
《悪かった、すみませんでした》
『何故、どうして、言い寄り魔と同じ事をしてしまうんでしょうか』
《ゲンコナーって何だ》
『妖精種です、黒い目をした蠱惑的な美しい妖精で、影が無くて周囲には常に霧が有ります。そして乙女を誘惑し、衰弱させて死に至らしめる。十字架が効きます』
「せいっ」
《俺に影は有るし霧も無いだろ》
『でも少し血が入っているなら仕方無いです、でも何故でしょう、私が分からない程に薄い筈ですが』
「汚言症、Coprolaliaはご存知でしょうか」
『はい、汚い言葉を言ってしまう症状でしょうか』
「その逆では」
『確かに』
《いや、コレは使い慣れた言葉が先に出るだけの、悪い癖だ》
「治すと、死ぬ呪いに罹っているのでしょうか」
あ、冗談だったんですが、悩んでらっしゃる。
《悪い、八つ当たりの癖だ、善処する》
『期限はいつまでですか』
《一生、出ない様にする》
「ですけど溜め込むのもどうかと、何処かで発散した方が良いのでは」
《アンタ、優し過ぎだな、だから浮気されるんだよ》
「キレ散らかしましょうか」
『何故、優しいと浮気されますか』
《苦悩を誰よりも先に慮ってくれる、それが何でもなら尚更、コッチの事を最優先してくれるんじゃないかと錯覚し。慮られる事が当たり前になる、そうしていつしか調子に乗り、ギリギリから逸脱する》
「調子に乗るな」
『はい、嫌われるのが怖く無いんですか』
《まさか嫌う筈が無いだろう、とも錯覚してる。他はこんなに優しくない、こんなに俺に優しいなら殆どの事は許してくれる筈だ。若しくは俺はこんなに妥協しているんだ、この程度は許せる筈だ。その計算を無意識に無自覚にするもんだから、いきなり答えだけが本人の中に現れる》
「で、答えだけが残り、大丈夫だと思ったと根拠の無い発言をする」
《そして理屈、公式無しに答えだけが有るから、道理が通らない屁理屈を捏ねる事になる》
「無理矢理、答えに合わせる為に、逆算する」
《言うと恥ずかしいだろう部分も抜くからこそ、辻褄が合わなくなる》
「俺様がそう思うワケが無い、と省く」
《分かってるのに、まだダメか》
「ですね、あまりの稚拙さ、幼稚さに戸惑っています」
『ネネさんは、あのウ〇コの事が分かったんですか』
《ウ〇コ》
「かなり、ですがこうなると、かなり心構えが出来ている気がします。本人と会っても、少しは冷静に対処出来そうです」
『良かったです、消化が促された要因は何でしょうか』
「覚悟と安心かと、どう思われますかお兄様」
《分からないは恐怖に直結する、しかも1度傷付けて来た謎の幽霊なら、恐れて当然だ。だが由来は何なのか、目的は何なのか、要するに何故どうしてがある程度は想定の範囲内に収まった。鎌鼬と同じく、誰が何の為にしたのか仮にでも定義付け出来たなら、それはほぼ対処が出来ていると思う》
「ですが、その想定を上回られると」
《また傷付く、更に傷付く事も有るだろうな》
「最大級、ぶっ飛んだ想定は有りませんか」
《まぁ、サイコパスだソシオパスだが想定出来るが、寧ろ向こうで言う発達の未成熟さかも知れないな》
「でも、気配は無かったんですが」
《サイコパスでも同じ事、明らかに分かるのも居れば、上手く擬態しているのも居て当然。アレはあくまでも性質、必ずしも知能が高いとは限らない》
『お兄様はソシオパスやサイコパスですか』
《いや、分かってるだろ、俺には罪悪感も有るし共感性も有る》
『ですけど高いか低いか、多いか少ないかでは、しかも頭が良いなら擬態も出来る筈です』
《いや、俺はそこまででも無い。まだ向こうだと定義が曖昧な部分が有るが、コレがサイコパスかと思った奴が居る、店で働いてた奴だ》
親身な姿勢で真剣に話を聞く、おまけに顔も悪くない。
だから直ぐに人気が出た、そして当然の様に、古い客に態度が悪くなった。
慣れだ甘えだで、大概が売れ始めると雑になる。
けど、そいつの良い訳は少し違った。
「すみません、もう対処が分かったので、飽きたのと我慢が面倒で。どうすれば良いでしょうか」
店では悩みを聞くのが半ば仕事だった。
だから器用で真面目な売れたい奴には、あまり悩みを解消させない様に、程々の不満を抱かせつつも爆発させない様に管理させてたんだが。
ソイツにはまだ指導していなかったのに、既に出来る様になってた。
悩みの本質を理解し、本人より先回りし、コッチが管理出来る立場になる。
コレにはコツが要るんだが、ソイツはもう出来ていた。
何の問題も無い家で育った男が、だ。
出来る奴は家で何かしら問題が有ったか、周りに凄いのが居たかだ。
なのに聞く限りでは、何の問題にも合わず生きてきた男。
観察しなければ生きられなかった。
それには最低でも2種類有る。
観察しなければ痛い目に遭うと知っているか、自分が他とは違うと知っているからか。
「生き上手には、何らかの理由が有る筈」
《そう、で俺は思った、コイツがサイコパスだ》
『それだけでですか』
《まぁ、疑いが確信に変わっていったな》
教えた通りにソイツは実行した。
他なら、多かれ少なかれ罪悪感を抱きそうな事でも、何の疑問もコッチには尋ねずに実行した。
頭が悪いから、思い至らないからじゃない。
そうなのか、で全て流せるからだ。
それに、何よりも客あしらいが恐ろしかった。
他の客の愚痴を敢えて言い、同情と煽りを入れる事が有るんだが、俺よりも上手かった。
偽る事に全く罪悪感が無い、だから疲弊しない。
全ては金の為、人の感情を学ぶ為だけに、店に来ていた。
そして辞める時も綺麗だった。
1本1本、綺麗に終わらせ、最後は良い人間として店を辞め。
少しして店を開いてたよ。
女と、そして程々に繋がりを使って稼いで、子供が出来て安泰。
全く問題を起こさなかったのは、ソイツだけだった。
「怪談を聞いた様な恐ろしさが有るんですが」
《それは理解が及ばないからこそ、ただソイツは問題を回避する為に学びに来た、それだけだ》
『感情を、情動を学ぶ為、ですね』
《似ているけど違う、それは何故か、何処がどう違うのか。確かに本には知識が詰まっているが、完全に再現された本はそうないだろ》
「どう反応するか、どう答えるか」
『悪魔と似ていますね、悪魔も経験が好きですから』
《けどアレは全て計算づく、分かってくれるだろう相手を探し、自身が最も納得出来る位置を作り上げただけだ》
「それが出来たら苦労しないんですが」
《感情の処理には大きな負荷が掛かる、それが無いんだ、計算式も単純で早く出せる》
「乱数が入らない、けれどある程度は正しい計算式が成立する」
『確かに悪魔とは違いますね、より正確な数字を求めていますから』
《そうか、で分かった通り、俺もウ〇コもサイコパスの可能性は低い》
『では何なのでしょうか』
《バカ、だな》
「まぁ、でしょうね」
『もし来たら、少しお兄様にも任せてくれませんか、良い分からせ方が閃くかも知れません』
《是非是非、気に入られるのは困らないしな》
「まぁ、考えておきます。それよりです、コレが完成したら、どうなさるおつもりで」
確かにな。
『対面での対応は如何ですか』
「確かに、ついでに悪しき見本も披露すれば、学びとしてはより身に付くでしょうしね」
《ココでもホストか》
「いえカウンセラーですよ、女性だけに、こんな男は注意しろと見本を見せる」
『それなら口説けて一石二鳥ですね』
《いや、別に口説かなくても問題無いんだが》
「自身の全てを理解していたら失敗はしていない筈、いきなり断つより徐々にが宜しいかと」
『それに手引き書の補正にも使える筈です、抜け漏れを補正してより良い手引き書を作るべきです』
「是非、見学させて下さいね」
『はい、します』
嬉しそうに。
《そこか》
「さぁ、何の事だか」
『どう言う事でしょうか』
「良く分かりませんが、身内に女を口説いている姿を見られるのは、もしかすれば嫌なのかも知れませんね」
『成程、嫌なら償いだと思って下さい、私達は苦では無い筈ですから』
確かに、コイツらには男が苦しむ姿が必要かも知れない。
もしかすれば、全く反省しない両親かも知れないんだしな。
《あぁ、分かった》




