66 贈り物。
良い口実を与えてしまった。
観劇用の衣装を一式、頂いてしまった。
「税」
《そう言うだろうと思って、バートリ陛下に仕事を回して貰って、民間から受け取ったお金だよ》
「皇族が、何をなさって」
《ネネに快く受け取って貰う為に、僕は事務仕事を、レオンハルトは護衛の仕事を受けていたんだよ》
「安全が」
《そこは大丈夫、僕とレオンハルトの仕事場は同じだったし、いざとなれば優先順位をずらす承諾も得ていたからね》
「ちゃんと」
《仕事はしたよ、しかも相場より少しだけ安く》
「何故、そこまで」
《ネネに出来る事は限られてる、だからこそだよ、ネネに何かしたくて堪らないのを我慢してね》
「とんだお気遣いを」
《ネネが愚かで容易かったら無い苦労だけれど、僕らは満足してるよ》
「若干、申し訳無さが」
《それは寧ろ僕らだよ、ネネより上手な事が殆ど無い。料理も洗濯も、ネネより下手で、満足させられるだろう事が殆ど無い》
「そんなに、何かしたいんですか」
《したいけれど、マッサージは求められないし、入浴の手助けも禁じられてるし。不安で堪らないよ、見捨てられるんじゃないか、飽きられるんじゃないかって》
「私、月経時の腰痛以外は特に無いんですよね。しかも、入浴介助は黒蛇さんがかなり上手なので、特に期待もしていない」
《ほらね》
「でも、追々は、頼む事も有るかと思いますが」
《今が不安なんだ、与えないと不安になる》
「成程、だからこそ、詩を贈る文化が残っている」
《ネネ》
「不安になったら、文化や知識に一言添えた小さな手紙を下さい、そして徐々に趣向を凝らして下さい」
《気が付かなかったよ、面白い案だね》
「向こうの女学生は、稀に小さな手紙を回す事が有るので、その程度の文化で有れば違和感無く受け取れるかと」
《けれど、詩は無し》
「読み解く努力を他に回したいので、はい、ですね」
《歩み寄ろうとしてくれてありがとう、本当に、不出来な男達でごめんね》
「いいえ、寧ろ上出来かと。アレは自身も得られる利が無い事は、考えようともしていなかった筈ですから」
少なくとも、こんなにも提案はされなかった。
こんなにも、関わりたいと示されなかった。
《どう痛め付けるか聞かない?》
「少しだけ、1つだけなら」
《ネネの偽者を見せ付けて、先ずは悔しがらせる所から、だね》
「徐々に、ですね」
《勿論、刺激に慣れてしまわない様に加減して、ネネが全く忘れる迄の歳月だけ苦しめる。壊さない様に、慣れない様に、じっくりね》
背中が、何だかピリピリする気がする。
「怒ってますか」
《勿論だよ、例え過去の事でも、大事なネネの事なんだから》
私の事を、一緒に怒ってくれる。
そんな事をしてくれたのは、家族や僅かな友人だけ。
穏やかな人なのだろう、は勘違いだった。
アレは、私に無関心だった。
便利な結婚相手として、妥協の結果、仕方無く付き合っていただけ。
「愛を実感する度、愛されていなかったのだと実感してしまうんですが」
《それも実感させようね、最も酷く、最も最適な状況で》
何をするのか分からない。
けれどルーイ氏なら、確実にしてくれてるだろう、と言う安心感が有る。
「そこは信じてます」
《ありがとうネネ》
名前を呼んでくれる。
こんな事にもお礼を言ってくれる。
アレはきっと、呼び間違い防止の為、名を呼ばなかっただけだろう。
最低限の礼しか無かったのは、敬いすら無かったから。
「任せます、だから早く消して欲しい」
《僕も、任せて》
コチラには非が無い筈が、傷付けられた。
いや、非は有った。
良く受け取り過ぎた、寛容過ぎた、あまりにも望まな過ぎた。
でも、まだ納得は出来無い。
早く腑に落ちて欲しい。
見捨てられる不安は、無いワケでは無いのだから。
『素敵なドレスですね』
「ありがとうございます、観劇用に頂いたんですが、あまり着ないのは勿体無いので見せびらかしに来ました」
『成程』
「はい、ですので贈り物です、どうぞ」
アズールが持って来たのは、白い箱。
中には、ドレスが入っていました。
『貰ってばかりな気がするんですが』
「仲良くしたい気持ちの表れです」
『コレ以上、仲良くなるとは、どの様な』
「あ、違います違います。私なりの大好きですよ、そうした気持ちの表れと、もし何か失敗してしまった場合の保険ですね」
『失敗、ですか』
「万が一にも、意図せず傷付けてしまうかも知れない、けれどそれには害意も悪意も無い事を先んじてお伝えしておきたい。そんな感じです」
少し、チクチクしています。
『罪悪感ですか』
「少し、はい、このドレスの送り主にですね」
『本人に言えませんか』
「言わずとも分かってくれているだろう事が、心苦しくも有りますね」
『それで、何故、私に』
「八つ当たりの逆、ですかね、誰かで償いたい」
『償いは本人にするべきでは』
「ですよね、早くしたいんですが、納得が得られず遅延している次第です」
『分かります、それはもどかしいですね、気を紛らわせたかったのでしょうか』
「約半分はそうですね、もう半分は眺めたい、ですね」
『成程、デザインは大きさによるそうですから、同じモノはネネさんには似合わないですからね』
「まぁ、それも、ですね」
『私も何かあげたいです、保険が欲しいです』
「では先ず、刺繍を頂けますか」
『そんなモノで良いんですか』
「はい、仲の良い者の刺繍は、私にとっては希少ですから」
『後は』
「先ずは刺繍で、私専用でお願いします。その合間に、執事君と今までの贈り物のやり取りを確認し、余剰を計算してから、以降は同数になる様に調整しましょう」
『いっぱいあげるのはダメですか』
「ですね、関係性を鑑みた適量を贈り合う。少し難しい事ですが、お互いの立場を守るには必要な事かと」
「はい、あまりに多くては遠慮を生みますので、適時適量が最適かと」
私には、必要無いと思ったのでしょうか。
保険はいらなかったんでしょうか。
『何故、貰えなかったんでしょうか』
「もしかすれば、何か重要な事柄が隠れているかも知れませんし。意外と、とても単純な事かも知れません、どちらが嫌ですか?」
『分かりません』
「私としては、どちらがどう嫌か言葉に出来る迄は、本当なら知らないで欲しい。言葉にならない思いは、抱えているととても疲れます。だからこそ直ぐに手放せる状態になる迄は、私は知って欲しく無い、言葉は大事ですから」
『今より大変になりますか』
「はい、私は知れば楽になれると思っていました、でも違った。食べ物と同じで、とても消化に時間が掛かっています、今でも」
『だから受け入れられないんですね、まだお腹がいっぱいだから食べたくても食べれない』
「ですね、しかも吐き出す気も私には無い。すっかり忘れて、また同じ思いはしたくないので」
『消化出来る何かは何ですか』
「言葉や行動、期待し過ぎず諦め過ぎない、信頼と実績。ですかね」
『それも、お腹がいっぱいで全部は入りませんか』
「ですね、ちょっとずつ、ですね」
『私も、そうなってしまうかも知れないから、消化器官を鍛えろ。ですね』
「ですね、賢くて助かります」
『先代のお陰です、後で褒められたと伝えておきます』
「ありがとうございます、宜しくお伝え下さい」
『はい、あ、ドレスのお礼がまだでした。ありがとうございます』
「いえいえ、試着して頂ければ結構ですよ」
『はい、着ます、直ぐに』
大好きだから喜んで欲しいです。
ネネさんにも、先代にも。
だから今日から厳選します、あげ過ぎは遠慮されてしまうので。




